いたずらはため息と共に

常森 楽

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1.恋愛初心者

14.彼女

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「ちょっ…永那ちゃん」
翌日の放課後、雨がシトシトと降るなか、渡り廊下の自販機前で永那ちゃんに両腕を掴まれていた。
体育館から部活動に励む生徒の声が聞こえてくる。
掃除は、永那ちゃんが本来当番だった人たちに指示を出していた。
私は自販機に押し付けられ、あまりの圧につま先立ちになる。
遠くから見ていた彼女は、こんな威圧感のある人には到底思えなくて、鼓動が速くなる。
「昨日の後輩君は誰かな?」
笑みは浮かべているけど、目は笑っていない。
「せ、生徒会の後輩だよ」
「2人でどこ行ってたの?なにしてた?」
「カフェで、お話を…」
腕を握る力が強まる。
「デート?」
「ち、違うよ」
「じゃあ…なに?」

ゴクリと唾を飲む。
“相談してた”と言えば、「どんな?」と聞かれることは想像できる。
それに正直に答えていいものなのか、私にはわからない。
まるで私の考えを見透かされているみたいに彼女が言う。
「正直に」
息遣いがわかるほどに顔が近づく。
「あの…」
鼻と鼻が触れそうになるほどの距離。
「相談を…」
「どんな?」
「恋の…」
永那ちゃんの左眉が上がる。
通り過ぎる生徒がこちらをジロジロ見る。恥ずかしい。
でも拘束された腕は未だ解放される気配はない。
「どんな?」
う…同じ質問…。
“好きってなんだと思う?”なんて彼女に聞くのは、なんだか違う気がした。それに昨日、日住君と話せたことで自分なりに答えも出た。だから、そもそも聞く必要もない。

「永那ちゃん」
「なに?」
私は彼女の腕を押し返すように力を込める。
細身の彼女からは想像もつかないほど強くて、思うようには押し返せないけど、それでも少しだけ隙間が生まれた。
永那ちゃんは少し驚いてるみたい。
私は彼女の耳元に口を近づけて、小声で言う。
わざと、唇と耳が触れ合うように。
「私も永那ちゃんが好きだよ」
彼女の耳が一気に赤く染まる。意外と彼女はわかりやすい。
腕が解放されて、目の前の彼女がふにゃりと小さくなる。
私の足元にしゃがみこんで、腕で顔を隠している。
ぶつくさ何か言っているから、私もスカートを押さえてしゃがむ。

「ずるいよ」
私の気配を察してか、腕から目を覗かせる。
「私だって穂に抱きつかれたい」
ハテナマークが浮かぶ。“私だって”とは?私には誰かに抱きついた記憶がない。
「昨日、雷鳴ったとき」
そう言われて、私の顔もカーッと熱くなる。
「あ、あれは事故だよ」
そうか、だから彼女は怒っていたのか。
永那ちゃんも、私を独り占めしたいのか。
なんだか心がふわふわする。
これが“満たされる”ということなのだろうか?
「でも、嫌だった」
また彼女は顔を隠す。
「ごめんね。…でも、私だって」
私が言うと、また覗くように私を見る。なんだか忙しない。
「私だって、今日佐藤さとうさんが永那ちゃんの膝に座ってたの、嫌だったよ」
そしてまた、彼女は俯いた。
「私だって、されたくてされてるんじゃないよ?」
「でも嫌だったよ」
顔を近づけて言うと、彼女はしりもちをついた。

顔は真っ赤。目はまん丸く開かれて、心底驚いてるみたいだった。
だから思わず笑ってしまう。
「“ごめんなさい”は?」
詰め寄ると、子供みたいに視線を下げながら「ごめんなさい」と小さく呟いた。
「…まあ、永那ちゃんが悪くないのは知ってるけどね」
意地悪が成功して、私は舌を少し出してみせた。
永那ちゃんはニヤリと笑って、いつもの調子を取り戻したみたいに「このー!」と抱きついてくる。
押されて、私もしりもちをついた。
「スカートが汚れる…!」
「知らん!」
永那ちゃんが楽しそうに笑う。
屋根を弾く雨音が、どうしようもなく心地良い。
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