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「え、発掘に行くんですか!?」
「そう。一年生は大学指定の場所だけどね」
嬉しいことに入学して間もない一年生も、史跡へ発掘調査に行けるらしい。それを聞いたハリエットの顔がニヤけていく。
場所はペア・レジスという南にある海岸沿いの町。そこは、市民がツアーで化石発掘を楽しむ場所でもあり、二年生以上は何度も足を運んでいるらしい。
「そんなに期待して行くと貝掘り程度の発掘なんだからガッカリするよ。まぁ、ハリエットは女の子だからそれくらいがいいのかもしれないが」
二年生のジョーンズが先輩風を吹かしつつ、ハリエットを女の子扱いする。
「ガッカリなんてしないわ。発掘できたら葉っぱだってなんだっていい。来年になったらミスター・ジョーンズより世紀の大発見してみせるから」
「そんな強気な君もミイラを見たら腰を抜かすさ」
「ミイラも、なんならお化けだって大歓迎よ!」
「ほんとかぁ?」
「いや、ハリエットならサタンが現れてもマジで平気そうだよ」
ははは、と笑い合う、和やかな空気の中で、一人、隅で静かに本を読んでいるのがダニーだ。
研究室では、皆で意見を出し合って進めていくものだが、彼は自らそこに入ってくることはない。
(一体、何をするためにこの学部を専攻してるの?)
そう訝しがっているのはハリエットだけじゃなかった。
「ミスター・グリフィン。貴方も参加するんだよね?」
ジョーンズが彼に声を掛け、彼が読んでいた本に注視する。
「……行くよ」
ダニーが顔を上げずに答えた。声にも愛想の欠片も無かった。
「さっきから何の本を読んでるのかと思ったら、考古学や歴史とは無関係っぽいね」
「全く関係ないこともない」
短く反論していたダニーが読んでいた本は、
「"魔術の部屋"? これが僕らの学習との共通点あるって?」
紳士淑女が読むにはちょっとオタク色の強いものだった。ハリエット以外の生徒達がどよめく。
「魔術ってタロットだとか占星術だとか人の心理の隙間をついて騙すものじゃん。僕らは確実に物的証拠や材料から歴史や人物学を学ぶから、全く目的が違うと思うんだよね」
ジョーンズは、元から貴族であるダニーの事が気に入らないのか、ちょっと攻撃的だ。
この大学では、学費を納め、それなりの成績評価を出していれば爵位などの社会階級は関係ないから、こういった反論も無礼とはされない。
険しいダニーの目つきがさらに鋭くつり上がり、ジョーンズを捉えている。
この冷たい瞳に心を撃ち抜かれた女子学生が多いのも事実で、彼目当てに考古学に専攻を変えた者もいるらしい。
そのことが余計にジョーンズの癪に障ったようだ。
「そもそも君は何のために考古学部にいるのか、やる気が無いなら他に移るべ……」
「史跡も魔術も人が残した文化に間違いないんじゃない?」
ここでハリエットが口出しをした。
「科学が発達した今でも魔術を主とした教団や組織はあるし、それが歴史に与えてきた背景もある。今回のペア・レジスでは関連性はないけど、オカルトな知識が必要な時もでてくるわ」
「チッ」
と、舌打ちし、ジョーンズはダニーに絡むのをやめて、他のグループのところへ行ってしまった。おまけに、
「俺を庇ったつもりなら余計な御世話だ」
ダニーからは、疎ましさ満開の視線を向けられる。
「あ、そう。別に庇ったつもりもないけど、でももう少し皆と距離を縮めた方が良いと思うわ。社会に出ても何かしら繋がってくる人もいるわけだし」
「君のように男にチヤホヤされて人気者になったつもりでいる方が見ていて痛々しいよ。もう少し男性との距離をとった方が良いんじゃないか? 淑女の振る舞いとしては、ね」
(痛々しいって……)
ハリエットは、やはりダニーには嫌われてるのだと感じた。
(きっと、私のことを軽薄な女だと思ってるんだ)
別に、構わない。
元々極力関わらないと決めた。彼がああいう態度ならば、そのうち学部でも居づらくなって消えていくに違いない。
ハリエットはダニーの気持ちなど知らずに、ただ彼に呆れていた。
そして。
楽しみにしていた、初めての発掘の日を迎えた。
