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第2話 城内散策
しおりを挟む【ウィルフレット王国城中央棟 6階居間】
「おう、来たか。」
「国王陛下です。」
ポカンとしていた俺にローナさんがそっと耳打ちをする。広さはざっと50畳はある。ここでも豪華なシャンデリアが天井に飾られており、大きなテーブルを囲うように配置されたソファーには国王を始めとする4人が寛いでいる。ローナさんに促されるままソファーにに着くと国王が語り始めた。
「エリック、元気になって本当に良かった…。だが、聞いたところによれば記憶を失っておるらしいが私のことは覚えてはいないのかね?」
「……はい。何も覚えていないです……………。」
「そうか………。すまなかった。身に覚えのないことを話して。お前は学院の食堂で食事をしている時に急に倒れて意識不明の重態になったらしい。その後、城であらゆる手を使って治療をしたが完治には至らなかったんだ。宮廷医師の話によれば記憶が戻ることはもう不可能に近いので改めて家族で自己紹介をしようと思う。」
「そうね、貴方……。」
「では、まず私から。私はオーガスト・アスター・ウィルフレット。お前の父親だ。まだ慣れないかもしれないがよろしく頼む。」
「次は私ですね。私はセシリア・ネスター・ウィルフレット。あなたの母です。これからもよろしくお願いしますね。」
「私は姉のエレナ・ネスター・ウィルフレット。エリックは昔から私に甘えてくるかわいい子だったのよ。困ったらお姉さんのところに来なさいね。」
「ちょっと、兄さんに変なことを吹き込まないでよ。兄さん改めまして、弟のチャールズ・アスター・ウィルフレットです。また、剣の勝負をしてください。」
「相変わらずチャールズは固すぎなのよ。」
「姉さんがおかしいんだよ。てか、くっつくなー。」
両者ともぎこちなかったが自己紹介が終った。夕食の時間までまだ時間があったので父さんの提案でローナさんと場内を散策することになった。姉さんとチャールズも一緒に回りたいと言ったが家庭教師がもうすぐ来るらしくあっさりと却下された。
◇ ◇ ◇
ローナさん曰くこの城は一日ではとてもすべてを回り切れないらしく今日は日々の生活でよく利用しそうなところを案内してもらうことにした。
【ウィルフレット王国城 中央大門・中央庭園】
大門は黒色の格子状になっていて開けるのにとても力がいりそうだ。門番である兵士は俺たちに気づくと敬礼をした。改めて自分は王子であるということを実感させられる。この城に門は全部で4つあるらしいが、城のちょうど南の位置にあるこの中央大門は4つの中で一番多くの人に利用されるらしい。警備兵が6人居たことも納得した。
門から建物のある北へ続く道をしばらく歩くと、配置や配色を完璧に考えられた花壇と豪華な噴水が目に飛び込んできた。
「ここ、本当にきれいだね。」
「はい、もちろんです。宮廷庭師という方がいらっしゃいまして毎日手入れを欠かさずに行っております。季節ごとに花が変わって私もとても好きですよ。」
通路といっても庭園のようになっていて歩くたびに花の甘い香りが漂ってくる。庭園を抜けるとロータリーに出て、その先には焦げ茶色の木製の二枚扉が姿を現した。
【ウィルフレット王国城中央棟 1階】
焦げ茶色の木の扉が重い音を立てながら左右に開く。床にはびっしりと真っ赤な絨毯が敷かれている。さっきは東側のエントランスから出てきたのでより中央のエントランスのすごさがわかる。ここは主に来客を迎えるところで、中央にはフロントがあり左右には色彩豊かな絵画とこれまた豪華なソファーが置かれている。まるでホテルのロビーのようだ。
「ご苦労様です、王子。」
フロントの若い男性に声を掛けられた。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえ……。病気が治ったので場内を散歩しようかと思って、今ちょうど中央大門から来たところなんだよ。」
「では、これから色々と見て回る訳ですか?」
「まあ、そんなところだね。」
「この城は広いですからね。何か御用の際は何なりとお申し付けください。」
「覚えておくよ。」
「エリック様。そろそろ行きましょうか。」
「あ…、そうだね。」
【ウィルフレット王国城中央棟 5階第1王子執務室】
