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1.恋愛初心者
34.靄
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「好き…だよ。友達としてじゃなくて」
チラリと彼女を見ると、みるからにさっきよりも顔が輝いている。
本当に私は、人のことを何も見ていなかったんだと思い知らされる。
金井さんは自分と同類だと勝手に思っていた。実際、生徒会メンバーが恋愛の話をしても、彼女は興味なさげに振る舞っていた。
だから恋愛の話に、こんなに食いついてくるとは想像したこともなかった。
クラスで女の子達が楽しそうに恋の話をしていた。私は横目でそれを見て“楽しそうだな”とは思っても、まるで違う世界の人を見ているみたいな気持ちでいた。
私には理解できない世界。
だから、どうでもよかった。
今の金井さんは、彼女達と同じ顔をしている。
ああ、女の子らしくて可愛いなあと思った。
きっと彼女は、本当はもっと穏やかで、恋の話もたくさんしたくて、女の子同士でお洒落の話とかもして過ごすような女の子なのかもしれない。
ただ、日住君の好みになるために、その全てを捨てたのかもしれない。
日住君は、なんでこんなにがんばっている子、こんなに自分を好きになってくれる子じゃなくて、他の人が好きなんだろう?
「でも、今まで恋愛に全く興味がなくて、誰の話も聞いてこなかった…聞こうとしてこなかったツケが回ってきたんだよね」
金井さんが首を傾げる。
「好きが…よくわからなくて」
「よくわからない?…好きじゃなくなったってことですか?」
「あー、うーん…好きなんだけど、それは確かなんだけど。なんて言えばいいのかな」
金井さんはジッと私の言葉を待ってくれる。
バーベキュー会場から、こちらに走って向かってくる日住君が視界に入る。
「…ごめん、説得するのにすごい時間かかった。今焼いてくれてるよ」
日住君が膝に手をついて息を切らしている。
すると金井さんが片手を上げて、日住君を見た。
「日住君、今ガールズトークの良いところだから、まだもう少しあっちに行ってて」
「え?」
彼は私と金井さんの顔を交互に見て、苦笑した。
「失礼しました。また焼けたら持ってくるね」
そう言って、トボトボ帰っていく。
金井さん、好きな人にもクールだなあ。
「それで?」
金井さんはすぐに私に顔を向ける。
「ああ…。永那ちゃん…両角さんね。知ってるかもしれないけど、モテるんだよね」
「そうでしょうね」
「ずっと両角さんの」
「“永那ちゃん”で、かまいません」
そう言われて、アハハと苦笑する。
「ずっと永那ちゃんのことを好きだって言ってる子がいて」
彼女は頷く。
「その子が永那ちゃんを好きになった理由も聞いて。なんか、私が好きな理由って…なんか…ショボいというかくだらないというか」
「はあ」
彼女はパチパチとまばたきしながら、眉間にシワを寄せている。
「私でいいのかな?って」
地面に円を描いて、恥ずかしくなってきたのを紛らわす。
「私が永那ちゃんみたいな人の相手でいいのかな?って、わからなくなって」
「つまり、まず前提として先輩と両角先輩はもうお付き合いされているという理解で正しいですか?」
そうだ、“付き合ってる”なんて言っていなかったんだ!…とき既に遅し。顔が急に熱くなる。
私は前髪を指で梳いて、恥ずかしさを誤魔化す。
彼女を見ると、優しく微笑まれていた。
それが逆に恥ずかしさを加速させる。
心臓が急に速く動き始める。ドッドッドッと音を立てている。
プッと彼女は口元を押さえながら笑い始める。
「先輩って、可愛いんですね」
頭から湯気が出てもおかしくないと思う。
「ちょ、ちょっと…違くて」
「違う?お二人は恋人ではないんですか?」
「え!?…いや…うーん…いや」
「付き合ってるんですよね?」
私は恥ずかしさのあまり俯くけど、同時に頷いてもいて…穴があったら入りたい。
金井さんが優しく笑う。
「先輩を好きになっちゃう理由、私ちょっとわかりました」
「え?」
彼女は遠くの日住君を見た。
彼と目が合ったのか、ニコリと笑う。
「だって、可愛いですもん」
「え、え?いや、そんな、私なんて」
「今、すっごく可愛いです」
そして、まっすぐ私を見る。
チラリと彼女を見ると、みるからにさっきよりも顔が輝いている。
本当に私は、人のことを何も見ていなかったんだと思い知らされる。
金井さんは自分と同類だと勝手に思っていた。実際、生徒会メンバーが恋愛の話をしても、彼女は興味なさげに振る舞っていた。
だから恋愛の話に、こんなに食いついてくるとは想像したこともなかった。
クラスで女の子達が楽しそうに恋の話をしていた。私は横目でそれを見て“楽しそうだな”とは思っても、まるで違う世界の人を見ているみたいな気持ちでいた。
私には理解できない世界。
だから、どうでもよかった。
今の金井さんは、彼女達と同じ顔をしている。
ああ、女の子らしくて可愛いなあと思った。
きっと彼女は、本当はもっと穏やかで、恋の話もたくさんしたくて、女の子同士でお洒落の話とかもして過ごすような女の子なのかもしれない。
ただ、日住君の好みになるために、その全てを捨てたのかもしれない。
日住君は、なんでこんなにがんばっている子、こんなに自分を好きになってくれる子じゃなくて、他の人が好きなんだろう?
