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true love 本当の……
私情
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二ツ橋商社の本社を訪れ、そのお洒落な外観に圧倒された。
自社ビルとのことで、近代的であるにもかかわらず、一階部分は外国の古い建物のような外壁。
その一階の展示コーナーには、外から見えるように高級車が品良く並べられていた。
「ひゃあ、スゲーな。アウディにフォルクスワーゲン、ベンツ」
元々車が好きらしい室岡さんは、案内されながら、かなり興奮していた。
……ベンツか。
葉築さんをひいた、車両の分析はもう終わったのだろうか? タイヤ痕からもたどり着くはずだけど。
一階から、上階の応接室に移動する間、仕事とは関係の無い、事故の事を考えていた。
これから、EDKKグローバルの対応力が試されるとも知らずに……。
「お待ちしておりました。先日ご挨拶させていただいた新川です」
エレベーター先で出迎えてくれた新川さんは先日と同じように、カッコいいパンツスタイルで、颯爽と中へ案内してくれた。
「鷲塚と申します。宜しくお願いしたします」
通された応接室で、早速、客先の支店長と新川さんに名刺を渡した。
「営業の方だったんですね、私、てっきり事務職の方だとばかり……」
新川さんは、私の名刺を見て、ちょっとイヤな笑い方をした。
「鷲塚は、有能な事務員だったんですけどね。急病者なんかで人員不足に陥ったもので、急遽、白羽の矢が立ったんです」
室岡さんの言ってる事は、半分以上間違っている。
私は、有能でもなかったし、退職を目論まれて異動しただけ。
それでも、口角を下げることなく、上司の言葉に耳を傾けていた。
「そうですか、事務職からの異動ですか?それは大変ですね、まぁ上司の室岡さんがしっかりとご指導されるでしょうから、その辺は心配ないですね」
二ツ橋商社の支店長は、室岡さんとは懇意的な関係らしく、にこやかに私達と話をしてくれていた。
「えー、四月から佐賀ですか!? そして後釜は、あの葉築くん!? そうですか、それは何かとお忙しいですね……うちとしては、引き続き信頼おけるEDKKさんに……」
けれども。
新川さんはちょっと違った。
「その件なんですけど」
厳しい目を私達に向けて、あの事を投げ掛ける。
「先月、EDKKさんで大きな不祥事がありましたよね? ウィルスによるサーバーシステムエラーと情報漏洩」
室岡さんの笑顔が、一気に崩れた。
「うちは、その前の商品を使っているわけですが、今後バージョンアップする際のリスクを考えて、他社のものを導入したいと考えてます」
ただの挨拶回りのはすが、契約更新無しの話が……。
これは、会社の人間としての発言なの?
それとも……。
「障害事例の公開というのは、そのお客様のコンプライアンス規定に基づくと、なかなか難しい問題で……」
室岡さんの額には、じわりと汗が滲んでいた。
「そんな呑気こと言ってるから得体の知れないウィルスに狙われるんじゃないんですか?」
「おい、新川くん、そんな突っかかってどうした?」
彼女の厳しい意見に、上司の方も困惑し、室岡さんも珍しく言葉を失って、出されたお茶をごくごくと飲んでいた。
新川さんは、黙って聞いていた私にも鋭い視線を移して、
「担当営業が、優秀な奥田さんから、この新人の鷲塚さんに代わられる時点で、不安材料は尽きません」
不満を露にしてきた。
それって……
「鷲塚さん、あなたも営業になる事を決められたのなら、ここで今回の不祥事に対する策や意見をおっしゃるべきです」
私情?
と、言いたかったのだけど、彼女の求めるものも確かに分かり、
「……あの」
私は、自分なりの言葉を咄嗟に、頭の引き出しから引っ張り出していた。
もう、私は、雑用の庶務係ではないんだと言い聞かせながら……。
自社ビルとのことで、近代的であるにもかかわらず、一階部分は外国の古い建物のような外壁。
その一階の展示コーナーには、外から見えるように高級車が品良く並べられていた。
「ひゃあ、スゲーな。アウディにフォルクスワーゲン、ベンツ」
元々車が好きらしい室岡さんは、案内されながら、かなり興奮していた。
……ベンツか。
葉築さんをひいた、車両の分析はもう終わったのだろうか? タイヤ痕からもたどり着くはずだけど。
一階から、上階の応接室に移動する間、仕事とは関係の無い、事故の事を考えていた。
これから、EDKKグローバルの対応力が試されるとも知らずに……。
「お待ちしておりました。先日ご挨拶させていただいた新川です」
エレベーター先で出迎えてくれた新川さんは先日と同じように、カッコいいパンツスタイルで、颯爽と中へ案内してくれた。
「鷲塚と申します。宜しくお願いしたします」
通された応接室で、早速、客先の支店長と新川さんに名刺を渡した。
「営業の方だったんですね、私、てっきり事務職の方だとばかり……」
新川さんは、私の名刺を見て、ちょっとイヤな笑い方をした。
「鷲塚は、有能な事務員だったんですけどね。急病者なんかで人員不足に陥ったもので、急遽、白羽の矢が立ったんです」
室岡さんの言ってる事は、半分以上間違っている。
私は、有能でもなかったし、退職を目論まれて異動しただけ。
それでも、口角を下げることなく、上司の言葉に耳を傾けていた。
「そうですか、事務職からの異動ですか?それは大変ですね、まぁ上司の室岡さんがしっかりとご指導されるでしょうから、その辺は心配ないですね」
二ツ橋商社の支店長は、室岡さんとは懇意的な関係らしく、にこやかに私達と話をしてくれていた。
「えー、四月から佐賀ですか!? そして後釜は、あの葉築くん!? そうですか、それは何かとお忙しいですね……うちとしては、引き続き信頼おけるEDKKさんに……」
けれども。
新川さんはちょっと違った。
「その件なんですけど」
厳しい目を私達に向けて、あの事を投げ掛ける。
「先月、EDKKさんで大きな不祥事がありましたよね? ウィルスによるサーバーシステムエラーと情報漏洩」
室岡さんの笑顔が、一気に崩れた。
「うちは、その前の商品を使っているわけですが、今後バージョンアップする際のリスクを考えて、他社のものを導入したいと考えてます」
ただの挨拶回りのはすが、契約更新無しの話が……。
これは、会社の人間としての発言なの?
それとも……。
「障害事例の公開というのは、そのお客様のコンプライアンス規定に基づくと、なかなか難しい問題で……」
室岡さんの額には、じわりと汗が滲んでいた。
「そんな呑気こと言ってるから得体の知れないウィルスに狙われるんじゃないんですか?」
「おい、新川くん、そんな突っかかってどうした?」
彼女の厳しい意見に、上司の方も困惑し、室岡さんも珍しく言葉を失って、出されたお茶をごくごくと飲んでいた。
新川さんは、黙って聞いていた私にも鋭い視線を移して、
「担当営業が、優秀な奥田さんから、この新人の鷲塚さんに代わられる時点で、不安材料は尽きません」
不満を露にしてきた。
それって……
「鷲塚さん、あなたも営業になる事を決められたのなら、ここで今回の不祥事に対する策や意見をおっしゃるべきです」
私情?
と、言いたかったのだけど、彼女の求めるものも確かに分かり、
「……あの」
私は、自分なりの言葉を咄嗟に、頭の引き出しから引っ張り出していた。
もう、私は、雑用の庶務係ではないんだと言い聞かせながら……。
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