いたずらはため息と共に

常森 楽

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5.時間

318.酸いも甘いも

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授業が終わって、穂の席に永那が来た。
眠くて、授業中寝そうになったけど、なんとか持ち堪えた。
永那は相変わらず寝ていて、後ろの穂も船を漕いでいたらしい。
またノートを貸してほしいと頼まれた。
…こうなるって予想して頑張ったから、嬉しい。
どう、お礼してもらおうかな?
いや…もう、お礼は既に受け取ってるか。
逆に、これがあたしからの昨日のお礼かな。
「穂、今日はデート楽しみだね」
「ネットカフェってデートなの?」
「映画観たり、漫画読んだり…楽しいじゃん!」
「映画観たり、漫画読んだり…ね」
穂がジトーッと永那を見る。
あたしと優里、桜が家に行くことは穂には伝えていない。
永那が時間を稼ぐ間に、あたし達はひと足早く穂の家に行って、サプライズの準備を手伝うことになっている。
…それにしても、誕生日なんだからもっとロマンチックなところにでも連れて行ってあげればいいのに。
まあ、明日は土曜日だからデートするらしいし、そこで楽しむのかな。

2人が教室から出て行った後、優里と桜と合流する。
「いきなりでびっくりしたよ~!サプライズするならもっと早く言いなさいよ!永那のバカ!私達にもサプライズしてどうするんだ!」
優里が憤慨している。
「あたしも昨日聞いて、今日渡すプレゼントなかったから、前にもあげたお菓子にしちゃった」
「千陽にもサプライズー!?永那は計画性ゼロだね!」
桜は苦笑している。
「優里は何か買ったの?」
「部活帰りに慌てて買いに行ったよー!部活仲間にも手伝ってもらって、ついでに夜ご飯も食べたんだ」
へへへと優里が笑う。
「リップとハンドクリームにしたんだけど、大丈夫だよね?」
「いいんじゃない?」
「いつも穂ちゃん、薬用リップだから…たまには色付きのもいいかなあ?って」
優里はけっこう気が利く。
あたしも今年の1月の誕生日、プレゼントを貰ったけど、ちょうどイヤホンを失くしたばかりで、イヤホンをくれた。
“千陽なら、もっと良い物を買ったかもしれないけど、予備みたいに使ってくれれば!”と言われた。
イヤホンにこだわりがあるわけじゃないから、今でも愛用している。

穂は、朝から優里に「誕生日おめでとう!」と大声で言われて、クラスの全員から祝われて、それだけで目を潤ませていた。
こんなサプライズ、また泣いちゃうんじゃないの?
昨日を思い出して、口元が緩む。

マンションについて、インターホンを押すと誉がドアを開けてくれた。
「は、初めまして…」
「えっと…森山さん!だよね。初めまして。…みんな来てくれてありがとう!」
「誉~久しぶり~!」
優里が誉を抱きしめる。
「優里、苦しい!」
「ごめんごめん、つい」
あたしは靴を脱いで中に入る。
既に飾り付けがされていて、料理の最中みたいだった。
「わ~!すごい!…私達、やることある?」
「あのね、みんなが来てくれるってこと思い出して、まだ飾り付けが途中なんだ。風船を…膨らませて、飾り付けて欲しいんだよね」
誉がダイニングテーブルに乱雑に置かれた風船を並べる。
…この量を誉ひとりにやらせるつもりだったの?
ホント、バカじゃないの?永那。

「優里は、料理手伝ってくれる?」
「もちろん!なに作ってるの~?」
あたしと桜は椅子に座って、風船を膨らませる。
膨らませるための道具が1つしかないから、桜は顔を真っ赤にしながら、口で空気を入れていた。
それが面白くて、あたしは下唇を噛んで誤魔化そうとする。
…けど、堪えられなくなって笑った。

誉が準備が終わったと永那に連絡したけど、しばらく返事はなかった。
「ネカフェ行って映画観るとか言ってたから、まだ見てる最中なのかも」
あたしは頬杖をついてスマホを見る。
レズビアンのオフ会で出会った人とのメッセージに返事をする。
「俺が一生懸命やってる間にー!もー!…本当は昨日、永那が準備手伝ってくれるはずだったのにさ?みんなで千陽ん行っちゃうから」
「え!?昨日も集まりあったの!?ずる!!なんで私も誘ってくれないの!!」
「優里は部活だったでしょ」
「あー…そうでしたー…」

「あ、永那からだ!今向かうって!!」
誉が慌てて席を立って、無意味にリビングをグルグル回る。
…なんか、穂も同じことやってそう。
「誉!隠れるんでしょ!」
優里が言って「そうだ!」と誉がクラッカーをみんなに手渡す。
電気を消して、あたし達はダイニングテーブルの下に隠れる。
永那が考えたらしいけど、アホっぽい。
…まあ、アホっぽくても穂は喜びそうだけど。
「てか、こんな早くから隠れる必要ある?今から向かうんでしょ?」
あたしが言うと、優里になぜか「シーッ」と怒られた。
「わかんないじゃん!永那のことだから“連絡するの遅くなったけど、まあいっか”ってこともあるはず!」

もっともらしいことを言われたけど、結局インターホンが鳴ったのは、20分後だった。
地味に辛い姿勢…。
誉がスマホを出して、動画を撮り始める。
ガチャとドアが開く音がする。
「あれ?誉ー?」
ちなみにあたし達の靴はしまってある。
「暗いね!」
永那の楽しそうな声。
…穂じゃなかったら絶対バレてるから。
リビングのドアが開く。
パチッと電気がついた瞬間、あたしはダイニングテーブルから出て、予定通りクラッカーの紐を引っ張った。
…のに、桜はテーブルに頭をぶつけるし、優里は「足が痺れた…」と床に転がるし、誉は椅子に躓いて痛がってるしで、グダグダだった。
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