いたずらはため息と共に

常森 楽

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3.成長

165.夏が終わる

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「永那ちゃん、起きて」
唇に唇を重ねる。
疲れているから、寝ている彼女にキスする姿勢が辛い。
「ただいまー!」
誉の元気な声が聞こえてくる。
…頑張って着替えてよかった。
「姉ちゃーん!」
私は「ハァ」とため息をつく。
「おかえり!」
少し大きな声を出す。
永那ちゃんの唇に、舌を這わせる。
彼女が薄く目を開いたから、すぐに離れた。
「おはよ、穂。具合はどう?」
「全身筋肉痛で、辛い」
彼女は口元を綻ばせた。
「姉ちゃん」
誉が顔を出す。
その後ろに佐藤さんが立っていた。
「おかえり。楽しかった?」
「うん!」

永那ちゃんは目を擦りながら起き上がる。
私は体が辛くて、ヘッドボードに寄りかかった。
誉は「手洗ってくる!千陽も行く?」と元気だった。
その元気を分けてほしい。
「穂、相当辛そうだね」
彼女が楽しそうに笑う。
「ひどいよ」
「そう?」
私は目を閉じる。
「もう嫌?ヤりたくない?」
耳元で囁かれる。
「…そんなこと、言ってない」
彼女がフフッと笑った。
「そっか」

誉と佐藤さんが戻ってくる。
2人がベッドに座って、ベッドが沈む。
「姉ちゃん、どうしたの?具合悪い?」
「…ちょっとね」
「風邪引いた?」
「疲れただけ」
「千陽、土曜日泊まったんだよね?」
永那ちゃんの声音が低くなる。
佐藤さんは澄ました顔で「うん」と言った。
「お前、もう絶対穂と2人きりになるの、禁止な?」
「どうして?」
「なんで?」
佐藤さんと誉が同時に聞く。
永那ちゃんの眉間にシワが刻まれる。
「お前、自分が何やったかわかってんだろ?」
「知らない」
佐藤さんは永那ちゃんから目をそらして、私と目が合った。
ニコッと笑われて、ドキッとする。
「千陽、なんかしたの?」
「してないよ?」
誉が首を傾げる。

「あたし、明日も家に来る予定だし、また泊まりたいなあ」
「お前…っ!」
「いいよ?」
誉が永那ちゃんの怒りを無視して言う。
永那ちゃんは何も言えなくなって、項垂れる。
「私、ちょっと疲れてるから、無理…かも」
「どうして家にいたのに疲れてるの?」
佐藤さんは膝に頬杖をついて、まっすぐ私を見る。
誉にも見つめられて、何も言えなくなる。
「もー!…千陽、一緒に帰るよ?」
永那ちゃんが起き上がって、眼鏡をかける。
「腕、組んでもいいなら…帰ってもいいよ?ちゃんと家まで送ってね?」
永那ちゃんが私を見るから、私はただ頷く。
「ハァ」とため息をついて「わかったよ」と頭をポリポリ掻く。
永那ちゃんが私にキスをしてくれた。
ポンポンと頭を撫でて、「今日はここでいいから。また明日ね」と笑みを浮かべた。
「うん、気を付けてね」
2人が部屋から出ていって、後を追うように誉が走った。

誉が戻ってきて「大丈夫?」と聞いてくれる。
「今日はご飯、作れなさそう」
「いいよ、俺作るから」
…頼もしくなったなあ。
「ありがとう。…もう少し、寝るね」
私は寝転がって、布団をかぶる。
布団のなかで、慌てて隠した汗まみれの浴衣がクシャクシャになっていた。
それを軽く畳んで、ベッドの端に置く。
誉がご飯を作り終えて起こしてくれるまで、私は寝続けた。

翌日、永那ちゃんと佐藤さんが来た。
佐藤さんは永那ちゃんの腕に抱きついていた。
私の視線を感じて、永那ちゃんは困ったように笑った。
だから私も笑みを返す。
「おはよ」
挨拶を交わして、2人を中に入れる。
私はまだ筋肉痛が残っていて、歩くのが辛い。
誉が走ってきて、挨拶をする。
すぐに佐藤さんとゲームの話を始めた。
昨日、2人は小規模の遊園地に行ったらしい。
ゲームセンターにも行って、いろいろ遊んだと言っていた。
私は永那ちゃんの手を引いて、ベッドに連れて行く。
彼女が私を抱きしめようとしたけど、頭を撫でて、強引に寝かせた。
筋肉痛の体を抱き枕にされるのは、かなりしんどそうだったから。

誉と佐藤さんがゲームをしている。
私は彼らの横に座って、ローテーブルに肘をついて本を読んだ。
「空井さん」
「なに?」
「昨日は、楽しかった?」
「う、うん。…おかげ、さまで」
「よかった」
彼女の横顔からは、どんな気持ちなのか読み取れない。
しばらくの沈黙がおりて、私は本に視線を戻す。
誉が「トイレ」と立ち上がった。
彼を目で追って、視線を戻すと、目の前に佐藤さんがいた。
「ずるい」
大きな瞳がまっすぐ私を捕らえる。

「あたしも、穂と、シたい。永那とでも、いいけど…」
私はゴクリと唾を飲んだ。
「穂に、さわられた感触が、まだ残ってるの」
彼女が自分の胸をさわる。
「また、さわられたい。…さわって?」
「だ、だめだよ」
「じゃあ、永那にさわってもらえばいい?」
「…だめ」
「じゃあ、やっぱり穂がさわって?」
誉がトイレのドアを開ける音がした。
「む、無理でしょ?」
彼女の目が、私を睨むように細くなる。
「ごめんごめん」
誉が走って戻ってきて、彼女の横に座るから、私は胸を撫で下ろす。
その様子を彼女に見られていて、本で顔を隠した。
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