ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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fluctuation 変動Ⅱ

握手

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 「きっと、空き巣のフリをして何処かにカメラを設置したんじゃないかな」

  葉築さんは、私のアパートに向かう前に、大型電器店に寄ってくれていた。

 「無線タイプのカメラなら、スマホで発見できる事もあるんだけど、そうじゃない時のために探知機を買っていこう」

 「市販で売ってるの?」

 「盗撮カメラだって売ってあるんだからあるさ」

 「え、盗撮カメラも??」

 「名目や商品名は、あくまでも【防犯カメラ】だよ。でも、残念な事に犯罪に使われる時もある」

  聞いていて、ゾクッとした。
  信が、私を盗撮する為に、どんな顔をしてそのカメラを買ったのか。

   普段はそんな犯罪めいた雰囲気がない人だからこそ、想像したら余計に怖かった。


 「¥1280」

  探知機、案外お手頃な値段で売ってあるんだな、と思っていたら、防犯カメラも数万円で売っていてカルチャーショックを受ける。

 「犯罪がなくならないわけだよ。ネットが普及した今じゃ盗撮画像はすぐに配信できる金儲け商品だろうから」

  葉築さんは、淡々とそんな事を言ったけど、不安で不安で仕方なかった。

  信は、撮影した画像をどうする気だろうか? と。

 「それにしても、空き巣に入られてから結構時間経ったよな? 彼氏は鷲塚さんの色んなところを観て楽しんでたんだな」

 「……」

  楽しんでるだけなら、まだいい。まさか、ネットに流したりはしてないよね?
  最悪、裏ビデオ的なモノで売ってたり……

  無口になって、家に向かう足もすっかり重くなった私に、

 「カメラを見つけたら直ぐに警察に行けばいい。
もう犯人も分かってるんだから、大丈夫」

  先は真っ暗ではないと、葉築さんが言葉を添えてくれる。
  この人が言うと、本当に大丈夫な気がしてきた。

  「……はい……」

  私は頷いて、アパートに向かう足を早めた。


   もし、今夜、葉築さんが一緒でなければ、アパートに戻るのは怖かったかもしれないし、あまりの恐怖で、また、橋元先生に電話をしていたかもしれない。

  そう思うと、やっぱり私は不埒な女で、信に罵られても仕方ないような気がしてきた。


  「……ふぅん、これが防犯グッズ?」

  先生がドアに設置してくれたカード式の施錠を、感心した顔で葉築さんが見ている。

 「ダミーの防犯カメラ……こういうのも怪しいんだよな」

  そして、他の防犯グッズも見つけては、探知機を向けていた。

 「やっぱり、ダミーだった」

  先生が付けたものだからか、何となくホッとして葉築さんと一緒に部屋に入っていく。

 「どーれかな?」

  葉築さんは、ちょっと子供みたいな顔をして部屋中を見渡していた。
  探す事にワクワクしてるみたいな……。

  この人、たまにこういう顔をするよね。まるで犬が鼻をきかせて散歩してるみたい。

 「あ、これじゃね?」

 「え、これ?」

  探知機が反応したのは、ベッド真上にあるACアダブターと、パソコンそばにあるUSBたった。

  これの何処にカメラが?

  葉築さんがまず、黒いUSBの側面を触って、

 「見て、ここに小さい穴があるだろ?」

 その直径一ミリ位の穴を私に見せた。

 「本当だ……凄い小さいレンズ……」

  この大きさで撮影できるんだと、技術の進歩をこんなに恐ろしく感じた事はない。

 「あと、これも同じ。 前からこんな所に差してた?」

  葉築さんはアダブターも抜いて、私に小さなレンズを見せつける。

 「……普段……色々な所に差し直すから、全然怪しんでなくて」

  このアングルなら、確かに先生との絡みは撮影できると思った。

  きっと、先生の顔も映ってる。
  身体も、
  傷もーーー

  ドクン!と、別の不安が押し寄せた。

  ……もし、画像が晒されたら……先生にも多大な迷惑がかかると……。


 「これに何か証拠残してればな。指紋とか、設置時の犯人の顔とか……鷲塚さんの携帯に画像を送りつけた時点で自白してるようなもんだけど」

  抜いた盗撮カメラを見つめ、葉築さんは、まるで犯人に話しかけているみたい。
  きっと、信を挑発して尻尾を出すのを誘ってるんだ。わかってはいたけど……。


 「……やっぱり、警察には届けるのやめようかな」

  先生の事を思ったら弱気になってしまって。

 「なんで? 世間体が気になる?」

  でも、葉築さんには先生の事を話せないから、

 「 そう……だって、警察も見ることになるんでしょ?」

  何とか、話し合いで決着が着かないだろうかと考えた。

 「……そうか。俺なら警察に頼るけど。鷲塚さんは女だもんな。」

  ちょっと、気抜けした感じで腰を下ろした葉築さんは、スッと私に手を差し出してきた。

  え、なに?
  握手?

   意味分からなかったけど、とりあえず葉築さんの手を握った。

 「そうじゃない!」

   葉築さんは笑いながら、首を横に振って、

 「電話……貸して。元彼に電話するから」

  信と話をしようとしてくれていた。




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