いたずらはため息と共に

常森 楽

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2.変化

90.友達

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カラオケを出たのは5時過ぎだった。
「永那ちゃん、時間大丈夫?」
「…うん、まあ。これくらいならギリセーフかな」
半分以上の子達は2次会に突入するらしい。
私は永那ちゃんと一緒に帰る。
「2人ともイチャイチャしすぎー」
優里ちゃんに腕に抱きつかれて、心臓がピクッと跳ねる。
「ホント、永那おかしいんじゃないの?」
佐藤さんの冷たい視線が降り注がれる。
「恋をすると、人はおかしくなるのだよ」
永那ちゃんが腕を組みながら自分で自分に頷いている。
サラリと“恋をしている”と告げていて、私は佐藤さんを見る。
でも彼女は大きくため息をつくだけで、それ以上は何もない。
「永那がバラード歌うなんて初じゃない?」
私の腕に抱きついたまま、優里ちゃんが上目遣いに永那ちゃんを見た。
いつの日からか…2人が家に遊びに来て、喧嘩をした日から、佐藤さんは永那ちゃんに抱きつかなくなった。
口調も刺々しくなって、スマホを眺める時間が長くなった。
永那ちゃんはまるで気にしていないみたいに振る舞っている。

駅でみんなと別れる。
永那ちゃんは家まで送ってくれようとしたけど「“ギリセーフ”な人にそんなことさせられない」と言って断った。
まだ外は明るいし、私はのんびり帰途につく。
風はもう夏のそれで、ジワッと汗が滲む。
ずっと涼しいところにいたからか、余計に暑く感じるのは気のせいだろうか?
セミが鳴いていて、暑さを物語っているようだ。
今年は初めてのことばかりで、心臓が保つのか心配になる。
そっと胸に手を置いて、確かめる。
目を閉じて蘇るのは、嬉しくて楽しいことばかりで…あとは、恥ずかしいことも。
これからもそんな日々が続いてほしいと、心から願った。

月曜日から、テスト返却期間。
最初にテストの返却と解説をする授業があり、本来ならそれが終わっても、終業式まで授業がある日はある。
でも先生が面倒くさがって、授業がなくなることもある。
帰ってはいけないのかもしれないけれど、多くの生徒は帰ってしまう。
とは言え、毎年1、2教科しか減らないから、大方通常通り学校生活を送ることになる。
ちなみに私は1度も帰ったことがない。
一応担任の先生が終わりの挨拶をしに来るから、私は本を読んで過ごしていた。
今回は、永那ちゃんが「一緒に過ごそう」と言っていたから、初めて帰ることになるのかもしれない。

テスト返却がされると、休み時間に毎回優里ちゃんが私の席に来てくれるようになった。
永那ちゃんが起きたときには、永那ちゃんを引っ張ってきてくれる。
そのときには、佐藤さんも来る。
私の席の周りに人が集まるなんて初めてで、気恥ずかしい。
カラオケに参加していたクラスメイトからも普通に話しかけられて、驚きを隠せなかった。
「穂ちゃん…わかってはいたけど、全部90点以上って…。しかもなんで満点が3科目もあるの…?私、自分がミジンコみたいに思えてきた」
「ミ、ミジンコ?」
なぜか優里ちゃんが永那ちゃんのテストも手に持っていて、永那ちゃんは80~90点台だった。
優里ちゃんは50~80点台と、得意科目と不得意科目で点差が開いていた。
佐藤さんは興味なさげにスマホを見ている。
「穂ちゃんのおかげで、数学はなんとか平均点…。初めてだよ!」
そう言って、抱きしめられる。
「よかった」
ポンポンと肩を優しく叩くと、永那ちゃんが膨れっ面になる。
「私も褒めてー」
私の前でしゃがみこむから、仕方なく頭を撫でてあげる。…なんか、ちょっとペットみたい。

水曜日、授業が1時間だけ削られた。
「一緒に過ごそう」と言っていた肝心の永那ちゃんは眠っている。
優里ちゃんがやって来る。
「穂ちゃん。穂ちゃんはこのまま残る?」
「どこか行くの?」
「んー、特に何も考えてないんだけど…。例えば、もし良ければ穂ちゃんの家にみんなで行って、ゲームするとか!どうかな?」
ゲームは誉に付き合わされてやる程度で、私自身はほとんどやらない。
トランプとかもあるから、それでもいいのかもしれない。
「私の家でもいいんだけど…お母さんがいるからなあ。それでも良ければオッケー!」
テスト返却期間中、部活動は普通に行われる。
バドミントン部は活動日が月、火、木、土(隔週)らしく、ちょうど今日は部活がないらしい。
「私の家で大丈夫だよ」
そう言うと、優里ちゃんの表情がパッと明るくなる。
佐藤さんを誘って、永那ちゃんのそばに行く。

「うーん、どうやって起こすか」
「あれ?前にやってた地震は?」
「あれはあんまり連発すると反応しなくなるんだよ。怒られるし」
優里ちゃんが困ったように笑う。
「空井さんは永那を起こすの、得意でしょ?」
佐藤さんがスマホを眺めながら言う。
「え!?そうなの!?…穂ちゃんはなんでもできるんだなあ」
そんなに感心されても…。
私は苦笑する。
しかも私の起こし方は、あまり人前ではできない。
恥ずかしくて、私が私をたもてなくなる。
それでも優里ちゃんに期待の眼差しを向けられると、逃げられないのだと覚悟を決めるしかなかった。

「永那ちゃん、起きて」
肩を優しく叩くけど、当然彼女は起きない。
今は周りにたくさん人がいるし、彼女の足に触れることもできないし、耳元で囁くなんてもってのほかだ。
私にはバリエーションなんてものはなくて、それ以外に案が思い浮かばない。
思わずため息をついて、口を結んでしまう。
ふと、彼女の白くて細い腕が目に入る。
夏だからブレザーを着用する必要はないけれど、エアコンの風が当たって寒いからと、永那ちゃんは布団代わりにブレザーを着てきている。
たまに外でも着ているから暑くないのかな?と思うけど、本人はあまり気にしていなさそうだった。
でも今日は珍しく背もたれにブレザーがかかっていた。
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