「そう。一年生は大学指定の場所だけどね」
嬉しいことに入学して間もない一年生も、史跡へ発掘調査に行けるらしい。それを聞いたハリエットの顔がニヤけていく。
場所はペア・レジスという南にある海岸沿いの町。そこは、市民がツアーで化石発掘を楽しむ場所でもあり、二年生以上は何度も足を運んでいるらしい。
「そんなに期待して行くと貝掘り程度の発掘なんだからガッカリするよ。まぁ、ハリエットは女の子だからそれくらいがいいのかもしれないが」
二年生のジョーンズが先輩風を吹かしつつ、ハリエットを女の子扱いする。
「ガッカリなんてしないわ。発掘できたら葉っぱだってなんだっていい。来年になったらミスター・ジョーンズより世紀の大発見してみせるから」
「そんな強気な君もミイラを見たら腰を抜かすさ」
「ミイラも、なんならお化けだって大歓迎よ!」
「ほんとかぁ?」
「いや、ハリエットならサタンが現れてもマジで平気そうだよ」
ははは、と笑い合う、和やかな空気の中で、一人、隅で静かに本を読んでいるのがダニーだ。
研究室では、皆で意見を出し合って進めていくものだが、彼は自らそこに入ってくることはない。
(一体、何をするためにこの学部を専攻してるの?)
そう訝しがっているのはハリエットだけじゃなかった。
「ミスター・グリフィン。貴方も参加するんだよね?」
ジョーンズが彼に声を掛け、彼が読んでいた本に注視する。
「……行くよ」
ダニーが顔を上げずに答えた。声にも愛想の欠片も無かった。
「さっきから何の本を読んでるのかと思ったら、考古学や歴史とは無関係っぽいね」
「全く関係ないこともない」
短く反論していたダニーが読んでいた本は、
「"魔術の部屋"? これが僕らの学習との共通点あるって?」
紳士淑女が読むにはちょっとオタク色の強いものだった。ハリエット以外の生徒達がどよめく。
「魔術ってタロットだとか占星術だとか人の心理の隙間をついて騙すものじゃん。僕らは確実に物的証拠や材料から歴史や人物学を学ぶから、全く目的が違うと思うんだよね」
ジョーンズは、元から貴族であるダニーの事が気に入らないのか、ちょっと攻撃的だ。
この大学では、学費を納め、それなりの成績評価を出していれば爵位などの社会階級は関係ないから、こういった反論も無礼とはされない。
険しいダニーの目つきがさらに鋭くつり上がり、ジョーンズを捉えている。
この冷たい瞳に心を撃ち抜かれた女子学生が多いのも事実で、彼目当てに考古学に専攻を変えた者もいるらしい。
そのことが余計にジョーンズの癪に障ったようだ。
「そもそも君は何のために考古学部にいるのか、やる気が無いなら他に移るべ……」
「史跡も魔術も人が残した文化に間違いないんじゃない?」
ここでハリエットが口出しをした。
「科学が発達した今でも魔術を主とした教団や組織はあるし、それが歴史に与えてきた背景もある。今回のペア・レジスでは関連性はないけど、オカルトな知識が必要な時もでてくるわ」
「チッ」
と、舌打ちし、ジョーンズはダニーに絡むのをやめて、他のグループのところへ行ってしまった。おまけに、
「俺を庇ったつもりなら余計な御世話だ」
ダニーからは、疎ましさ満開の視線を向けられる。
「あ、そう。別に庇ったつもりもないけど、でももう少し皆と距離を縮めた方が良いと思うわ。社会に出ても何かしら繋がってくる人もいるわけだし」
「君のように男にチヤホヤされて人気者になったつもりでいる方が見ていて痛々しいよ。もう少し男性との距離をとった方が良いんじゃないか? 淑女の振る舞いとしては、ね」
(痛々しいって……)
ハリエットは、やはりダニーには嫌われてるのだと感じた。
(きっと、私のことを軽薄な女だと思ってるんだ)
別に、構わない。
元々極力関わらないと決めた。彼がああいう態度ならば、そのうち学部でも居づらくなって消えていくに違いない。
ハリエットはダニーの気持ちなど知らずに、ただ彼に呆れていた。
そして。
楽しみにしていた、初めての発掘の日を迎えた。
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