いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
上 下
148 / 595
3.成長

147.海とか祭りとか

しおりを挟む
「そういえば、千陽?」
弟に目を向ける。
「お祭りさ、浴衣着る?」
「浴衣なんて、持ってない」
「お祭り行くの?」
永那が聞く。
「うん!千陽と2人で行くんだー!」
「ふーん」
永那がニヤニヤしながらあたしを見るから、ため息をついてご飯を食べる。
「俺さ、昨日甚平買ってもらったから着ていくんだけど、千陽も一緒に着ようよ?」
「誉、浴衣ってけっこう高いんだよ?持ってないって言ってるんだから、そんな気軽に誘っちゃだめ」
「えー」
空井さんが叱るように言って、弟が唇を尖らせる。
「いくらなの?」
「えーっと…1番安くても7千円くらいかなあ?…前に5千円くらいのも見た気がするけど、それだと種類がすごく少なかったんだよね」
…7千円って、高いの?普通じゃない?
「べつに、いいよ」
「マジ!?やったー!やっぱ、祭りと言えば浴衣だよね!俺だけ甚平で千陽が服ってのも、微妙だと思ったんだよ」
「無理しないでね?」
空井さんが言うけど、あたしはご飯を口に運んで無視する。

食後、また永那は寝た。
「さ、佐藤さん…そんなに、見ないで」
キスするところを眺めてたら、空井さんが頬を赤らめて言った。
「なんで?」
「恥ずかしい…から…」
「でも、いつもやってることなんでしょ?」
彼女が俯く。
…その姿に、なんかイラついて、気づけばあたしは、俯く彼女の唇に唇を重ねていた。
やわらかい。
すぐに離れて、唇をペロリと舐める。
空井さんが火を吹きそうなほど顔を赤らめて、目を見開いて固まっている。
…なんか、癖になりそう。

「ち、千陽…?」
「なに?」
リビングに戻って、ゲームのコントローラーを持つ。
「え、あれ?…いや、え?…姉ちゃん、動かないよ?」
2人で空井さんを見る。
おかしくて笑えてくる。
「誉」
初めて、彼の名を呼ぶ。
弟の顔も赤くなる。
「キスって、気持ちいいんだね」
もう一度、唇を舐めた。
口元を綻ばせると、弟が俯く。
照れるときの反応が姉弟揃って全く一緒。
「ほら、やろうよ?ゲーム」
「え?…でも」
「早く」
弟は空井さんをチラチラ見ながら、ゲームの電源を入れる。
しばらくして、空井さんは両手を顔で覆って、しゃがみこんでいた。

「ねえ、明日も来ていい?」
弟に聞くと、「うん!もちろん!」と目を輝かせた。
空井さんはずっと部屋の入り口でしゃがんで俯いている。
…何度も永那としてるなら、あたしと1回くらいしても、平気でしょ?
あたしなんて、永那の頬にキスしたことはあるけど、口は初めてなんだから。
そっか。言っちゃえば、これが本当のファーストキスなのか。
空井さんが永那とキスした後に、あたしと空井さんがキスしたんだから、永那との間接キスとも言える。
そう考えたら、ニヤけずにはいられない。
「姉ちゃん、そろそろ、永那を起こさなきゃいけないんじゃないの?」
時計の針は、4時半近くになっていた。
「姉ちゃん?」
弟が、空井さんの肩を揺らす。
あたしはため息をついて、部屋に入る。
永那のほっぺをグイッと引っ張る。
目が開く。
あたしと目が合って、睨まれる。
手を離すと、「いってーよ」と頬をさすった。

「穂は?」
永那はキョロキョロして、すぐそばでしゃがんでいるのを見つけた。
「え!?穂?どうした?」
弟があたしを見る。
あたしはあの感触を思い出して、またニヤけてしまう。
永那が空井さんと弟とあたしを順々に見て、眉間にシワを寄せる。
「え?なに?…何があったの?」
「千陽が…」
永那があたしを睨む。
「なに?…何したの?」
「キスした」
何度か瞬きを繰り返して、「は?」と、全く理解できないみたいな声で言う。
「誰が?誰に?」
「あたしが、空井さんに」
眉間のシワが深くなる。
首を90度近く曲げるから、痛くないのかな?なんて呑気に思う。
「キスって、あんなに気持ちいいんだね」
唇をペロリと舐めると、永那の顔が引きつる。

「お前…!」
「なに?」
「“なに?”じゃないだろ!おかしいだろ!…は?なにやってんの?マジで」
「だって空井さん、あたしのこと、好きなんでしょ?」
「その好きは、友達としての好きだろ!なに…なにキスしてんだよ!え?ほっぺだよね?」
「そんなわけないじゃん」
永那の目の下がピクピクと痙攣して、過去にないほど怒ってるのがわかる。
「永那が呑気に寝てるから悪いんだよ?」
「はあ?意味わかんねえよ!」

「…あ、2人とも…あの、もう…」
空井さんが顔を上げる。
また彼女は前髪を指で梳いて、立ち上がる。
俯きがちに、あたし達を見た。
「あの、事故ということで…」
「事故?…違うけど」
空井さんの顔がまた真っ赤になる。
「ふざけんなよ」
永那に、胸元の服を掴まれる。…乱暴。
「もう、あたしのこと、嫌い?」
手を握りしめる。
「は?…そんな話、してないじゃん」
「じゃあ、どんな話?」
永那の奥歯がギリリと鳴る。
「なにやってんだって言ってんの」
「だからキスだってば」
「だから、なんでだよ!なんで穂にキスする流れになるわけ?」
「…なんとなく」
「なんとなく!?なんとなくキスすんの!?お前」
あたしは笑う。
永那は大きくため息をついて、項垂れた。
服を掴んでいた手はダラリと垂れて、力なくベッドに座り込む。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...