206 / 595
4.踏み込む
205.文化祭
しおりを挟む
「穂、昨日、永那と学校まわれたの?」
「あー…忙しくて、無理だった」
「ふーん…永那、穂のこと探してたけど」
「うん、会えたは会えたけど…文化祭らしいことは全然できなかったな…」
「じゃあ、あたしと、楽しも?」
この子は…自分の可愛さを知り尽くしているとしか思えない。
優しく微笑まれて、上目遣いに見られる。
彼女の胸元は、また第二ボタンまで開いていて、それを私の腕に押し付けている。
心臓が、トクトクと鳴る。
「…うん」
通り過ぎる人の視線を物凄く感じた。
でも話しかけてくる人はほとんどいなくて、“生徒会”の腕章が意味を成しているように思えた。
たまに道を聞かれることはあったけど、それだけだった。
「あいつ、絶対あえて道聞いてきた」と、千陽は彼らを睨む。
「まあまあ…」となだめると、「あたし、穂との時間、少しも邪魔されたくないの」と見つめられる。
私は苦笑して、昨日倒れた1年生のオブジェを見た。
「ちゃんと修復できてるね」
「どこが壊れたの?」
「顔のところ、少しへこんで、穴があいちゃってたんだよね」
等身大の恐竜のオブジェ。
倒れないように固定していたのに、固定していた棒がいつの間にか外れていたらしい。
よく見れば、穴があいたところに違和感はあったけれど、パッと見ではわからなかった。
もう行こうかと思ったけど、千陽がジーッと恐竜を見ていたから、彼女を待つ。
…なんか、意外。
彼女を見ていたら「なに?」と聞かれて「なんでもない」と答えた。
その後は、千陽がお化け屋敷に行きたがって、全てのお化け屋敷を見て回った。
「3年生のは凄かったね」
「うん」
反応は薄いけど、千陽の表情は明るかった。
「穂、唐揚げ食べたい」
お昼の時間を少し過ぎたあたりで、まだ飲食系は混んでいた。
でもここで食べないと、この後食べられないから、並んででも食べなければいけない。
一緒に並んで、唐揚げとポテトを2人分注文した。
「…やっぱり、穂の唐揚げが好き」
夏休み、千陽と優里ちゃんが泊まったとき、唐揚げを作ってあげた。
そのときも彼女は反応が薄かったけど、気に入ってくれていたらしい。
「今日の夜、どうしよっか」
スマホでお母さんと誉には、今日千陽の家に泊まることを連絡する。
「遅いから…どこかで食べていく?」
「…穂のご飯、食べたい」
…私も、疲れてるんだけどなあ。
でも、まあ…家にお邪魔するんだし、そのくらいは。
「簡単なものでもいい?」
「うん!」
家にどんな調味料があるのか聞いたけど「何もない」と答えられて、驚愕する。
「ママもパパも、料理しないもん」
その言葉を聞いて、作ってあげたい気持ちが膨れ上がる。
炊飯器と電子レンジ、フライパンはあるとのことで、少しホッとする。
「昔ね、おばあちゃんの家に、よく預けられてたの」
千陽が口を開く。
「おばあちゃんは、手作りのご飯をたくさん作ってくれた。あたし、それがすごく好きだったの。穂と一緒にいるようになって、思い出した」
彼女が、本当に楽しそうに、笑う。
「…今は、おばあちゃんは?」
「ママが、行きたがらないんだよね。べつに、あたし1人で会いに行ってもいいんだけど…忘れてたから…」
へへへと笑う。
“忘れてた”って…千陽らしいと言えば、千陽らしい…のかな?
「今度、行ってみようかな」
「うん、きっと喜ぶよ」
彼女が頷く。
2時前に放送室につく。
千陽は大人しく、仕事をこなしていた。
相変わらず手は握ったままだったけど。
特に大きな問題も起こらず、無事に2日目が終了した。
7時にもなると、大半の生徒が帰っていた。
私達生徒会と文化祭委員は、見回りも兼ねて校内の清掃を手分けして行う。
最後に生徒会室に集まって、私が挨拶して、解散となった。
森山さんの手を引っ張りながら、千陽が私のそばに来た。
「帰ろ?」
森山さんは汗をタラタラ流していた。
「も、森山さん?大丈夫?」
「ははははははい、だだ、大丈夫、だす」
「だす」
プッと千陽が笑って、森山さんはもっと汗をかいた。
「ち、千陽…あんまり無理に絡んじゃだめだよ?」
千陽は首を傾げて、森山さんを見る。
「あたしに話しかけられるの、嫌?」
「いいいいいえ!とんでもござぁません!」
千陽が楽しそうに笑う。
…こんな千陽、初めて見るかも。
しかも、森山さんって…もっと落ち着いている印象があったけど…こんな感じだったかな?
