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2.変化
46.初めて
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目が覚めると、6時半頃にメッセージが届いていた。
『行きたい!!!土曜日でもいいかな?』
誘ってよかった。
カーテンを開けて、目一杯日光を浴びる。
安心感と喜びと、楽しみな気持ちで、心が躍る。
『大丈夫だよ』
返事をすると『夕方には帰らなきゃいけないんだけど…また午前中に集合でもいい?』
『うん、9時頃なら大丈夫だよ』
『わかった、楽しみにしてるね』
学校ではなかなか話せないけど、こうして休日だけでも2人きりの時間がつくれるのが嬉しい。
朝ご飯を食べて、学校に向かった。
永那ちゃんと佐藤さんが学校につくのは早い。
永那ちゃんが夜寝ていないから、きっと待ち合わせも早いのだろう。
私が学校につく時間には既に永那ちゃんは寝ている。
そう考えると、最初の海のデートのときも、この前の公園のデートも、相当無理をさせてしまっていたのかもしれないと思う。
体育祭のときもずっと起きていたし、彼女の体が心配になる。
今度2人になれたとき、ちゃんとお母さんのことを聞かなきゃ。
そう決意をしながら、寝ている永那ちゃんの髪を撫でている佐藤さんを見て、モヤっとする。
“私の穂”と永那ちゃんは言ってくれた。
でも、それなら、“私の永那ちゃん”でもある。
佐藤さんは、永那ちゃんの隣の席に座っている友達と話している。
当たり前のように永那ちゃんの机に座って、足を組んでいる。
机は座る物じゃないし、あんなにスカートを短くしていたら下着が見えてしまいそうだし、そういうところも注意したくなってしまう。
「ハァ」と大きくため息をつく。
教室を眺めると、何人かは期末テストに向けて勉強をしていた。
前までの私なら、彼ら彼女らと同じように勉強をしていただろう。
ついチラリと佐藤さんに目を遣って、机に突っ伏した。
またため息が溢れる。
朝“休日だけでも2人きりの時間がつくれるのが嬉しい”と思っていたのに、その気持ちが薄れていく。
どうして私が永那ちゃんのそばにいられないんだろう?
永那ちゃんにつけられた首筋の痕をさする。
我慢ならなくなって、立ち上がろうと足に力が入る。
でも、金曜日の二の舞いになって、永那ちゃんの睡眠時間を削ることになるのも嫌だと思い、力が抜ける。
結局、チャイムだけが私の味方で、佐藤さんと永那ちゃんを引き離してくれるのだった。
水曜日、窓際の自席で勉強をしていたら、ふいに視線を感じた。
顔を上げると、目の前に永那ちゃんが座っていた。
どういうことかわからず瞬きすると、椅子の背もたれに頬杖をつく永那ちゃん。
「穂、ノート貸して」
「え?」
手元にあるルーズリーフを見つめて、差し出そうとすると、止められる。
「私のためにまとめてくれたやつ。続きがほしいんだけど」
「…ああ。あれから、作ってないや。でも、すぐ作るね」
「迷惑じゃない?」
「全然。自分のためにもなるし」
「よかった。ありがと」
優しく微笑まれる。
外の空気が吸いたくて、窓を少し開けていた。窓のすき間から風が吹いて、私の髪がなびく。
なびいた髪のすき間から彼女の微笑みが見えて、胸がギュゥッと締め付けられた。
永那ちゃんの手が伸びてきて、耳に髪をかけてくれる。
「ありがとう」
「永那~」
幸せな時間を裂くように、佐藤さんがそばに来る。
「次の英語の宿題やってないんでしょ?早く写しちゃって」
佐藤さんと目が合う。
酷く冷たい視線に目をそらしそうになるけど、グッと堪えて見つめ返す。
佐藤さんが永那ちゃんに視線を戻して、ホッとする。
「おー、そうだった。…じゃあ、穂。待ってるね」
「うん」
佐藤さんが永那ちゃんの腕に絡む。
「期末終わったらどっかデートしよ?」
その言葉に胸がズキズキと痛む。
睨むように2人の後ろ姿を見た。
永那ちゃんは「えー、どうしよっかなー」と呑気に答えていて、私は下唇を噛んだ。
(ハッキリ断ってよ)
わがままな自分が顔を出す。
前の席の子がトイレから戻ってきて、席についた。
その子の背を睨むように見て、俯いた。
放課後、まとめたルーズリーフを、寝ている永那ちゃんの机に置いた。
彼女の髪を撫でたくなって、手を空中で彷徨わせ、結局触れることもしないで手をおろした。
掃除当番のクラスメイト達が、永那ちゃんの机を避けて掃除する。
足元を見ると、彼女の机の足がホコリを噛んでいた。
「ハァ」とため息をつくと、永那ちゃんが目を覚ました。
私はびっくりして、一歩引いた。
「穂?」
寝ぼけ眼で見つめられて、心臓が跳ねた。
ニコッと笑う彼女が愛しい。
「どうした?」
そう聞いて、彼女は机に乗っている紙に気づく。
「あ!…早いね。ありがとう」
彼女はパラパラと紙をめくって、鞄にしまう。
「ねえ、一緒に帰る?」
上目遣いにそう言われて、鼓動が速まる。
私が頷くと、彼女は椅子をひっくり返して机に乗せ、教室の端に寄せた。
最初に彼女と話したときと同じ。私の足元にはホコリが残った。
でも今日、私がそれを箒で掃くことはない。
ふいに手にぬくもりを感じる。
彼女の手が重なっていた。
教室には掃除をしているクラスメイトがいる。
