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3.成長
136.噂
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永那ちゃんがベンチに座る。
私は恥ずかしさで、両手で顔を覆った。
「穂?」
彼女がボリボリと皮膚を掻く。
「永那ちゃんは…それで、“やめろ”って、言ったんだよね?」
「そうだよ」
「…そっかあ」
あの佐藤さんにこんなことされても、永那ちゃんって揺るがないんだ…。すごいな。
永那ちゃんって、物凄く変態だと思っていたし、今だってそう思ってるけど、そこでは揺らがないのか…。
かっこいいな。
「穂?…ごめんね。嫌だったよね」
私は両手をおろして、ため息をつく。
頬を膨らませて、唇を尖らせて、永那ちゃんを睨む。
「もういい」
「え!?」
「もう、いいよ」
「そう、なの?」
私は頷く。
「怒ってるんでしょ?…その、嫌な思いして、傷ついたんでしょ?」
「まあ…でも、これからちゃんと言ってくれればいいよ」
ギュッと抱きしめられる。
「ごめんね」
「永那ちゃん、お腹すいた」
抱きしめたまま永那ちゃんが動かないから、私は口を開く。
バッと手を離して、永那ちゃんが立ち上がる。
「ご飯、食べに行こう」
手を差し出されたから、重ねる。
「穂」
「なに?」
「大好きだよ」
「私も、永那ちゃん、大好き」
2人で笑い合って、歩き出す。
「ねえ、あんなに長い時間、他に何話してたの?」
「ん?んー…私が穂を好きになった理由とか」
「…じゃあ、佐藤さんはあのときから、私達が付き合ってるって知ってたってこと?」
「んー…言おうとしたら“知りたくない”って言われたんだよね。だから、私は言ってないよ?」
…ってことは、やっぱり知ってたってことなんだ。
怖いなあ。
気づいてても、知りたくない…と。
それでテスト期間中に私達と一緒に過ごすんだから、本当に怖い。
「ハァ」と思わず、ため息が出る。
…でも、あれなのかな。
日住君が“諦めるために、最後に浴衣姿を見たかった”と言ったように、佐藤さんもそういうところがあったのかな?
諦めるために、私達の間に割って入った…。
だってその後の、プールのときも、家でみんなで遊んだときも、永那ちゃんにくっついたりしていなかった。
だとすれば、私は…恵まれてるなあ。
本来なら、横から私が永那ちゃんを奪ったような形になってしまったわけで、佐藤さんに怒られてもおかしくない状況だと思う。
嫌味を言われたり、罵倒されたりしても不思議じゃない。
なのに、一緒に遊んでくれてさえいる。
もちろん、私と佐藤さんが2人で遊ぶことは今後もないだろうけど…それでも…楽しく過ごさせてもらっているのが、ありがたい。
私達は公園にある売店の前に立った。
「おだんごある」
「おいしそうだね」
「焼きそば、サンドイッチ、アメリカンドッグ、ポテト、唐揚げ、オニオンリング…んー…どれもいいね」
「たこ焼き、ないね。…あ、永那ちゃん、カレーもあるよ」
「カレーなんぞいらんわ」
おかしくて、フフッと笑う。
「私、カレーにしようかな」
「えー」
「だめ?」
「んー…だめ」
さすが“だめ”を使ってる張本人なだけある。
嫌なときはちゃんと“だめ”って言うんだ。面白い。
「“あーん”できなくなるでしょ?」
「そんなにしたい?」
「うん」
腕を組んで、仁王立ちしている姿も面白い。
仁王立ちしてるのに、話してる内容は“あーん”についてだよ?
私達はおだんご2本、アメリカンドッグとオニオンリングを頼んで、椅子に座った。
「後でかき氷も食べたいな~」
「そうだね」
一緒にお祭りに行けたら、きっとすごく楽しいんだろうなあ…なんて思う。
3時半頃、帰途につく。
「明日、どうする?」
「たぶん、明日もお母さんいると思うんだよね…。お母さんがいてもよければ、家でも大丈夫だけど」
「んー…うん、大丈夫」
「本当?」
「うん」
「エッチはしないよ?」
耳元で囁くと、彼女がニヤニヤする。
「わかってるよ。…本当は穂がしたいんじゃないの?」
私はピョンとジャンプして距離を取る。
…そうだよ。
笑って誤魔化す。
永那ちゃんは察したようで、嬉しそうに笑った。
「…あ、でも。もう今日みたいなのは、しばらくだめ」
「しばらく?…しばらく経ったらヤってもいいんだ」
彼女がニヤリと笑う。
「だ、だめ!やっぱりだめ!」
グッと手を引っ張られて、抱きしめられる。
「楽しみにしてるね」
顎を上げられて、唇が重なる。
すぐに離れてしまうのが名残惜しくて、私からもう一度キスをした。
永那ちゃんはまた嬉しそうに笑って、頭を撫でてくれる。
もうすぐ駅につくというときになって、永那ちゃんが「そういえば」と口を開いた。
「なに?」
「あの、千陽と2人で話したときさ」
「うん?」
「ほっぺにチューされたんだけど」
時が止まる。
「あいつ、それが初めてのキスだったんだって。今までさ、あいつのこと普通に経験豊富だと思ってたから、めっちゃビビったよ」
私が、繋いでいた手を離す。
