Rabbit foot

1. No pain, No gain.

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「議事録取れた？分からないことある？」

　会議室を出たところで、5つ上の先輩が訊いてきた。会社は違えど面倒見のいい人で、初めてできた後輩の俺を目にかけてくれる。

「大丈夫だと思います。ありがとうございます」

「そういえば、今朝のニュース見た？P市で起きた死亡轢き逃げ事故。まだ犯人捕まっていないんだって」

「へぇー、知らなかったです」

「轢き逃げしておいて逃げるなんて、よくできるよな」

「そうですね…」

　知らなかったは嘘だ。今もあの事の続きをずっと追跡している。肝試しに行こうとした神社の鳥居との海が見える道路の映像を見れば、俺たちが目撃した事故に間違いと確信した。周囲が暗く、その時は気づかなかったかが、事故現場付近に民家やホテルは建っていない。

　被害者が死亡したとニュースで知ってから悪夢にうなされることが多くなった。事故を目撃した翌日から、幸せを感じたことがない。卒業祝いに家族と焼き肉を食べに行った時、肉はゴムみたいに固くレモンサワーは苦みしか感じなかった。

　被害者は80歳の女性。認知症が悪化し、徘徊癖があったとのこと。そのため、家族で見張りをしていたが、いつの間にか家を抜け出しており、事故現場付近を徘徊していた。そこに運悪く、カンガルーバーをつけた黒い車と衝突。

捜査が難航している理由は、事故現場周辺に防犯カメラがなかったこと、深夜だったため目撃者がいなかったことなどが重なっとされている。

　しかしながら、Nシステム（ナンバープレート認識装置）の網をかいくぐって走行したとは考えにくく、ナンバーは割れているはずだから、どこかで車を乗り捨てたか手引きした第三者の存在が事態を複雑化している、といった具合だろう。