ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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determination 決意

お風呂

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   葉築さんは、宣言通り、退院すると真っ直ぐに私の部屋にやって来た。

   タクシーから降りる彼の足がまだ引きずっていので、打撲といっても、重症な方なのかもしれないと思った。

 「お風呂、入るでしょ?」

 「うん、入りたい」

   三日間、シャワーも浴びられなかった彼の為に、先に浴槽に湯を張っていた。

   入浴剤等は入れなかったのだけど、そもそも、もう湯船に浸かって良いのだろうか?


 「あんまり長く浸かったらダメ、とは言われたけどね」

   彼は入る気満々だ。

 「温かったりしたら言ってね」

 「うん」

   彼が浴室に消え、私は台所に立つ。

 「……えーと、ミネストローネってコンソメだっけ」

   けれど。
   入ってる間に夕飯を作ろうとした私の背後に、葉築さんは戻ってきてしまった。

  「どうしたの?」

  そして、ギュッと抱き締めてきた。

 「出来たら、一緒に……」

  出来たら、と言うくせに、既に手は私のセーターを間繰り上げていた。




 「初めて一緒に入るね」
 「うん」

   オレンジ色の灯り。

   透明なお湯。

   素っ裸の二人。

    明るい所で縛られてセックスした時よりも、何故か恥ずかしい。


  「あんまり、じっくり見ないで」

   葉築さんが遠慮なく、湯船の身体に視線を注いでるからだ。

  「やっと、その身体が俺だけのモノになるんだなぁ、と思って」

   微笑む彼の身体には、痛々しいアザがある。

  「そういえば、ひき逃げの犯人の事、警察は何か言ってきた?」


   信が言った事が本当なら、葉築さんを狙った犯人が他にいるってことだ。

   実際、信と山下はひき逃げに関しては、警察に拘束もされていない。


 「単なる引ったくりじゃないかって、刑事さんが」

   葉築さんは、湯船のお湯でパシャッと顔を洗うと、少し疲れた表情を見せた。

 「財布を取られたの?」

 「んー、あんまり覚えてないけど、中身が減ってたみたい。万札は無くなってた」

 「……そう」

 「酔ってたから狙われたのかもな。伊織じゃなくてよかったよ」

   葉築さんは、赤い顔で立ち上がり、

 「久しぶり湯船に浸かったから、逆上せた……」

  浴槽のヘリに座って、私を困らせた。

 「……あの、モロなんだけど」

 「初めて見るわけじゃあるまいし」

   狭いアパートの小さな浴槽。

   生まれたままの葉築さんの白い身体が、ピンク色に染まって目の前に突きつけられた。


 「お風呂でするの、キライ?」




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