19 / 595
1.恋愛初心者
19.彼女
しおりを挟む
永那ちゃんがスタート地点に並んでいる。
前に走っている人たちの様子を見て笑っている。
体育祭の準備は大変だったけど、案外私は特等席にいるのかもしれない。…実況ブースにいるのだから、当然と言えば当然なのだけれど。
スタートの合図と共に走り出す。彼女は楽しそうに笑いながら走っている。
マットは、私も試しに走ってみたけど、バランスを取るのがけっこう難しい。永那ちゃんは器用に走り抜けていった。
5本のハードルを、砂埃を立てながらくぐっていく。汚れるからと、女子は障害物競争にあまり参加したがらない。でも彼女は気にしていないみたいだ。
立ち上がった彼女の体操着が汚れている。
ボールのドリブルは片手でも両手でもいい。永那ちゃんは片手でドリブルして、1回だけボールを転がしてしまったけれど、その後は順調に最終地点に到着した。
テーブルに置かれた封筒を取って、中のカードを確認する。
そこまで見て、私は次の玉入れに参加するために、腰につけていたトランシーバーを外した。
彼女の走りを見終えたら、急いで向かわなければ…と少し焦る。
念のため、靴紐も解けていないか確認する。
顔を上げると、永那ちゃんと目が合った。
彼女のキラキラした笑顔に一瞬で心を掴まれる。
彼女はそのまま私に向かって走ってくる。
どういうことかわからず固まっていると、永那ちゃんが手を差し伸べてきた。
「穂、来て!」
隣で実況していた生徒会長が白熱した声で「副生徒会長が攫われた!一体どんなカードだったのか!?」と言っている。
私達は手を繋ぎながら、ゴールに向かって走っていく。
みんなに注目されているのがとてつもなく恥ずかしくて、でも繋がれている手のぬくもりが嬉しくて、なんとも言えない気持ちになる。
永那ちゃんが、ゴールに立っている日住君にカードをわたす。
日住君はカードの内容を見て、チラリと私に目を遣った。
もう一度カードに視線を落として、永那ちゃんに笑顔を向ける。
「はい、OKです」
そう言われて、一緒にゴールテープを切った。
この回では私達が1番だったようで、「やったー!」と永那ちゃんに抱きしめられた。
「え、永那ちゃん…なんのカードだったの?」
「ん?…うーん」
彼女の口元が耳に近づく。
「好きな人」
そう言って、すぐに離れた。
永那ちゃんはニコニコ笑っている。
急激に全身から汗が吹き出す。
へへへと彼女が笑うから、私はベシベシと彼女の服を叩いて汚れを落として、綻びそうになる自分を誤魔化す。
髪もボサボサになっていたから、指で梳いてあげる。
よく見たら鼻にも汚れがついている。拭ってあげると、嬉しそうに目を瞑った。
そこで「玉入れに参加する生徒のみなさんは、スタート地点に集合してください」とアナウンスがかかった。
「あ、行かなきゃ」
「行ってらっしゃい、がんばって」
永那ちゃんがひらひら手を振る。
私は頷いて、走ってスタート地点に向かった。
生徒会長の実況が続く。
「今回の借り物は、好きな人、バスケットボール、眼鏡をかけた先生、ライン引き、人体模型…でした!」
私は何もないところで転びそうになる。
順位順にカードの内容が発表され、“好きな人”のところで、盛り上がっている生徒達に「ヒューヒュー」と言われたからだ。
まさかこんなことをされるなんて予想もしていなくて、羞恥心に押しつぶされそうになる。
玉入れが始まってからも、なんだか視線を感じて(競技をしている最中なのだから当たり前だけれど)、集中できなかった。
玉入れが終わり、生徒会メンバーが片付けるのを手伝う。
金井さんがそばに来て「空井先輩、攫われてましたね」とからかってくる。
「あれはlikeですか?それともloveですか?」
でも彼女の顔が全く笑っていないから、冗談なのかなんなのかわからなくなる。
「さあ…?」
私が苦笑すると「loveなら私、応援しますよ」と真面目な顔で言われた。
「あの人、たしか…両角先輩…ですよね?」
「え…え、なんで知ってるの?」
素直に驚く。
「クラスの女子がかっこいいと騒いでいたので」
ああ、そうだった。金井さんは日住君と同じクラスで、日住君も前に同じことを言っていた。
随分その子は永那ちゃんのことを後輩達に広めているんだなあ…と、また苦笑する。
「現在、10点差で白組が勝っています。赤組のみなさん、みんなで力を合わせて、後半戦で追い抜きましょう。白組のみなさん、一致団結して勝ち抜きましょう。…それでは、これより50分間の昼休憩とします。みなさん、熱中症予防のため、水分補給をお願いします。こちらの実況ブースと救護ブースでは塩飴を配布しています。是非お越しください」
生徒会長のアナウンスが響く。
生徒達がバラバラと校内に戻っていく。購買に寄る人もいれば、教室に戻ってお弁当を食べる人もいる。
私はその波に揉まれながら、なんとか生徒会用のテントに戻るのだった。