「でも、今まで恋愛に全く興味がなくて、誰の話も聞いてこなかった…聞こうとしてこなかったツケが回ってきたんだよね」
金井さんが首を傾げる。
「好きが…よくわからなくて」
「よくわからない?…好きじゃなくなったってことですか?」
「あー、うーん…好きなんだけど、それは確かなんだけど。なんて言えばいいのかな」
金井さんはジッと私の言葉を待ってくれる。
バーベキュー会場から、こちらに走って向かってくる日住君が視界に入る。
「…ごめん、説得するのにすごい時間かかった。今焼いてくれてるよ」
日住君が膝に手をついて息を切らしている。
すると金井さんが片手を上げて、日住君を見た。
「日住君、今ガールズトークの良いところだから、まだもう少しあっちに行ってて」
「え?」
彼は私と金井さんの顔を交互に見て、苦笑した。
「失礼しました。また焼けたら持ってくるね」
そう言って、トボトボ帰っていく。
金井さん、好きな人にもクールだなあ。
「それで?」
金井さんはすぐに私に顔を向ける。
「ああ…。永那ちゃん…両角さんね。知ってるかもしれないけど、モテるんだよね」
「そうでしょうね」
「ずっと両角さんの」
「“永那ちゃん”で、かまいません」
そう言われて、アハハと苦笑する。
「ずっと永那ちゃんのことを好きだって言ってる子がいて」
彼女は頷く。
「その子が永那ちゃんを好きになった理由も聞いて。なんか、私が好きな理由って…なんか…ショボいというかくだらないというか」
「はあ」
彼女はパチパチとまばたきしながら、眉間にシワを寄せている。
「私でいいのかな?って」
地面に円を描いて、恥ずかしくなってきたのを紛らわす。
「私が永那ちゃんみたいな人の相手でいいのかな?って、わからなくなって」
「つまり、まず前提として先輩と両角先輩はもうお付き合いされているという理解で正しいですか?」
そうだ、“付き合ってる”なんて言っていなかったんだ!…とき既に遅し。顔が急に熱くなる。
私は前髪を指で梳いて、恥ずかしさを誤魔化す。
彼女を見ると、優しく微笑まれていた。
それが逆に恥ずかしさを加速させる。
心臓が急に速く動き始める。ドッドッドッと音を立てている。
プッと彼女は口元を押さえながら笑い始める。
「先輩って、可愛いんですね」
頭から湯気が出てもおかしくないと思う。
「ちょ、ちょっと…違くて」
「違う?お二人は恋人ではないんですか?」
「え!?…いや…うーん…いや」
「付き合ってるんですよね?」
私は恥ずかしさのあまり俯くけど、同時に頷いてもいて…穴があったら入りたい。
金井さんが優しく笑う。
「先輩を好きになっちゃう理由、私ちょっとわかりました」
「え?」
彼女は遠くの日住君を見た。
彼と目が合ったのか、ニコリと笑う。
「だって、可愛いですもん」
「え、え?いや、そんな、私なんて」
「今、すっごく可愛いです」
そして、まっすぐ私を見る。
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