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2.変化
95.夏休み
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持っていたお茶を落としそうになった。
「永那ちゃん、何言ってるの?」
必死に笑顔を作るけど、さすがに理解が追いつかないし、弟に変なことを吹き込まないでほしい。
「大事なことだよ?」
キョトンとした顔で見られても、私には全く理解ができない。
「それで、誉…どっちがいい?」
永那ちゃんはまた誉の肩を抱いて、何かの作戦を練るように顔を近づける。
いつの間にか“君”がなくなってるし。
「んー…最初は、佐藤さんが綺麗だなって思った」
「うん」
「でも、性格は優里ちゃんかなあ?」
「まあ、そうだな」
「でも、佐藤さんとは全然話したことがないから、佐藤さんの性格がわからなくて」
「なるほど?」
「だから、まだわからない」
「じゃあ次は、積極的に千陽に話しかけなきゃな?」
「話しかけるって、どうやって?佐藤さん、無口じゃん」
2人がリビングのローテーブルの前に座り込んで話しているから、私はその向かいに座る。
のんびりお茶を飲んで、お煎餅に手をつける。
「そうだなあ…あいつは私以外に無愛想だからなあ」
永那ちゃんと誉が真剣に考えている姿が面白くて、私は邪魔しないように静かに笑う。
「例えば、飲み物とか食べ物をあげるところから取っ掛かるか」
「それで?」
「それで、自分のことを話せ。どんな漫画が好きで、どう面白いかとか、どんな食べ物が好きかとか…そういうこと。たぶんあいつは、つまらなさそうにするけど、聞いてくれる」
誉が頷く。
「とにかく適当にいろんなことを話すんだ。あいつは自分のことを聞かれるのを嫌うから」
「わかった。佐藤さんのことを聞かないようにすればいいんだね?」
「それは…また違う。たくさん話して、時間をかけて自分のことを知ってもらってから、ゆっくり、少しずつ相手のことを聞いていくんだ。そしたら話してくれる…はず」
誉は眉間にシワを寄せて頷いている。
…変なことを吹き込まないでほしいと思ったけれど、案外私にも役立つことなのかもしれない。
「あとは…これは優里がいるから使える手段だけど…優里をからかうと、あいつは楽しそうにする」
「え!?優里ちゃんを!?」
「…まあ、誉にはまだ難しいか。慣れたらやってみればいいよ。あいつ、楽しそうに笑うから」
知らなかった。
たしかに、いつも永那ちゃんと佐藤さんは優里ちゃんをからかったり冷たく接したりしている。
優里ちゃんは嘆いていたけれど…3人の関係がそんなふうに成り立っているのだと知ると、微笑ましく思える。
そこで永那ちゃんがあくびをする。
つい、こうして話していると忘れがちになるけれど、永那ちゃんはこの時間、寝る時間なんだった。
「永那ちゃん、少し寝る?」
「え、でも」
「夏休み中、毎日来るならちゃんと寝ないと」
「穂のベッドで寝ていいの?」
永那ちゃんが頬杖をついて、ニヤリと笑う。
「い、いいよ。もちろん」
「じゃあ寝る」
「お昼に起こすね」
私は立ち上がって、部屋に入る。
永那ちゃんがそれに続いて「誉、おやすみ」と笑顔を向けて、誉の返事を聞いてから、ドアを閉めた。
…あれ?
ベッドに押し倒される。
「え?永那ちゃん?」
返事はなく、唇が重なる。
1度離されて、また重なる。
両手の指は絡まって、ギュッと握られる。
何度も、啄むように口づけを交わす。
彼女の舌が私の口内に忍び込む。
舌先が触れ合う程度に絡まって、繊細になった感覚がピリピリと全身を伝う。
唇が離れると、糸を引いた。
艶のある唇を彼女がペロリと舐めて、優しく笑った。
頭を撫でてくれる。
「穂?」
「ん?」
「一緒に寝て?」
「でも」
“ご飯の準備が”と言おうとして、遮られる。
「ちょっとだけでいいから」
永那ちゃんは私に覆い被さった状態で、私の腕を自分の首の後ろに回した。
ゆっくり体を起こしていく。自然と私も起き上がる。
彼女がベッドの上に乗って、布団を捲る。
私もそれに倣って、布団を捲って足を入れた。
彼女が嬉しそうにフフッと笑うから、私も笑う。
一緒に横になると「穂、あっち向いて」と言われた。
永那ちゃんに背を向けると、抱きしめられた。
彼女が私のうなじに顔を擦りつける。
「穂、良い匂い」
「汗、かいてるよ」
「好き」
それからすぐに、彼女の寝息が聞こえ始めた。
私はそっと彼女の腕を退けて、起き上がる。
綺麗な寝顔。
目の下のクマだけが心配で、なるべく寝かせてあげたいと強く思った。
そっと彼女の頬にキスをする。
