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1.恋愛初心者
23.彼女
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唇が離れ、トンと彼女の額が私の額にぶつかる。
ようやく解放の時間だ。
息も絶え絶えになって、私は彼女に寄りかかる。
「私、キス…初めてなのに」
そう言うと、彼女はフッと笑って「初めてが刺激的で良かったね」と皮肉った。
ベシッと叩いてやりたいのに、そんな体力も残っていない。
彼女の横顔に、悲しみが混じる。
「私は、永那ちゃんが好きだよ」
彼女が無反応だからもう一度言う。
「私は、永那ちゃんが好きなんだよ」
永那ちゃんの瞳からひとすじの涙が落ちる。
「初めて、好きになった人だよ」
彼女は下唇を噛んで、上を向いた。
「男とか女とか、私には違いがよくわからなくて…でも、永那ちゃんを好きになったよ」
彼女の肩が大きく上下する。
「ごめん」
「何が?」
「初めてのキス…こんなんで」
思わず笑ってしまう。
「まあ…良かったよ、刺激的で」
そう言うと、彼女は苦笑した。
「本当はもっと、いろいろ考えてたんだ」
「そうなの?」
「穂、“今まで誰とも付き合ったことない”って言ってたからさ。もっと、ちゃんと…優しくって」
私が吹き出したように笑うと、永那ちゃんが不貞腐れる。
「寂しかった」
永那ちゃんがフゥッと息を吐く。
落ちた本を拾ってくれて、2人で壁に寄りかかる。
「私も生徒会に入ればよかったって、ちょっと思ったよ」
「え?永那ちゃんが?」
「なに?私にはできないって?」
笑みを溢しながら、彼女が私を睨む。
「そういうわけじゃないけど…ちょっと想像できなくて。でも、いつでも募集してるよ」
彼女はフッと笑う。
「いや、まあ…できないよ。できないけど、それくらい寂しかったってこと」
永那ちゃんは少し項垂れて、上目遣いに私を見た。
「せっかく恋人になったのに、話す時間全然なくてさ」
「そうだね、ごめんね」
「穂が謝ることじゃないよ。タイミングの問題でしょ」
永那ちゃんの優しさに心があたたまる。
「私、気になってたんだけどさ」
忙しくてずっと聞けなかったこと。
永那ちゃんは両眉を上げて、こちらを見る。
「永那ちゃんって、なんで学校であんなに寝てるの?」
彼女は目をまん丸くして、すぐに真剣な顔になった。
「実は…穂に嘘ついてて」
「嘘?」
彼女は視線を彷徨わせてから、まっすぐ私を見る。
「私のお母さん、病気なんだよね」
初めてのデートのとき“お母さんはバリバリ働いてる”と言っていた。
それで、同じだねって話したんだ。
「昔は、本当にバリバリ働いてたんだよ?でも、今はずっと家にいる。…みんなにも言ってない」
なんて言えばいいかわからず、彼女を見つめることしかできない。
「その、お母さんの世話があるから、夜は起きてなきゃいけなくて。…まあ、世話の合間に勉強できるからいいんだけど」
私は、まだまだ知らないことばかり。
当たり前なんだけど、なんだか呑気に過ごしていた自分が恥ずかしくて、悔しくて、どう表現すればいいかわからない。
「本当は、今日も、打ち上げに参加してる場合じゃないし、穂と会ってる場合じゃないのかも…しれない」
彼女は俯いて、床に置かれていた鞄を取った。
「でも、どうしても会いたかった。確かめたかった。本当に穂が私を好きでいてくれてるのか…」
鞄を肩にかけて、彼女は悲しげに笑う。
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
そう言って歩き始めるから「永那ちゃん」つい呼び止める。
「なにか、私にできること…」
永那ちゃんは優しく笑う。
「いつも通りの穂でいて」
「え?」
「好きだよ、穂」
胸が痛い。ズキズキと痛んで、でもどうすることもできなくて、ただ彼女の後ろ姿を見つめる。
彼女は一度振り向いて、いつもの笑顔で手を振った。
「また明日ねー!穂」
ようやく解放の時間だ。
息も絶え絶えになって、私は彼女に寄りかかる。
「私、キス…初めてなのに」
そう言うと、彼女はフッと笑って「初めてが刺激的で良かったね」と皮肉った。
ベシッと叩いてやりたいのに、そんな体力も残っていない。
彼女の横顔に、悲しみが混じる。
「私は、永那ちゃんが好きだよ」
彼女が無反応だからもう一度言う。
「私は、永那ちゃんが好きなんだよ」
永那ちゃんの瞳からひとすじの涙が落ちる。
「初めて、好きになった人だよ」
彼女は下唇を噛んで、上を向いた。
「男とか女とか、私には違いがよくわからなくて…でも、永那ちゃんを好きになったよ」
彼女の肩が大きく上下する。
「ごめん」
「何が?」
「初めてのキス…こんなんで」
思わず笑ってしまう。
「まあ…良かったよ、刺激的で」
そう言うと、彼女は苦笑した。
「本当はもっと、いろいろ考えてたんだ」
「そうなの?」
「穂、“今まで誰とも付き合ったことない”って言ってたからさ。もっと、ちゃんと…優しくって」
私が吹き出したように笑うと、永那ちゃんが不貞腐れる。
「寂しかった」
永那ちゃんがフゥッと息を吐く。
落ちた本を拾ってくれて、2人で壁に寄りかかる。
「私も生徒会に入ればよかったって、ちょっと思ったよ」
「え?永那ちゃんが?」
「なに?私にはできないって?」
笑みを溢しながら、彼女が私を睨む。
「そういうわけじゃないけど…ちょっと想像できなくて。でも、いつでも募集してるよ」
彼女はフッと笑う。
「いや、まあ…できないよ。できないけど、それくらい寂しかったってこと」
永那ちゃんは少し項垂れて、上目遣いに私を見た。
「せっかく恋人になったのに、話す時間全然なくてさ」
「そうだね、ごめんね」
「穂が謝ることじゃないよ。タイミングの問題でしょ」
永那ちゃんの優しさに心があたたまる。
「私、気になってたんだけどさ」
忙しくてずっと聞けなかったこと。
永那ちゃんは両眉を上げて、こちらを見る。
「永那ちゃんって、なんで学校であんなに寝てるの?」
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「実は…穂に嘘ついてて」
「嘘?」
彼女は視線を彷徨わせてから、まっすぐ私を見る。
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それで、同じだねって話したんだ。
「昔は、本当にバリバリ働いてたんだよ?でも、今はずっと家にいる。…みんなにも言ってない」
なんて言えばいいかわからず、彼女を見つめることしかできない。
「その、お母さんの世話があるから、夜は起きてなきゃいけなくて。…まあ、世話の合間に勉強できるからいいんだけど」
私は、まだまだ知らないことばかり。
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「本当は、今日も、打ち上げに参加してる場合じゃないし、穂と会ってる場合じゃないのかも…しれない」
彼女は俯いて、床に置かれていた鞄を取った。
「でも、どうしても会いたかった。確かめたかった。本当に穂が私を好きでいてくれてるのか…」
鞄を肩にかけて、彼女は悲しげに笑う。
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
そう言って歩き始めるから「永那ちゃん」つい呼び止める。
「なにか、私にできること…」
永那ちゃんは優しく笑う。
「いつも通りの穂でいて」
「え?」
「好きだよ、穂」
胸が痛い。ズキズキと痛んで、でもどうすることもできなくて、ただ彼女の後ろ姿を見つめる。
彼女は一度振り向いて、いつもの笑顔で手を振った。
「また明日ねー!穂」
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