前に走っている人たちの様子を見て笑っている。
体育祭の準備は大変だったけど、案外私は特等席にいるのかもしれない。…実況ブースにいるのだから、当然と言えば当然なのだけれど。
スタートの合図と共に走り出す。彼女は楽しそうに笑いながら走っている。
マットは、私も試しに走ってみたけど、バランスを取るのがけっこう難しい。永那ちゃんは器用に走り抜けていった。
5本のハードルを、砂埃を立てながらくぐっていく。汚れるからと、女子は障害物競争にあまり参加したがらない。でも彼女は気にしていないみたいだ。
立ち上がった彼女の体操着が汚れている。
ボールのドリブルは片手でも両手でもいい。永那ちゃんは片手でドリブルして、1回だけボールを転がしてしまったけれど、その後は順調に最終地点に到着した。
テーブルに置かれた封筒を取って、中のカードを確認する。
そこまで見て、私は次の玉入れに参加するために、腰につけていたトランシーバーを外した。
彼女の走りを見終えたら、急いで向かわなければ…と少し焦る。
念のため、靴紐も解けていないか確認する。
顔を上げると、永那ちゃんと目が合った。
彼女のキラキラした笑顔に一瞬で心を掴まれる。
彼女はそのまま私に向かって走ってくる。
どういうことかわからず固まっていると、永那ちゃんが手を差し伸べてきた。
「穂、来て!」
隣で実況していた生徒会長が白熱した声で「副生徒会長が攫われた!一体どんなカードだったのか!?」と言っている。
私達は手を繋ぎながら、ゴールに向かって走っていく。
みんなに注目されているのがとてつもなく恥ずかしくて、でも繋がれている手のぬくもりが嬉しくて、なんとも言えない気持ちになる。
永那ちゃんが、ゴールに立っている日住君にカードをわたす。
日住君はカードの内容を見て、チラリと私に目を遣った。
もう一度カードに視線を落として、永那ちゃんに笑顔を向ける。
「はい、OKです」
そう言われて、一緒にゴールテープを切った。
この回では私達が1番だったようで、「やったー!」と永那ちゃんに抱きしめられた。
「え、永那ちゃん…なんのカードだったの?」
「ん?…うーん」
彼女の口元が耳に近づく。
「好きな人」
そう言って、すぐに離れた。
永那ちゃんはニコニコ笑っている。
急激に全身から汗が吹き出す。
へへへと彼女が笑うから、私はベシベシと彼女の服を叩いて汚れを落として、綻びそうになる自分を誤魔化す。
髪もボサボサになっていたから、指で梳いてあげる。
よく見たら鼻にも汚れがついている。拭ってあげると、嬉しそうに目を瞑った。
そこで「玉入れに参加する生徒のみなさんは、スタート地点に集合してください」とアナウンスがかかった。
「あ、行かなきゃ」
「行ってらっしゃい、がんばって」
永那ちゃんがひらひら手を振る。
私は頷いて、走ってスタート地点に向かった。
生徒会長の実況が続く。
「今回の借り物は、好きな人、バスケットボール、眼鏡をかけた先生、ライン引き、人体模型…でした!」
私は何もないところで転びそうになる。
順位順にカードの内容が発表され、“好きな人”のところで、盛り上がっている生徒達に「ヒューヒュー」と言われたからだ。
まさかこんなことをされるなんて予想もしていなくて、羞恥心に押しつぶされそうになる。
玉入れが始まってからも、なんだか視線を感じて(競技をしている最中なのだから当たり前だけれど)、集中できなかった。
玉入れが終わり、生徒会メンバーが片付けるのを手伝う。
金井さんがそばに来て「空井先輩、攫われてましたね」とからかってくる。
「あれはlikeですか?それともloveですか?」
でも彼女の顔が全く笑っていないから、冗談なのかなんなのかわからなくなる。
「さあ…?」
私が苦笑すると「loveなら私、応援しますよ」と真面目な顔で言われた。
「あの人、たしか…両角先輩…ですよね?」
「え…え、なんで知ってるの?」
素直に驚く。
「クラスの女子がかっこいいと騒いでいたので」
ああ、そうだった。金井さんは日住君と同じクラスで、日住君も前に同じことを言っていた。
随分その子は永那ちゃんのことを後輩達に広めているんだなあ…と、また苦笑する。
「現在、10点差で白組が勝っています。赤組のみなさん、みんなで力を合わせて、後半戦で追い抜きましょう。白組のみなさん、一致団結して勝ち抜きましょう。…それでは、これより50分間の昼休憩とします。みなさん、熱中症予防のため、水分補給をお願いします。こちらの実況ブースと救護ブースでは塩飴を配布しています。是非お越しください」
生徒会長のアナウンスが響く。
生徒達がバラバラと校内に戻っていく。購買に寄る人もいれば、教室に戻ってお弁当を食べる人もいる。
私はその波に揉まれながら、なんとか生徒会用のテントに戻るのだった。
12
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる