Rabbit foot

1. No pain, No gain.

15

　秘密を共有し合う提案は、有耶無耶にされた。個人的に名案だと思っていただけに、不安を感じる。立場は同じだと、分かっていても。

　あの瞬間、俺は犯人と同様の経験を得たと思っている。事故の瞬間を、俺は全身で受け止めた。目を閉じようが耳を塞ごうが、内から蘇る記憶には効果がない。

　特に、飲酒運転によるひき逃げ事故は、完全に犯人達に非がある。それにも関わらず、自己防衛のため逃避する。たとえ、自分たちの行動による結果であっても、人間はあまりに悲惨で受け入れ難い出来事を、フィクションだと思い込みたくなる。一種のパラドックスと言えるかもしれない。

「まとめると、この5人が個人的に接触するのは極力避けること。緊急の場合は、SNSに場所と一緒にいる人物のが画像を投稿し、情報を共有し合うこと。次に全員再会する時は、2年後の今日。必ず合言葉を使用すること。あの事について、原則他言無用。でいい？」

　颯が同意を求めると、全員了承した。もうあの事について、考えたくないと言った具合だった。

　各々、冷めた食事を食べ始めた。俺が頼んだパンケーキは、上に乗ったアイスクリームが溶け原形を留めていなかった。メイプルシロップで味付けしなくとも、生地は甘味を吸っている。

　佐環と嗣乃はドリンクバーのみ注文した。明後日には、焼き肉やら寿司やらを食べるのだろう。

　次第にピークが近づき、スーツを着たビジネスマンや子連れの母親たちが、席の順番を待っている。

「そろそろ行こう。人が多くなってきた」

　俺は甘すぎたパンケーキを半分残し、フォークとナイフを置く。

「そうだね。私も、もういいや」

　嗣乃が口を拭う。