「なんで気づかなかったんだろー?って、我ながらバカだなーって思ってさ」
私は恥ずかしさで、両手で顔を覆った。
「穂?」
彼女がボリボリと皮膚を掻く。
「永那ちゃんは…それで、“やめろ”って、言ったんだよね?」
「そうだよ」
「…そっかあ」
あの佐藤さんにこんなことされても、永那ちゃんって揺るがないんだ…。すごいな。
永那ちゃんって、物凄く変態だと思っていたし、今だってそう思ってるけど、そこでは揺らがないのか…。
かっこいいな。
「穂?…ごめんね。嫌だったよね」
私は両手をおろして、ため息をつく。
頬を膨らませて、唇を尖らせて、永那ちゃんを睨む。
「もういい」
「え!?」
「もう、いいよ」
「そう、なの?」
私は頷く。
「怒ってるんでしょ?…その、嫌な思いして、傷ついたんでしょ?」
「まあ…でも、これからちゃんと言ってくれればいいよ」
ギュッと抱きしめられる。
「ごめんね」
「永那ちゃん、お腹すいた」
抱きしめたまま永那ちゃんが動かないから、私は口を開く。
バッと手を離して、永那ちゃんが立ち上がる。
「ご飯、食べに行こう」
手を差し出されたから、重ねる。
「穂」
「なに?」
「大好きだよ」
「私も、永那ちゃん、大好き」
2人で笑い合って、歩き出す。
「ねえ、あんなに長い時間、他に何話してたの?」
「ん?んー…私が穂を好きになった理由とか」
「…じゃあ、佐藤さんはあのときから、私達が付き合ってるって知ってたってこと?」
「んー…言おうとしたら“知りたくない”って言われたんだよね。だから、私は言ってないよ?」
…ってことは、やっぱり知ってたってことなんだ。
怖いなあ。
気づいてても、知りたくない…と。
それでテスト期間中に私達と一緒に過ごすんだから、本当に怖い。
「ハァ」と思わず、ため息が出る。
…でも、あれなのかな。
日住君が“諦めるために、最後に浴衣姿を見たかった”と言ったように、佐藤さんもそういうところがあったのかな?
諦めるために、私達の間に割って入った…。
だってその後の、プールのときも、家でみんなで遊んだときも、永那ちゃんにくっついたりしていなかった。
だとすれば、私は…恵まれてるなあ。
本来なら、横から私が永那ちゃんを奪ったような形になってしまったわけで、佐藤さんに怒られてもおかしくない状況だと思う。
嫌味を言われたり、罵倒されたりしても不思議じゃない。
なのに、一緒に遊んでくれてさえいる。
もちろん、私と佐藤さんが2人で遊ぶことは今後もないだろうけど…それでも…楽しく過ごさせてもらっているのが、ありがたい。
私達は公園にある売店の前に立った。
「おだんごある」
「おいしそうだね」
「焼きそば、サンドイッチ、アメリカンドッグ、ポテト、唐揚げ、オニオンリング…んー…どれもいいね」
「たこ焼き、ないね。…あ、永那ちゃん、カレーもあるよ」
「カレーなんぞいらんわ」
おかしくて、フフッと笑う。
「私、カレーにしようかな」
「えー」
「だめ?」
「んー…だめ」
さすが“だめ”を使ってる張本人なだけある。
嫌なときはちゃんと“だめ”って言うんだ。面白い。
「“あーん”できなくなるでしょ?」
「そんなにしたい?」
「うん」
腕を組んで、仁王立ちしている姿も面白い。
仁王立ちしてるのに、話してる内容は“あーん”についてだよ?
私達はおだんご2本、アメリカンドッグとオニオンリングを頼んで、椅子に座った。
「後でかき氷も食べたいな~」
「そうだね」
一緒にお祭りに行けたら、きっとすごく楽しいんだろうなあ…なんて思う。
3時半頃、帰途につく。
「明日、どうする?」
「たぶん、明日もお母さんいると思うんだよね…。お母さんがいてもよければ、家でも大丈夫だけど」
「んー…うん、大丈夫」
「本当?」
「うん」
「エッチはしないよ?」
耳元で囁くと、彼女がニヤニヤする。
「わかってるよ。…本当は穂がしたいんじゃないの?」
私はピョンとジャンプして距離を取る。
…そうだよ。
笑って誤魔化す。
永那ちゃんは察したようで、嬉しそうに笑った。
「…あ、でも。もう今日みたいなのは、しばらくだめ」
「しばらく?…しばらく経ったらヤってもいいんだ」
彼女がニヤリと笑う。
「だ、だめ!やっぱりだめ!」
グッと手を引っ張られて、抱きしめられる。
「楽しみにしてるね」
顎を上げられて、唇が重なる。
すぐに離れてしまうのが名残惜しくて、私からもう一度キスをした。
永那ちゃんはまた嬉しそうに笑って、頭を撫でてくれる。
もうすぐ駅につくというときになって、永那ちゃんが「そういえば」と口を開いた。
「なに?」
「あの、千陽と2人で話したときさ」
「うん?」
「ほっぺにチューされたんだけど」
時が止まる。
「あいつ、それが初めてのキスだったんだって。今までさ、あいつのこと普通に経験豊富だと思ってたから、めっちゃビビったよ」
私が、繋いでいた手を離す。
「なんで気づかなかったんだろー?って、我ながらバカだなーって思ってさ」
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