恥ずかしくなって、一気に顔に熱をおびた。
でも嬉しくて、握り返す。
彼女が微笑んで、歩き出す。
『行きたい!!!土曜日でもいいかな?』
誘ってよかった。
カーテンを開けて、目一杯日光を浴びる。
安心感と喜びと、楽しみな気持ちで、心が躍る。
『大丈夫だよ』
返事をすると『夕方には帰らなきゃいけないんだけど…また午前中に集合でもいい?』
『うん、9時頃なら大丈夫だよ』
『わかった、楽しみにしてるね』
学校ではなかなか話せないけど、こうして休日だけでも2人きりの時間がつくれるのが嬉しい。
朝ご飯を食べて、学校に向かった。
永那ちゃんと佐藤さんが学校につくのは早い。
永那ちゃんが夜寝ていないから、きっと待ち合わせも早いのだろう。
私が学校につく時間には既に永那ちゃんは寝ている。
そう考えると、最初の海のデートのときも、この前の公園のデートも、相当無理をさせてしまっていたのかもしれないと思う。
体育祭のときもずっと起きていたし、彼女の体が心配になる。
今度2人になれたとき、ちゃんとお母さんのことを聞かなきゃ。
そう決意をしながら、寝ている永那ちゃんの髪を撫でている佐藤さんを見て、モヤっとする。
“私の穂”と永那ちゃんは言ってくれた。
でも、それなら、“私の永那ちゃん”でもある。
佐藤さんは、永那ちゃんの隣の席に座っている友達と話している。
当たり前のように永那ちゃんの机に座って、足を組んでいる。
机は座る物じゃないし、あんなにスカートを短くしていたら下着が見えてしまいそうだし、そういうところも注意したくなってしまう。
「ハァ」と大きくため息をつく。
教室を眺めると、何人かは期末テストに向けて勉強をしていた。
前までの私なら、彼ら彼女らと同じように勉強をしていただろう。
ついチラリと佐藤さんに目を遣って、机に突っ伏した。
またため息が溢れる。
朝“休日だけでも2人きりの時間がつくれるのが嬉しい”と思っていたのに、その気持ちが薄れていく。
どうして私が永那ちゃんのそばにいられないんだろう?
永那ちゃんにつけられた首筋の痕をさする。
我慢ならなくなって、立ち上がろうと足に力が入る。
でも、金曜日の二の舞いになって、永那ちゃんの睡眠時間を削ることになるのも嫌だと思い、力が抜ける。
結局、チャイムだけが私の味方で、佐藤さんと永那ちゃんを引き離してくれるのだった。
水曜日、窓際の自席で勉強をしていたら、ふいに視線を感じた。
顔を上げると、目の前に永那ちゃんが座っていた。
どういうことかわからず瞬きすると、椅子の背もたれに頬杖をつく永那ちゃん。
「穂、ノート貸して」
「え?」
手元にあるルーズリーフを見つめて、差し出そうとすると、止められる。
「私のためにまとめてくれたやつ。続きがほしいんだけど」
「…ああ。あれから、作ってないや。でも、すぐ作るね」
「迷惑じゃない?」
「全然。自分のためにもなるし」
「よかった。ありがと」
優しく微笑まれる。
外の空気が吸いたくて、窓を少し開けていた。窓のすき間から風が吹いて、私の髪がなびく。
なびいた髪のすき間から彼女の微笑みが見えて、胸がギュゥッと締め付けられた。
永那ちゃんの手が伸びてきて、耳に髪をかけてくれる。
「ありがとう」
「永那~」
幸せな時間を裂くように、佐藤さんがそばに来る。
「次の英語の宿題やってないんでしょ?早く写しちゃって」
佐藤さんと目が合う。
酷く冷たい視線に目をそらしそうになるけど、グッと堪えて見つめ返す。
佐藤さんが永那ちゃんに視線を戻して、ホッとする。
「おー、そうだった。…じゃあ、穂。待ってるね」
「うん」
佐藤さんが永那ちゃんの腕に絡む。
「期末終わったらどっかデートしよ?」
その言葉に胸がズキズキと痛む。
睨むように2人の後ろ姿を見た。
永那ちゃんは「えー、どうしよっかなー」と呑気に答えていて、私は下唇を噛んだ。
(ハッキリ断ってよ)
わがままな自分が顔を出す。
前の席の子がトイレから戻ってきて、席についた。
その子の背を睨むように見て、俯いた。
放課後、まとめたルーズリーフを、寝ている永那ちゃんの机に置いた。
彼女の髪を撫でたくなって、手を空中で彷徨わせ、結局触れることもしないで手をおろした。
掃除当番のクラスメイト達が、永那ちゃんの机を避けて掃除する。
足元を見ると、彼女の机の足がホコリを噛んでいた。
「ハァ」とため息をつくと、永那ちゃんが目を覚ました。
私はびっくりして、一歩引いた。
「穂?」
寝ぼけ眼で見つめられて、心臓が跳ねた。
ニコッと笑う彼女が愛しい。
「どうした?」
そう聞いて、彼女は机に乗っている紙に気づく。
「あ!…早いね。ありがとう」
彼女はパラパラと紙をめくって、鞄にしまう。
「ねえ、一緒に帰る?」
上目遣いにそう言われて、鼓動が速まる。
私が頷くと、彼女は椅子をひっくり返して机に乗せ、教室の端に寄せた。
最初に彼女と話したときと同じ。私の足元にはホコリが残った。
でも今日、私がそれを箒で掃くことはない。
ふいに手にぬくもりを感じる。
彼女の手が重なっていた。
教室には掃除をしているクラスメイトがいる。
恥ずかしくなって、一気に顔に熱をおびた。
でも嬉しくて、握り返す。
彼女が微笑んで、歩き出す。
応援ありがとうございます!
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