Rabbit foot

1. No pain, No gain.

5

「ダメだ、佐環。もしかしたら、監視カメラが設置されているかもしれないし、僕たちが映れば後々ややこしいことになる。これが一番てっとり早い」

「勝矢の言う通りだよ。このカメラ、まだ録画停止してないんだよね？今の私達の会話も残ってるかもしれないし、警察に事情を話すにしてもどのみち提出したくない」

　嗣乃も勝矢に賛同するように言った。

「だけど…」

　佐環はそれ以上言葉が出ず、結局俺たちはカメラの録画映像を見ることにした。

　きっと、何かの間違いだ。そうであってほしいと願う俺たちの期待を、それはあっさりと裏切った。

　あまりの悲惨さに、目を伏せた。

　事故の決定的瞬間が、詳細に記録されている。女性の断末魔が聞こえ、その影が勢いよく飛ばされた。甲高いブレーキ音と、複数の男女が車から降りてくる映像。そして、颯や橙子、佐環の顔や声、救護をせず逃げた車のエンジン音もはっきりと。

　現場の道路は、片側一車線で数十メートル直進が続き、その先は緩やかなカーブがかかている。飲酒運転をしてたせいで、過度にスピードを出し、ブレーキが間に合わなかったように見受けられた。

　今の技術で、どこまで解析できるのだろうか。少なくとも、車種を特定することは難しいと思う。黒っぽい車であることは分かったが、全体的に不鮮明だし、メーカーのマークは映っておらず手がかりはほんの一部分。男女の声だって、サンプルを取るには声量がが小さすぎる。唯一であろう目撃者の俺が、証言するならせいぜいUターンして逃げて行ったということぐらい。

　現場に車の塗料やタイヤ痕があれば、捕まるのも時間の問題だ。だから、余計なことはしなくていい。これがなくても、証拠は十分にある。