いたずらはため息と共に

常森 楽

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3.成長

180.まだまだ終わらなかった夏

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「…でも、皮を、捲る?っていうのが…ハァ、あんまり、よくわかんなかった」
「そっか」
「滑りが良くなって、いつもより、気持ち良かったのは…わかる」
私は彼女の頭を撫でて、抱きしめた。
「穂。手、洗いたい」
そう言われて、彼女を離す。
パタパタとキッチンに走って、手を洗って、また小走りに戻ってくる。
そんな、走らなくてもいいのに…と苦笑しつつも、可愛いなと思う。
布団にもぐって、私の胸元にモソモソと寄ってくる。
また彼女を抱きしめると、彼女の手も私の背に回る。
…子供みたい。
千陽のことを深く知らなかったときは…彼女が心を開いてくれる前は、大人っぽいと思っていたけれど。
「穂、好き」
「私も千陽、好きだよ」
ギュッと強く抱きしめられた。
「千陽、永那ちゃんには、こういうことをしようと思わなかったの?」
「永那は…私が抱きしめても、頭を撫でるだけで、それ以上はしてくれない」
「そっか」
“好き”って言ったりしなかったのかな?と聞きたかったのだけど、今は深掘りしなくてもいいだろう。

しばらく彼女の頭を撫でてあげていると、私の腕のなかで、スゥスゥと寝息を立て始めた。
その寝顔が可愛くて、頬にキスを落とす。
そっと腕を外して、私も目を閉じた。
…永那ちゃんは、今、どんな気持ちなんだろう?
1人で泣いてないかな?
明日会ったとき、たくさん抱きしめよう。
2人で部屋にこもって、千陽は誉に任せて。
明日は夏休み、最後の日。
私は永那ちゃんのだから…永那ちゃんが悲しい思いをしているなら、私は永那ちゃんのそばにいたい。

お母さんの準備する音で目を覚ました。
「あー、ごめんね。起こしちゃったね」
隣で寝ていた千陽も、目を擦っていた。
「2人とも、そんなところで寝て…体痛くない?」
「ちょっとだけ…。千陽は?」
「…大丈夫」
まだ眠そうで、目が薄っすらしか開いていない。
「2枚くらい布団買っとかないとね…」
お母さんはコーヒーをゴクゴクと飲みきって、コップをシンクに置いた。
「じゃあ、行ってくるから」
「行ってらっしゃい、気をつけて」
「はーい」
お母さんがバタバタと出て行った。

千陽に服の裾を掴まれて、振り向く。
「おはよ、穂」
「おはよう、千陽」
「して?」
この言い方…可愛すぎて、困る。
私も、永那ちゃんに言ってみようかな?
彼女と口付けを交わす。
頭を撫でて、立ち上がろうとすると、また裾を掴まれた。
「もう一回」
もう一度、今度は少し長めにキスをした。
そのまま抱きしめられて、抱きしめ返す。
頭を撫でて、今度こそ立ち上がる。
布団をクローゼットにしまっていたら、優里ちゃんのアラームが鳴った。
優里ちゃんはアラームを止めて、また寝始めた。
私はベッドに座る。
しばらく彼女を眺めていたけど、起きそうにない。
…起こしたほうがいいのかな?

「穂」
ドアから顔を出す千陽。
「どうしたの?」
ゆっくり近づいてきて、口付けされる。
思わず優里ちゃんを見るけど、彼女はまだ寝ていた。
顎を千陽のほうに向けられ、もう一度重なる。
「…永那が来たら、もう、かまってくれないでしょ?きっと」
そう言われて、胸がトクンと鳴る。
「永那が来るまででいいから…あたしのことも、見て?」
千陽が…こんなに素直に表現してくれるなんて、ちょっと別人を見ているかのような気分になる。
「なに?」
彼女は少し仏頂面になって、私を見る。
「千陽、可愛いね」
そう言うと、頬をピンク色に染めて、俯いた。
右手で左腕をさする。
そのたびに彼女の豊満な胸が揺れる。
(…これ、私だけが見られるんだ)って思うと、背筋がゾクゾクした。
永那ちゃんも、こんな気持ちなのかな。

「優里ちゃん起こさないと」
私は彼女に告げて、優里ちゃんの肩を軽く叩く。
「優里ちゃん、起きなくていいの?部活なんでしょ?…優里ちゃん」
「んぅ?…あと5分…」
時計を見る。
8時から部活が始まると言っていたから、もう起きないとまずいんじゃないかな。
今は7時前だった。
…とりあえず5分だけ待ってみよう。
私は立ち上がって、千陽の手を引いて、キッチンに行った。
「千陽、朝ご飯、パンでいい?」
「うん」
今日も千陽は私のそばで、私のやることを見ていた。
誉が小さかった頃、ちょこちょこ私の後ろについてまわってきたのを思い出す。
「穂…して?」
…こんなに求められたら、私でも、ちょっと理性が崩壊しないか怖くなる。
永那ちゃんなら…本当に暴走しちゃうかも。

私は彼女にキスをする。
彼女が私の首に腕を回す。
彼女の舌が入ってきて、絡む。
…うがいはしたけど、寝起きの口だから、なんか恥ずかしい。
パンが焼けて、私達は離れた。
パンにバターとジャムを塗る。
オレンジを切って、お皿に添える。
「あたし、穂の作るご飯、好き」
…なんか、それみんなに言われるなあ。
こうも言われると、少し自信になる。
朝はパンを焼いてオレンジを切っただけなんだけど…。
「優里ちゃん起こしてくるね」
千陽は頷いて、椅子に座った。
ちゃっかり誉の席に座っていて笑ってしまう。
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