同級生がCEO―クールな彼は夢見るように愛に溺れたい(らしい)【番外編非公開中】

光月海愛(こうつきみあ)

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理想と現実  水濡れとキス

びしょ濡れ

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 電話やメールの対応、アジェンダ作成などしている内に、あっという間に午後になってしまった。

「神城社長、お車の準備できました」

 助手席に座ると、後部座席に乗り込んだ社長からいつもの香りを感じない。カフェ・バーだから控えてるのかも。そんな社長は眉間に皺が寄り、少し機嫌が悪いように見えた。

「来客長引いたな。お陰で昼飯抜きだ」

 お腹空いてご機嫌斜めなんて子供みたい。

「ギリギリの到着ではありませんので、何か口にされますか? コンビニとかドライブスルーとか」

 そう言って後ろを振り返った途端、ギュルルル! と私の腹の虫が鳴った。運転手さんの視線が遠慮なく刺さる。

 しまった。
 私も昼休憩取る暇がなかったから。

「相変わらず、鈴木さんの腸は活発だね。ドライブスルー行こうか」

「わ、私は大丈夫ですので」

「現場で鳴ったら笑うから何か腹に入れてよ」

 そう言う社長は既に破顔し、目尻を思い切り垂れさせていた。神城社長がこんな風に笑う所、久しぶりに見たかもしれない。

「時間があったら、千葉の無農薬野菜オンリーのドライブスルーに寄れたんだけど」

「……え」

 振り返って神城社長の顔を見つめる。そんな店があるなんて私も知らなかった。

「社長もオーガニックとかに目覚めたんですか?」

「そういうわけじゃない」

「じゃあ……」

 どういうわけ? まさか、いつか私と行こうと思って調べてくれた? いやいや、そんな事ある訳ない……よね? 

 ルームミラー越しに社長に視線を移すと、照れているように見えない事もない。眼鏡が社長の表情をレパートリー少なめに見せている為、微妙な変化は分かりづらい。

 軽食を車内で食べて、オープン前の現場に向かった。
 VRのカフェ・バーなんて、勿論行った事はない。どんな閉塞感ある施設かと思ったら――先にオープンした渋谷店よりもアクセスが便利な立地条件で駐車場も完備していた。

 社長は何度か足を運んでいたようで、すかさずテーブルや椅子のチェックをしている。内装はほぼ完成していて、飲料等の搬入をしていた。 
 初めて来た私は、何度も感嘆の声を漏らしてしまう。

 なに、ここ?

 店内はブルーを基調とした洒落たSFチックな空間で、まるで映画で見た未来みたいだ。

「ドリンクと料理のメニューも増やしましたし、VRゲームの種類もダイナミックな物に変えて欲しいとオーナーが仰ったので絶叫系マシーンも考えてみました」

 と、ホクホク顔で神城社長に話しているのは、麦野さんお気に入りの営業マン梶田さんだ。オーナーも含めて四人でVRルームへ移動する。

「車で来れて店内も広い。若者だけじゃなくて家族連れのお出かけスポットになればいいんだけどな」

 私のお父さん世代であろうオーナーが腕を組んで言った。広い敷地で絶叫マシーンで遊ぶなら遊園地に行った方が楽しいのに……と、元も子もない事を思っていると、

「あのー……」

 と、遠慮がちな声が入口の方から聞こえてきて、皆で振り返る。
 そこにはヘルメットを装着し、作業着を着た年配の女性が立っていた。ビル前の他建設現場の作業員のようだ。

「すみません、此方のトイレをお借りしてもいいでしょうか?」

「どうぞ」と答えようとした私を遮り、オーナーが顔をしかめて追い払うような仕草を見せた。

「現場には現場員用の簡易トイレがあるでしょうが」

「あるんですけど、女子トイレも男性が使っていて入れないんです」

 その女性は顔色悪くして、不安気に店内を見渡している。

「……ババァはその辺の道端でやっとけよ」

 と信じられない言葉を小さく吐いたのはオーナーだ。
 神城社長と梶田くんは聞こえてなかったかもしれないが、一番近くにいた私の耳には入ってきた。取引先だがこんな男大嫌い。

「社長、私がご案内して差し上げても宜しいでしょうか?」

 オーナーではなく自分のボスに許可を請う。
 神城社長ならば、いくら汚れた作業着を纏っていてもトイレの使用を拒んだりしないはずだ。

「うん。すぐに連れて行ってあげて。店から出たらフロアの左側にあるから」

 神城社長は無表情だったが、声に多少怒りが滲んでいた。それが私でなくオーナーに対するものだと信じたい。

「ありがとうございました」

 作業員の女性が用を足して出ていくと、オーナーは顔を真っ赤にして女子トイレに足を踏み入れた。

「あーあ! 床が泥だらけだっ! だから汚ねーババアは嫌なんだ!」

 気持ちはわかるけど、ここまでキレるだろうか。
 家族連れのNEWスポットにしたいなら、もっと広い心で臨機応変に対応すべきじゃないの?

「私が掃除しますので」

 掃除用具入れを開けようとしたら、オーナーが思い切り私を追いやった。

「よその会社の秘書さんにさせられないでしょう! ほら退いて!」

 手洗い所の蛇口からホースを繋いで泥を流そうとしている。

「あ! 待ってください、ちゃんとハマって……」

 ″ない″と教えようとした私に、勢いよく水飛沫がかかる。ホースと蛇口との隙間から水道水が溢れたのだ。

「あ……」

 オーナーが気が付いた時には、私は土砂降りの雨に打たれかのような有り様になっていた。
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