1階から6階まである中央棟の部屋をすべて見て回った。最近の移動はずっと車だったので回りきった時には、息が上がり額にかなりの量の汗をかいていた。中央棟の主な部屋割りは、
・1階 エントランス、謁見室、ホール、客人用居室、客人用執務室、大食堂
・2階 使用人居室
・3階 各中央行政機関、会議室
・4階 貴族用居室、貴族用執務室
・5階 王族用執務室
・6階 王族居室
のようになっている。驚いたのは1つの階の大きさはもちろんのこと、1階と4階と5階の空き部屋の多さだ。ローナさんも詳しい理由は知らなかったが、大きすぎてすべての部屋を使わないことが予想できる。用意されていた執務用の机にドサッと座ると、これまた金の装飾が施されたカップのお茶が出てきた。ローナさんも歩きつかれていると思って飲むのを拒んだが、あれこれ言われて返答が出来ず、気まずくなったので一口だけ飲んだ。
「これ、おいしい。」
「そうですか、それは良かった。そちらは、ウィルフレット国内のスフェイと言う町から一級品を取り寄せたものです。ほのかに香る爽やかさが特徴です。疲れたお体にもとても良いと思います。」
ローラさんも飲まないのかともう一度聞くと一級品のものをメイドである私が飲むわけにはいきませんと再び言われたが、命令だと言って俺が一口飲んだコップを渡すと、顔を少し赤めながら嬉しそうに飲み始めた。
「やっぱりのどが乾いてたんだね。」
「……。ばれちゃいました。紅茶の味もそうですけど、その…別の意味で………おいしく感じます。」
始めは何を言っているのかさっぱり分からなかったが右手からコップがなくなっていることを今更ながら自覚してようやく意味が分かった。
《いくら命令って言ったからって、何やってるの俺。まだ王子だから許されるかもしれないけど現実世界でやったら週刊誌に撮られて社会的に終わるやつだよー。》
「ゴホンッ。夕食の時間はまだなの?」
「あと、30分ぐらいでしょうか。少し早いですけどそろそろ向かいますか?」
「そうする………。」
◇ ◇ ◇
【ウィルフレット王国城中央棟 6階ダイニングルーム】
大きくパリッとアイロンがされた白いテーブルクロスが掛けられたテーブルに、食器が等間隔に気持ちが良いくらいに整頓して並べられている。料理はまだ並べられてはいないが、奥の扉の隙間から香ばしい良い匂いが微かに漂ってくる。目の前で起こっている現象に圧倒されていると一人の執事が席に案内してくれた。座席はしっかり決まっているらしく、お誕生日席が国王、左脇に王妃と第1王女が座り、右脇に第1王子と第2王子の順番で座る。席に座ると少し遅れて扉が開き、父さんと母さんが入ってくる。
「なんだ、エリック。こんなに速く来て。そんなに腹が減ったのか?」
「はい。城内をローナと散策していましたので。」
「城内はどうでしたか?」
「はい。使用人の方々にはとてもお世話になりました。特にフロントの執事にはとても良くしていただきました。」
「あら、それは良かった。」
すると再び扉が開いた。
「ご飯、ご飯、ご飯!」
「姉さん、走ると危ないよ。」
「あら、エリックー。こんなに速く来てー、そんなにお姉さんに会いたかったのかな?」
「うッ……ちが…う………よ!」
抱きついてきた腕を全力ではらう。やっと呼吸ができた。
「相変わらず、エレナはエリックのことが大好きだな。」
「だって、可愛いんだもーん。それより、ご飯ご飯。」
さっきから匂いを遮断していた一枚の扉が開く。香ばしい風が一気に部屋に充満する。今日のメニューは……色々ありすぎて分からん。みんなが食べ始めたので自分も出された大皿に手をつける。色々食べてみたが、ローストビーフらしきものが一番おいしい。
途中でワインが運ばれてきたので試しに飲んでみることにした。俺が今まで飲んだことのある何よも美味しいワインで一人でビンの半分以上を飲んでしまった。食事の途中だったが、酔っ払いすぎたのでローラさんと一緒にダイニングルームから出た。
【ウィルフレット王国城中央棟 6階第1王子寝室】
「ヒック、ヒック…。ヒック。」
「飲みすぎましたね。次からはしっかり加減してくださいよ。」
「ほーい…。わかりまふたー。」
着替えを済ませそのままベッドに横たわった俺はすぐに眠りに着いた。
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