ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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true love 本当の……

立ちはだかるもの

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 「 後悔? するとしたら、それは伊織を手放す事だよ。もう、俺にとっては、ただの同僚でもないし、姉さんの敵でもない。もちろん浮気相手でもない」

  ″ 浮気相手 ″じゃない……。

   葉築さんの言葉が、熱を持って私の胸に突き刺さる。

  「だから、もう、こそこそ会う必要もない。退院したら、真っ先に会いに行くけど、いい?」

  「私の家に?」

  「そう。伊織の部屋に」

  「……」

   堂々と付き合うのが、私なんかでいいの?

   秘密の関係だから。
   密会だから、燃える関係もあるんじゃないの?

  「それに、心配なんだよ」

  「え……」

  「まだ、元カレ捕まってないんだろ? だから、絶対に行くから、じゃあね」

  「あ、……待っ」

  ブッ!

  葉築さんは、一方的に電話を切ってしまった。

  嬉しいのに、芯から喜べない私には、きっと迷いがある。

   部屋のいたる所に設置してある防犯グッズを見ながら、過去の恋を想った。




  ーーーー



  「鷲ちゃん! 例のクライアントの補償処理、もう終わった?」

   葉築さんが、段取りなしで三日休むだけで事務所はてんてこまい。

 「はい、先に書類送って、損失分の振込依頼も、小村さんに提出しました」

 「了解! 」

   室岡さんは、転勤の為の引き継ぎもしなきゃいけない身なのに、それどころじゃなさそうだ。

 「あー、 あとさ、 葉築が回る予定だった所に、午後から鷲ちゃん連れて行くから! 準備しておいてー」

  「は、はい」

   そんな中で、じわりじわりと私の営業ウーマンとしての準備行動が増えてきて、いよいよ転機の時なんだな、と思った。

 「……よし、名刺は持った」

  そんな私の、今日のスーツはパンツスタイルだ。



 「まだ鷲塚は営業になったばかりですが、根が真面目で努力家で。これから、会社も急ピッチで戦力になるように育てるつもりです」

   いつもは、適当な感じの室岡さんも、クライアントではちゃんと葉築さんのフォロー、アンド私の紹介も支店長らしく、してくださった。(当たり前なんだけど)

  もう逃げられない、という覚悟は自然と出来ていた。

 「精一杯、御社のお力添えになるように精進していきますので」

   頭を下げながら、先日の新川さんを思い出していた。

   知的で優雅で……、あんな風に、自信持って生きていられたら……。


 「……鷲ちゃん、最後の客先なんだけど」

   三件ほど挨拶まわりが終わると、運転していた室岡さんが、言いにくそうに口を開いた。

 「はい? 二ツ橋商社、ですよね」

   新川さんが勤めている、うちの古くからの取引先だ。埼玉、東京、千葉と、エリアが大きく、外国車を取り扱う会社。

  「行くのは都内の本社なんだけど、あの人がいるらしい。葉築の彼女」

  「え」

  思わず、鞄を握りしめた。

  「千葉営業所の人なんだろうけど、今、葉築のケガでこっちにいるもんだから、東京で仕事してるって。あちらに鷲ちゃんの訪問を伝えたら、自ら、応対を買って出たらしい」

 「そー……なんですか」

  凄いな。
  他営業所で、挨拶回りの業者の応対に出てくるなんて。

 「鷲ちゃん、しっかりな」

 「……はぁ」

   葉築さんとの事を、知ってるのか知らないのか定かではないけれど、室岡さんは、気にかけてくれていた。

   一方の彼女は、私が別れの原因であること、知っているのだろうか?

   どっちにしても……。

   頑張ろう。
   緊張ハンパないけど、仕事だもの。

   ……ただの挨拶回り。いきなり受注を取ってくるんじゃない。

  そう心でいい聞かせて。
   助手席の窓から、前方に立ちはだかるオフィスビルを見上げてた。

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