ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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fluctuation 変動Ⅲ

意外性

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  そして。
  俺は、とうとう鷲塚伊織を誘う事に決めた。

   彼女の幼少期の話を聞いたり、情は移ってはいたものの……試してみようと思った。

   彼女が、男に対して、どんな価値観を持ち備えているのか、貞操観念はやはり軽いのか。


  「仕事終わったら飯でも行かない?」

   彼女のいる俺からの誘いを受けたら、黒。

   そしたら、この女の薄幸めいたオーラは、たんなる化けの皮なんだと、そう思うことに。

   ーー鷲塚は断らなかった。


   そういう女だよ。

   不倫して、相手の家族を苦しめるような。

   だから、こいつを落として、俺に夢中にさせ、
そして捨てる。

   そう決めたら、その夜に抱いてしまう事に迷いはなかった。


  「東京タワー見ながら、珈琲を飲もう」

   恋人とはしないようなセックスをした。

   普通にするのは抵抗があったからだ。

   拘束して、明るい部屋で辱しめるように抱く。


  すると。
  この時、鷲塚伊織の表情が驚くほど変わった。

   あんなに色も存在感もなく、幽霊みたいだと思った顔が紅潮し、目を疑うほど艶やかに照り出して、

  「……キレイだ」

  思わず、声を漏らした。

  おまけに感度が良く濡れやすい。

  まるで、昔からセックスをしてるみたいに波長が合った。


   夢中にさせるつもりが、俺の方が伊織に溺れかけていた。




    ーー俺との秘密の関係を続けているうちに、鷲塚伊織は彼氏と別れた。

   八年も付き合っていたのに、俺が現れた事で、あっさり捨てた。

    やっぱり、そういう人間なんだと思う反面、俺に本気になってるんだという悦びも湧いていた。

   ーーでも。
  後者の方の感情は蓋をした。

    鷲塚伊織の結婚を止めさせ、人並みの幸せを壊すのが目的だったから。

   だから、ひたすら突き放した。

    彼女が立道に襲われそうになった夜も、一度は見捨てた。
   見なかった事にしようと、接待の席にそのまま戻りかけた。

  けど、できなかった。



 「レイプはまずいんじゃないですか?」

   立道に叩かれた顔も痛々しく、抱き起こしてやりたい気持ちにもかられたけれど、


 「鷲塚さんを助けたんじゃない、自分のために会社を守ったんだ」

   再び突き放して、鷲塚伊織に近づいた目的も話した。
  失望する女の様は、本来望んでいた姿。

  できるなら、もう会社も辞めてほしい。

   それが楽だ。

   だから社長にも、「鷲塚さんは営業に向いてます」と答え、更に彼女を追い詰めることにした。


  それなのに、

 「辞めません」

   鷲塚伊織は、秘めていた強さを見せてくるようになる。

    姉さんに会わせる事からも逃げなかったし、営業としての、急な接待にも、不十分ながら対応した。

   いつも自信無さ気でオドオドしていたくせに。
   空回りはしつつも、何とか前進しようとする。

   惹かれる気持ちに嘘はつけなかった。

  だから。
  つい、キスをした。

  接待で酔いつぶれた彼女の、無防備な唇を奪った。


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