いたずらはため息と共に

常森 楽

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3.成長

140.海とか祭りとか

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永那えなへの感情を消したくて、いろんなイベントに参加してみた。
男は嫌だったから、レズビアンのイベントに、いくつか。
初めてのことばかりで、緊張しっぱなしだった。
けっこうみんな気さくに話しかけてくれて、SNSも教えあった。
あたしはSNSはただ登録しているだけで、何も投稿なんてしていないけど。
何人かからその後メッセージが来て、2人で会ったりもした。
でも、やっぱり永那以外はありえないと思ってしまう。
永那以外ありえないという感情だけが膨れ上がるばかりで、行くはずだったイベントにも、行かなくなった。
家に引きこもって、たまにくるメッセージに返事をして、イベントで出会った人に遊びに誘われても、断るだけ。
こんなことなら、永那に“毎日泣いてる”とか言っておけばよかったかも…なんて、言えるわけのないことを考える。
寂しさばかりが、募っていく。

空井そらいさんの弟も来るという、今回の海。
やたら目をキラキラさせてあたしのことを見てくるから、少しイライラする。
…まあ、下心丸出しの視線よりはマシか。
小6ともなれば、下心丸出しの視線を向けてくるガキもいるから。
新しく買った水着と、去年買った水着を見比べる。
“どうせ意味がないなら”と、胸元が隠れるような水着を選んだ。
でも…寂しい思いをしたし、少しは永那にかまってもらえるかな?なんて、去年の水着を着ようか迷う。
永那は…今年の夏は、毎日のように空井さんの家に遊びに行っていると言っていた。
風邪を引いたのも、空井さんの弟が熱を出してうつったと。
…羨ましい。
あたしでも毎日じゃなかったのに。
優里ゆりが言うように、空井さんの家は居心地が良い。
彼女が教室を掃除したときに心地よさを感じるのと同じように。
あたしも暇だし、遊びに行きたいって言ったら良いって言ってもらえるのかな?とか思ったけど、優里もいないのに、そんなの気まずすぎて無理なのもわかってる。
2人がイチャつく姿なんて、見てられないし。

テスト期間中、1日目で辛すぎて優里を召喚した。
2人が部屋に入ったとき、明らかに何かやっている声が聞こえて、頭痛がした。
隣に座る優里は顔を真っ赤にして「い、いや~、やっとテスト終わるね~」なんて誤魔化していたけど。
部屋を覗いてみれば、永那が空井さんに覆い被さっていて、胸元まではだけていて、呆れた。
空井さんが実はやり手なのか?とも疑ったけど、あの様子では違うんだろう。
…もう、永那の暴走が凄すぎて、ついていけない。
そんな姿を見て諦められると思った。
永那に引いたのは事実だし、心は冷めたのだと思った。
でも、この前のプールのときだって、ちゃんといつも通り守ってくれた。
相変わらず、家まで送ってくれなくても『家帰った?』って、必ずメッセージもくれる。
…その気がないなら、優しくなんてしないでよって思う。
嫌いになれない。
“好き”が、消えない。消えてくれない。

ほんの少しの期待を胸に、去年の水着を着た。
駅につくと、もう永那がいて、その姿に胸が締めつけられる。
千陽ちよ
あたしを呼ぶその声が、好き。
「永那、髪伸びたんじゃない?」
髪に触れると、永那も自分で触れるから、自然と手がぶつかる。
それだけで嬉しいんだから、あたしは重症だ。
「そうなんだよ。そろそろ切らなきゃ」
2人で改札を通って、待ち合わせの電車に乗る。
空井さん、弟、優里の順で座っているから、あたしは当たり前のように優里の隣に座る。
永那は空井さんの隣。
ほんの少し、奥歯を噛みしめる。
「ねえ、千陽。聞いてよ」
「なに?」
たか君さ、私のこと“優里”って呼んだんだけど」
…だからなに?
「“優里”だよ!?呼び捨てだよ!?びっくりしたよ!」
「ごめんてー、つい永那と話してたら、そうなっちゃったんだよー」
「いや、いいよ!?全然いいけど!びっくりしたって話」
永那が笑う。
「千陽も“千陽”だもんね?」
「あ…っ、いや、佐藤さとうさんで…」
「べつに、呼び方なんてどうでもいいんじゃない?」
そうやって言うと、弟は「じゃあ…千陽って呼ぶ」と小声で言った。
「じゃあ私も誉って呼ぶー!」
優里が対抗する。

海について、永那がパラソルを借りてきてくれる。
レジャーシートは優里が持ってきていて、それを敷く。
4人でプールに行ったときは半分にして使ったけど、今回は1枚広げて使う。
あたしはあんまり海に入るつもりもないし、寝転がれるならちょうどいい。
海の家の更衣室で服を脱ぐ。
永那と弟は服を脱ぐだけだから、と、レジャーシートで待機している。
「千陽!?今日その水着なの!?」
優里が言う。
「だめ?」
「だ、だめじゃないけど…またナンパされるんじゃないの?」
「新しく買ったやつでも変わらなかったでしょ?」
空井さんは目を見開いて、少し顔を赤らめていた。
…そんな目で見られたら、ちょっと恥ずかしい。まあ、どうでもいいけど。
これも全部、永那のためだった。
あたしはサングラスをかけて、まとめた荷物を手に持つ。
あたしが歩き出すと、優里も空井さんも慌てて後からついてくる。
更衣室から出れば、サングラス越しにも、視線を感じる。
小さくため息をついた。
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