いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
上 下
87 / 595
2.変化

87.友達

しおりを挟む
「穂ちゃん、おかえり~」
優里ちゃんが困ったような笑顔を浮かべる。
「…ただいま」
小さく、モゴモゴと返事をするのが精一杯だった。
永那ちゃんはご機嫌そうに誉の席に座る。
「おつかれさま」
優里ちゃんが言う。
…なにが!?
顔の熱がどんどん増していく。
本当に、どんな顔をすればいいの…。
顔をそらすように時計を見ると、2時半だった。
「明日は生物と英語だけだから、少し気が楽だね。やっと最終日~」
英語のテストは2回ある。授業科目が分けられているからだ。
優里ちゃんは伸びをして、生物の教科書とノートを取り出す。
生物は理系だけれど、暗記することが多いから、優里ちゃんにとってもそこまで苦手意識はないらしい。

「ねえ、明日どうするの?」
珍しく佐藤さんが話題を振る。
「あたしは、永那と空井さんがまたあんなこと・・・・・をするなら、遠慮するけど。見たくもないし…聞きたくも、ない」
優里ちゃんのおかげで少し落ち着いてきた私の体が、ボッと火照って、汗が滲む。
“聞きたくもない”という言葉に、どんどん頭が重くなっていく。
体がズルズルと落ちていって、机の下でうずくまる。
「千陽が、今日来たいって言ったんでしょ?」
永那ちゃんが、謎の対抗をする。
…もういいよ、やめて。
泣きたくなる。
「私は“我慢しない”って言ったよね?」
佐藤さんがため息をつく。
「ソーデスネ」
「まあまあ、2人とも、落ち着いて」
優里ちゃんが椅子を引く。
「おーい、穂ちゃーん。戻っておいでー」
ガンッと何かがぶつかる音がして顔を上げると、優里ちゃんが机に頭をぶつけていた。
「いったー」
へへへと笑いながら、四つん這いになって、私のそばに来てくれる。
「よしよし」
頭を撫でてくれる手つきが優しくて、本当に涙が出てきそうだ。
「自分が、恥ずかしい」
呟くと、優里ちゃんが「アハハ」と笑いながら、優しく頭を撫で続けてくれる。

「明日はどーせ、みんなに誘われるんじゃない?」
永那ちゃんがため息をつきながら言う。
「空井さんはいつもそういうのには参加しないけど、今回は参加するの?」
「わかんないって」
「ふーん」
「穂ちゃん、参加したらいいのに」
そばにいた優里ちゃんが微笑んでくれる。
「私がいたら、みんなの楽しい雰囲気を壊してしまうから」
優里ちゃんの顔がクシャクシャになっていく。
「え!?」
「そんなこと…そんなことないよぉ」
涙をポロポロ零す。
ギュッと抱きしめられる。
…私、机の下で何してるんだっけ?
「私が穂ちゃんのそばにちゃんといるから!大丈夫だから!」
「え?…あ、うん。ありがとう」
私は苦笑しつつも、心がふわふわする。

「あ゙?優里、穂の隣は私なんだけど?」
「隣は1つじゃないでしょー」
永那ちゃんが机の下を覗き込む。
優里ちゃんがくしくしと目元を拭う。
佐藤さんまでもがひょっこりと顔を見せてくれる。
「なんで優里、泣いてるの?」
「穂ちゃんの健気さが千陽にはわかんないの?」
優里ちゃんが頰を膨らませる。
七面鳥のようにコロコロと表情を変える優里ちゃんに思わず笑う。
永那ちゃんがモソモソと机の下に入ってくる。
「おりゃ」
優里ちゃんに抱かれる私を、優里ちゃんごと抱きしめる永那ちゃん。
「わー!」
優里ちゃんが楽しそうに笑って尻もちをつく。
私達の様子を、冷めた目で眺める佐藤さん。
ため息をつくけど、椅子からおりてしゃがみこんだ。
「千陽は来ないのー?」
優里ちゃんが笑いながら言う。
永那ちゃんが左手を伸ばして、佐藤さんを誘う。
彼女は唇を尖らせながら、ちょこちょことやって来て、永那ちゃんの腕におさまった。
「雨宿り~」
永那ちゃんがみんなを抱きしめながら、そんなことを言う。
「なにバカなこと言ってるの?」
優里ちゃんが言う。
「はー?」
永那ちゃんが目を細めて優里ちゃんを睨む。
なんだかんだあるけど、みんな仲がいいんだなと思わされる。
…そこに私がいるのが不思議で、自然と笑みが溢れた。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...