髪が肩から落ちかけて、慌てて耳にかけた。
カーテンをゆっくり閉める。
「永那ちゃん、何言ってるの?」
必死に笑顔を作るけど、さすがに理解が追いつかないし、弟に変なことを吹き込まないでほしい。
「大事なことだよ?」
キョトンとした顔で見られても、私には全く理解ができない。
「それで、誉…どっちがいい?」
永那ちゃんはまた誉の肩を抱いて、何かの作戦を練るように顔を近づける。
いつの間にか“君”がなくなってるし。
「んー…最初は、佐藤さんが綺麗だなって思った」
「うん」
「でも、性格は優里ちゃんかなあ?」
「まあ、そうだな」
「でも、佐藤さんとは全然話したことがないから、佐藤さんの性格がわからなくて」
「なるほど?」
「だから、まだわからない」
「じゃあ次は、積極的に千陽に話しかけなきゃな?」
「話しかけるって、どうやって?佐藤さん、無口じゃん」
2人がリビングのローテーブルの前に座り込んで話しているから、私はその向かいに座る。
のんびりお茶を飲んで、お煎餅に手をつける。
「そうだなあ…あいつは私以外に無愛想だからなあ」
永那ちゃんと誉が真剣に考えている姿が面白くて、私は邪魔しないように静かに笑う。
「例えば、飲み物とか食べ物をあげるところから取っ掛かるか」
「それで?」
「それで、自分のことを話せ。どんな漫画が好きで、どう面白いかとか、どんな食べ物が好きかとか…そういうこと。たぶんあいつは、つまらなさそうにするけど、聞いてくれる」
誉が頷く。
「とにかく適当にいろんなことを話すんだ。あいつは自分のことを聞かれるのを嫌うから」
「わかった。佐藤さんのことを聞かないようにすればいいんだね?」
「それは…また違う。たくさん話して、時間をかけて自分のことを知ってもらってから、ゆっくり、少しずつ相手のことを聞いていくんだ。そしたら話してくれる…はず」
誉は眉間にシワを寄せて頷いている。
…変なことを吹き込まないでほしいと思ったけれど、案外私にも役立つことなのかもしれない。
「あとは…これは優里がいるから使える手段だけど…優里をからかうと、あいつは楽しそうにする」
「え!?優里ちゃんを!?」
「…まあ、誉にはまだ難しいか。慣れたらやってみればいいよ。あいつ、楽しそうに笑うから」
知らなかった。
たしかに、いつも永那ちゃんと佐藤さんは優里ちゃんをからかったり冷たく接したりしている。
優里ちゃんは嘆いていたけれど…3人の関係がそんなふうに成り立っているのだと知ると、微笑ましく思える。
そこで永那ちゃんがあくびをする。
つい、こうして話していると忘れがちになるけれど、永那ちゃんはこの時間、寝る時間なんだった。
「永那ちゃん、少し寝る?」
「え、でも」
「夏休み中、毎日来るならちゃんと寝ないと」
「穂のベッドで寝ていいの?」
永那ちゃんが頬杖をついて、ニヤリと笑う。
「い、いいよ。もちろん」
「じゃあ寝る」
「お昼に起こすね」
私は立ち上がって、部屋に入る。
永那ちゃんがそれに続いて「誉、おやすみ」と笑顔を向けて、誉の返事を聞いてから、ドアを閉めた。
…あれ?
ベッドに押し倒される。
「え?永那ちゃん?」
返事はなく、唇が重なる。
1度離されて、また重なる。
両手の指は絡まって、ギュッと握られる。
何度も、啄むように口づけを交わす。
彼女の舌が私の口内に忍び込む。
舌先が触れ合う程度に絡まって、繊細になった感覚がピリピリと全身を伝う。
唇が離れると、糸を引いた。
艶のある唇を彼女がペロリと舐めて、優しく笑った。
頭を撫でてくれる。
「穂?」
「ん?」
「一緒に寝て?」
「でも」
“ご飯の準備が”と言おうとして、遮られる。
「ちょっとだけでいいから」
永那ちゃんは私に覆い被さった状態で、私の腕を自分の首の後ろに回した。
ゆっくり体を起こしていく。自然と私も起き上がる。
彼女がベッドの上に乗って、布団を捲る。
私もそれに倣って、布団を捲って足を入れた。
彼女が嬉しそうにフフッと笑うから、私も笑う。
一緒に横になると「穂、あっち向いて」と言われた。
永那ちゃんに背を向けると、抱きしめられた。
彼女が私のうなじに顔を擦りつける。
「穂、良い匂い」
「汗、かいてるよ」
「好き」
それからすぐに、彼女の寝息が聞こえ始めた。
私はそっと彼女の腕を退けて、起き上がる。
綺麗な寝顔。
目の下のクマだけが心配で、なるべく寝かせてあげたいと強く思った。
そっと彼女の頬にキスをする。
髪が肩から落ちかけて、慌てて耳にかけた。
カーテンをゆっくり閉める。
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