いたずらはため息と共に

常森 楽

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5.時間

307.酸いも甘いも

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穂がご飯を作ってくれる間、永那はあたしの膝枕で寝た。
いいのかな?って思ったけど、穂が微笑んでくれたから、なんだか照れくさかった。
永那の髪を撫でる。
「なんか、千陽にさわられるの…ホント、久しぶりな気がする」
膝枕なんて、初めてだけど。
「好き…」
フフッと永那が笑う。
「それも久しぶり」

「永那…ホントに今日、良かったの?」
「なにが?」
あたしは穂を見る。
忙しそうに料理をしていた。
「永那のことだから、0時ちょうどにお祝いとか…考えてたんじゃないの?」
小声で言う。
「あー…それも考えたんだけど、どっちにしても穂の家だからさ…何も出来ないなって思って」
あたしが頷くと、永那が手を伸ばして、頭を撫でてくれる。
「サンキュー、考えてくれて。…明日はさ、誉とサプライズ考えてんだ」
「へえ」
「お前も来る?」
「いい、の?」
「うん。まあ…夜はちょっと遠慮してもらうけど。泊まってもいいけど、お前は布団な?」
あたしが唇を尖らせると、永那は両眉を上げて鼻の穴を膨らませた。
サルみたいで、プッと笑ってしまう。
「じゃあ…優里も誘おうよ」
「森山さんは?」
永那は桜とほとんど話さないけど、気遣ってくれるのが嬉しい。
「桜にも、聞いてみる」
「うん。優里には私が言うよ」
「わかった」
あたし達はスマホを出して、それぞれに連絡を入れた。

ダイニングテーブルにご飯が並ぶ。
3人で食べるご飯。
大好きな人が作ってくれたご飯。
大好きな2人と食べる、幸せなご飯。
ママと2人のご飯は、いつもお互いにスマホを見ていて、静かだ。
「いただきます」なんて言わないし「ごちそうさま」も言わない。
この前、おばあちゃんの家にひとりで行ってみた。
すごく喜んでくれて“こんなに食べられないよ”ってくらい、手作りのご飯が並んだ。
でもそれが“愛されてる”って思えて、幸せだった。
残りをタッパーに入れてくれて、持ち帰った。
ママは「なにこれ」なんて嫌そうな顔をしたけど、あたしはそれを全部ひとりで食べた。

「3人で入ろうよ」
永那が穂を後ろから抱きしめる。
「む、無理だよ…」
「なんで?修学旅行で入ったじゃん」
お風呂。
あたしの家のお風呂なら、3人でも入れる。
なんとか脱衣所まで穂を連れてきたは良いものの、穂がゴネるから、あたしは永那が説得し終えるのを待つ。
3人分のルームウェアとバスタオルを用意して、椅子に座る。
スマホを見ると『お誘い、ありがとうご。プレゼントは、どんな物が…?』と桜から返事が来ていた。
“ありがとうございます”と打って、慌てて消した痕跡がある。
緩む口元を手で隠す。
『なんでも喜ぶでしょ』
返事をすると『お菓子でも?』とすぐに聞かれる。
『うん』
“了解”の絵文字が送られてくる。

穂が永那の腕の中でくるくる回って、永那からの攻めをかわそうとしている。
…なにやってんの。
あたしは服を脱ぎ始める。
「入るよ」
あたしが言うと、穂の顔が真っ赤なリンゴみたいになる。
永那も脱ぎ始めて、穂が眉間にシワを寄せながら壁を見つめた。
「穂、このままじゃ、私と千陽2人で入ることになっちゃうよ?いいの?」
永那が言うと「もー…!」と怒りながら、穂も服を脱ぐ。

「前にも思ったけど、永那ってアンダーヘア全部剃ってるんだね」
あたしが言うと、永那はわざとらしく下腹部を手で隠す。
「キャッ、見ないで!」
「うざ…」
穂は浴室の隅のほうにしゃがんで頭を洗っている。
「傷ついたー!うざいって言われて傷ついたー!」
そう言って、永那は穂の背中に抱きつく。
「永那ちゃん…!」
「穂は前剃ってくれたのに、最近はしてくれないよねー」
「あれは…!…もう、いい!」
穂が拗ねた。
可愛い。
永那は立ち上がって、体を流す。
「毛があると生理のときさ、蒸れて痒いんだよね」
「ふーん」
「肌弱いから、すぐ痒くなる。剃るのも大変だし、それはそれで痒くなるから、本当は脱毛したいんだけど、金ないからねー。大学生になって、バイトガツガツして金貯めて、やる予定」
「永那ちゃん…肌弱いんだ。知らなかった」
やっと穂があたし達を見て、ニシシと永那が笑う。

中学のときと今回の修学旅行以外で、永那の裸なんて見たこともなかった。
さすがに大浴場でみんながいるなかじっくり見ることもできなかったけど、こうして近くで見ると、初めてわかることがあった。
「永那…これ…」
「ん?」
彼女の太ももの横の辺りに傷痕があった。
そっと触れると、永那が「あー…」と苦笑する。
「お母さんが包丁持って暴れたとき、刺されたんだよ」
穂の目が大きくなる。
…知らなかったんだ。
「まあ、そんな酷くはなかったんだけど…痕になっちゃった」
穂が近づいてきて、永那の傷痕に触れた。
「エロ」
ちょうど穂の顔が永那の下腹部辺りにあって、永那がニヤリと笑う。
「バカ!」
穂はぷいとそっぽを向いて、シャワーで体を流した。

永那はケラケラ笑いながら、湯船に浸かる。
「ハァ」
深く息を吐く。
穂が体を洗い流したのを見て、永那が「穂、おいで」と微笑んだ。
穂は唇を尖らせながら、彼女の足の間におさまるように湯船に入った。
あたしがその様子を眺めていると、永那が笑った。
「千陽もおいで」
サッと体を流して、穂の前に座る。
少し、せまい。
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