「じゃあ、行こ?」
私の腕に腕を絡めて、千陽が歩き出す。
「森山さんは、千陽の近所に住んでるんだ?」
電車のなかで、森山さんと千陽が同じ小学校、中学校に通っていたことを知らされる。
「ははは、はい」
「だから最近、一緒に帰ってたんだね」
森山さんがコクリと頷く。
「…そしたら、森山さんも、千陽の家に泊まったらいいんじゃない?」
森山さんの目が大きくなり、千陽の目はスッと細まる。
「いいいいえ、わ、わ、私は、おおお、お2人の邪魔には、なりたくないので…!」
「邪魔?…邪魔なんかじゃ」
千陽の視線を感じて彼女を見ると、明らかに怒っていた。
「わ、私は…あの、本当に、いいので」
「そ、そっか。わかった、ごめんね」
「い、いえ…」
「あー…忙しくて、無理だった」
「ふーん…永那、穂のこと探してたけど」
「うん、会えたは会えたけど…文化祭らしいことは全然できなかったな…」
「じゃあ、あたしと、楽しも?」
この子は…自分の可愛さを知り尽くしているとしか思えない。
優しく微笑まれて、上目遣いに見られる。
彼女の胸元は、また第二ボタンまで開いていて、それを私の腕に押し付けている。
心臓が、トクトクと鳴る。
「…うん」
通り過ぎる人の視線を物凄く感じた。
でも話しかけてくる人はほとんどいなくて、“生徒会”の腕章が意味を成しているように思えた。
たまに道を聞かれることはあったけど、それだけだった。
「あいつ、絶対あえて道聞いてきた」と、千陽は彼らを睨む。
「まあまあ…」となだめると、「あたし、穂との時間、少しも邪魔されたくないの」と見つめられる。
私は苦笑して、昨日倒れた1年生のオブジェを見た。
「ちゃんと修復できてるね」
「どこが壊れたの?」
「顔のところ、少しへこんで、穴があいちゃってたんだよね」
等身大の恐竜のオブジェ。
倒れないように固定していたのに、固定していた棒がいつの間にか外れていたらしい。
よく見れば、穴があいたところに違和感はあったけれど、パッと見ではわからなかった。
もう行こうかと思ったけど、千陽がジーッと恐竜を見ていたから、彼女を待つ。
…なんか、意外。
彼女を見ていたら「なに?」と聞かれて「なんでもない」と答えた。
その後は、千陽がお化け屋敷に行きたがって、全てのお化け屋敷を見て回った。
「3年生のは凄かったね」
「うん」
反応は薄いけど、千陽の表情は明るかった。
「穂、唐揚げ食べたい」
お昼の時間を少し過ぎたあたりで、まだ飲食系は混んでいた。
でもここで食べないと、この後食べられないから、並んででも食べなければいけない。
一緒に並んで、唐揚げとポテトを2人分注文した。
「…やっぱり、穂の唐揚げが好き」
夏休み、千陽と優里ちゃんが泊まったとき、唐揚げを作ってあげた。
そのときも彼女は反応が薄かったけど、気に入ってくれていたらしい。
「今日の夜、どうしよっか」
スマホでお母さんと誉には、今日千陽の家に泊まることを連絡する。
「遅いから…どこかで食べていく?」
「…穂のご飯、食べたい」
…私も、疲れてるんだけどなあ。
でも、まあ…家にお邪魔するんだし、そのくらいは。
「簡単なものでもいい?」
「うん!」
家にどんな調味料があるのか聞いたけど「何もない」と答えられて、驚愕する。
「ママもパパも、料理しないもん」
その言葉を聞いて、作ってあげたい気持ちが膨れ上がる。
炊飯器と電子レンジ、フライパンはあるとのことで、少しホッとする。
「昔ね、おばあちゃんの家に、よく預けられてたの」
千陽が口を開く。
「おばあちゃんは、手作りのご飯をたくさん作ってくれた。あたし、それがすごく好きだったの。穂と一緒にいるようになって、思い出した」
彼女が、本当に楽しそうに、笑う。
「…今は、おばあちゃんは?」
「ママが、行きたがらないんだよね。べつに、あたし1人で会いに行ってもいいんだけど…忘れてたから…」
へへへと笑う。
“忘れてた”って…千陽らしいと言えば、千陽らしい…のかな?
「今度、行ってみようかな」
「うん、きっと喜ぶよ」
彼女が頷く。
2時前に放送室につく。
千陽は大人しく、仕事をこなしていた。
相変わらず手は握ったままだったけど。
特に大きな問題も起こらず、無事に2日目が終了した。
7時にもなると、大半の生徒が帰っていた。
私達生徒会と文化祭委員は、見回りも兼ねて校内の清掃を手分けして行う。
最後に生徒会室に集まって、私が挨拶して、解散となった。
森山さんの手を引っ張りながら、千陽が私のそばに来た。
「帰ろ?」
森山さんは汗をタラタラ流していた。
「も、森山さん?大丈夫?」
「ははははははい、だだ、大丈夫、だす」
「だす」
プッと千陽が笑って、森山さんはもっと汗をかいた。
「ち、千陽…あんまり無理に絡んじゃだめだよ?」
千陽は首を傾げて、森山さんを見る。
「あたしに話しかけられるの、嫌?」
「いいいいいえ!とんでもござぁません!」
千陽が楽しそうに笑う。
…こんな千陽、初めて見るかも。
しかも、森山さんって…もっと落ち着いている印象があったけど…こんな感じだったかな?
「じゃあ、行こ?」
私の腕に腕を絡めて、千陽が歩き出す。
「森山さんは、千陽の近所に住んでるんだ?」
電車のなかで、森山さんと千陽が同じ小学校、中学校に通っていたことを知らされる。
「ははは、はい」
「だから最近、一緒に帰ってたんだね」
森山さんがコクリと頷く。
「…そしたら、森山さんも、千陽の家に泊まったらいいんじゃない?」
森山さんの目が大きくなり、千陽の目はスッと細まる。
「いいいいえ、わ、わ、私は、おおお、お2人の邪魔には、なりたくないので…!」
「邪魔?…邪魔なんかじゃ」
千陽の視線を感じて彼女を見ると、明らかに怒っていた。
「わ、私は…あの、本当に、いいので」
「そ、そっか。わかった、ごめんね」
「い、いえ…」
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
170
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる