115 / 134
determination 決意
期限
しおりを挟む
救急車は、この前、葉築さんが運ばれた救急病院に止まった。
慌ただしい院内。
私は、廊下の待ち合いの椅子に座り、寒さに震えながら待っていた。
「え、と患者さんのご家族の方です?」
処置にあたったスタッフの方から聞かれて、
「いえ……知人です」
首を横に振る。
「あ、そう。困ったな」
「……あの、なにか」
「患者さん処置終わったら眠っちゃってね」
「全身麻酔だったんですか?」
「いや、局部麻酔だったんだけど。…… 患者さんが普段服用してる薬とかわからないよね?」
どうやら薬を処方する際の確認が必要だったらしい。
「あの……」
飲んでる薬はわからない。
だけど。
私が茉美から聞いた話が事実なら、橋元先生は過去の病気を再発してる可能性がある。
それも、かなり進んだ状態で。
私は、知ってるだけの情報を病院の方に伝えた。
続けて、警察からも話を聞かれた。
空き巣の窃盗事件としても被害届を出していたので、関連性を尋ねられたり……。
「ひき逃げの容疑でも、その男を上げられるかもしれない」
私は、翌日、会社を休んだ。
「悪かったな。大した事ないのに、会社まで休ませて」
橋元先生が、とても気の毒そうにしていた。
「何言ってるんですか? 先生が来てくれてなかったら、私、死んでたかもしれないんですよ」
受付で、精算を済ませる橋元先生の腕に、そっと寄り添う。
大袈裟じゃない。
立道に殺されはしなくても、また、衝動的に死のうとしたかもしれない。
「……お前は本当に男運が無いというか、悪い男に巡り合っちまうなぁ」
先生は、少し恥ずかしそうにしてたけど、私は、側から離れなかった。
「先生……」
「 なんだ?」
「……私……」
もう、一人にしない。
「先生と一緒に住みたい」
「……は」
先生は、凄く驚いた顔をした。
「何言ってるんだよ」
「私、本気ですよ?」
先生。
私、決めたんです。
もう、逃げないって。
「……何か医者から聞いたのか?」
それには答えなかった。病院側が先生のケガ以外の症状を私に話すわけがなく。
私は、先生から直接聞きたかった。
「……私は、友達から聞いたんです。橋元先生と大学病院の、ある病棟で会ったって」
玄関へ向かっていた先生の足が止まった。
「……松茂 ?」
「そうです。松茂茉美です、少し前、会って話したでしょう?」
「……」
そこは、ガン病棟で、橋元先生は、診察室から出てきたと……。
「茉美には教えて、なんで私に話してくれなかったんですか?」
聞かれて、たまたま吐いてしまったのかもしれない、不安と、懐かしさから。
「……松茂とは、もう会う事もないと思ったんだ。まさか、伊織とまだ繋がってるなんて……」
誰かに伝えたかったのなら、
「一番に話す相手が違いませんか?」
「……かもしれない」
先生と愛し合った私でありたかった。
「……私は…先生にとって…」
それくらい、重い現実、
「……先生の思い出の一部でしかないの?」
ーーー残された、命の期限をーーー
慌ただしい院内。
私は、廊下の待ち合いの椅子に座り、寒さに震えながら待っていた。
「え、と患者さんのご家族の方です?」
処置にあたったスタッフの方から聞かれて、
「いえ……知人です」
首を横に振る。
「あ、そう。困ったな」
「……あの、なにか」
「患者さん処置終わったら眠っちゃってね」
「全身麻酔だったんですか?」
「いや、局部麻酔だったんだけど。…… 患者さんが普段服用してる薬とかわからないよね?」
どうやら薬を処方する際の確認が必要だったらしい。
「あの……」
飲んでる薬はわからない。
だけど。
私が茉美から聞いた話が事実なら、橋元先生は過去の病気を再発してる可能性がある。
それも、かなり進んだ状態で。
私は、知ってるだけの情報を病院の方に伝えた。
続けて、警察からも話を聞かれた。
空き巣の窃盗事件としても被害届を出していたので、関連性を尋ねられたり……。
「ひき逃げの容疑でも、その男を上げられるかもしれない」
私は、翌日、会社を休んだ。
「悪かったな。大した事ないのに、会社まで休ませて」
橋元先生が、とても気の毒そうにしていた。
「何言ってるんですか? 先生が来てくれてなかったら、私、死んでたかもしれないんですよ」
受付で、精算を済ませる橋元先生の腕に、そっと寄り添う。
大袈裟じゃない。
立道に殺されはしなくても、また、衝動的に死のうとしたかもしれない。
「……お前は本当に男運が無いというか、悪い男に巡り合っちまうなぁ」
先生は、少し恥ずかしそうにしてたけど、私は、側から離れなかった。
「先生……」
「 なんだ?」
「……私……」
もう、一人にしない。
「先生と一緒に住みたい」
「……は」
先生は、凄く驚いた顔をした。
「何言ってるんだよ」
「私、本気ですよ?」
先生。
私、決めたんです。
もう、逃げないって。
「……何か医者から聞いたのか?」
それには答えなかった。病院側が先生のケガ以外の症状を私に話すわけがなく。
私は、先生から直接聞きたかった。
「……私は、友達から聞いたんです。橋元先生と大学病院の、ある病棟で会ったって」
玄関へ向かっていた先生の足が止まった。
「……松茂 ?」
「そうです。松茂茉美です、少し前、会って話したでしょう?」
「……」
そこは、ガン病棟で、橋元先生は、診察室から出てきたと……。
「茉美には教えて、なんで私に話してくれなかったんですか?」
聞かれて、たまたま吐いてしまったのかもしれない、不安と、懐かしさから。
「……松茂とは、もう会う事もないと思ったんだ。まさか、伊織とまだ繋がってるなんて……」
誰かに伝えたかったのなら、
「一番に話す相手が違いませんか?」
「……かもしれない」
先生と愛し合った私でありたかった。
「……私は…先生にとって…」
それくらい、重い現実、
「……先生の思い出の一部でしかないの?」
ーーー残された、命の期限をーーー
1
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説


アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる