ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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true love 本当の……

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  「そっか、とうとう客先回りやったのか。疲れたろ?」

   仕事帰り、明日、退院する葉築さんから電話がかかってきた。

 「私は、まだ室岡さんの後を付いて回ってるだけだから」

    二ツ橋商社で、新川さんと話した事は言わない方がいいよね?

  「始めはそんなもんだよ。 ……てか入院て暇だよな。たった3日なのに、時間持てまして仕方ないよ」

 「昼間は何してるの?」

 「スマホゲームに読書、あとは昼寝」

 「優雅ね。いいじゃない、たまにはゆっくりしても」

 「そーなんだけど、3日目となると心身とも淋しくなるよ」

 「夜は怖くてトイレ行けないでしょ?」

 「そういうこと言うなよな」

   他愛もない話をしながら、夜の街を通る。

  「お見舞い、行こうか?」

  「え? 明日退院なのに、いいの?」

  「うん。明日は明日」

   明日は、今後の事をちゃんと話そう。

  「やったね!」

   子供のような反応をする葉築さん。少し前に戻ったみたい。
   電話を切って、コンビニに入った。

    節分が終わり、お菓子のコーナーには桃のケーキやひなあられが置いてある。

  「甘そう」

   大人になって、久しく食べてない桃ケーキを買ってみた。

  

  今日だけは、甘い気持ちで、彼と食べよう。
  ……そう思いながら……。



   ……そう言えば。
   実家にあるはずの雛人形はどうしてるだろう?

    離婚して、狭いアパートに移り住んでからは、おひな祭りが近づいても出さなくなったような……。


   ″ 母さん!仕舞うのを忘れたら伊織が嫁に行き遅れるからな。3月3日には片付けろよ ″

  ″ はいはい ″

  ″ 父さんは、伊織が行き遅れても嬉しいんだろう? ″


    店入り口に飾ってある、紙雛人形を見ながら、まだ離婚する前の、情景ワンシーンを思い出した。

  お父さんと、お母さん、お兄ちゃんがいて……。

  桃ケーキじゃなくて、桃カステラを食べた記憶が。

   お父さんはクリスマスに見かけたけど、お兄ちゃんは元気なのかな?

   どうしたら会えるだろう?

    私が、もし結婚をしたら、祝福に二人とも来てくれるだろうか?


   ……でも。
   私は、きっと一生、結婚することないな。
   何となくそんな気がした。


 「伊織」



   店を出たところで、名前を呼ばれ、そちらを見る。

    外が暗くて、すぐに誰か分からなかったのだけど、目を凝らして見て、

  「!」

   声の主に、体が固まった。



「伊織、久し振りだな」


  ーーー信。

「……あ」

  去年、駅付近で話しかけれた、あれ以来だった。

「……なんで、ここにいるの?」

    私の部屋に空き巣を装って侵入し、盗撮カメラを置いたくせに。

   どうして、平然と私の前に現れられるの?

 「伊織を待ってたんだよ」

   葉築さんを襲った犯人かもしれないのに、なんで警察に捕まってないの?

 「ちゃんと話をしたい」

 「……なにを?」

   信の背後にある車には、見たことのある男が乗っている。
   ……前にも一緒にいた、同級生の山下だ。

   信は、ベンツではない車に乗って来たようだった。



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