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outflow 流出
月と雲
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卑猥な事を聞いてきた葉築さんの顔が、夜の闇に邪魔されて良く見えなかった。
「……あれから、って?」
「会議室」
「……」
ーーしてない。
厳密に言えばそうだ。
信とは会ってないし。橋元先生とは、もう少しのところで止まった。
「どうして、そんなこと聞くの?」
狭い階段の踊り場。
冷たい風は、ビルとビルの間をすり抜けて、ビュウッと不気味な音を鳴らして私達を襲ってくる。
私を引き寄せた葉築さんは、酒臭い息を私の耳元に吐きかけながら、屈辱的な事を言った。
「誰にも抱かれなくなって干からびたあんたは、
人目のない場所にも、こうやって簡単に付いてくるって分かってた」
私を、″ かわいそうな女 ″ として、「抱いてやる」とーー
「……冗談……」
こんな所で?
辱しくて、葉築さんの身体をグッ押し退けるも、過度に暴れると二人とも落ちそうな脆い階段。
弱い抵抗は無意味でーー
私の身体の向きを変えたあと、葉築さんの手は、背後から、スカートの中に伸びてきた。
「ここ、一番上だから、周りのビルからも見えないよ」
思わず、恥ずかしい格好のまま、錆びた柵に掴まって周囲を見渡した。
下着の中を汚されながら、柵に掴まって夜の街を見下ろす。
クリスマスの時と同じように、冬の並木道はきらびやかで明るくて、ただ歩いてるだけの人も幸せそうに見えた。
「もう、普通のセックスじゃ満足しないんじゃないの?」
「……そんなことない」
「嘘つけ、こんなシチュエーションでも、ちゃんと準備できてんじゃん、ここ」
背後から話す葉築さんの声が、闇に吸い込まれて、風とともに飛んでいくように感じた。
「……ッ」
的確な場所を知る指に翻弄され、湿ってくる体。
「あそこにいる人に見られたら、と思うと濡れるんだろ?」
「……人……」
葉築さんに言われて顔を上げると、所々灯りの点いたビルに人影が映っていた。
でも、本当にゴマ粒のようにしか見えなくて……。
向こうからはきっと、私達は見えないんだと思った。
「……こんな風に、たまになら相手してやるよ」
スカートも捲り上げられ、胸もはだけて。
襲われるように、一つになろうとしている。
寒くて、惨めで仕方ないのに、なんで、私、感じてるんだろう?
「挿れにくい、もっと腰あげろよ」
今まで重なった時のどれよりも荒々しく、私の身体を押さえつけてくる。
ーーこの人には、愛情のひと欠片もないんだ。
そう思うと余計に悲しくて。顔の方も、自然と濡れていった。
涙を振り払うように顔を上げる。
真っ暗な空に、大きな満月。
月の明かりに照らされた不気味な雲が、こちらに向かってるように見えた。
不穏な雲を見てると、今にも飲み込まれそうで、とても怖くなった。
それから目をそらして、並木道にもう一度視線を落とす。反して、その幸せの象徴のような明るさに、惨めな気持ちは膨らんでいき……
急に、消えて、なくなりたいと思った。
私は、きっと、これからも、こんな風に愛を貰えない関係しか築けない。
私から愛しても、それが返ってくることがない関係しか結べないのだと……。
実際、結婚も子育ても遠退いたーー
どちらも、今の私には掴めない幸せなのかもしれない。
ーー私は、一生、一人かもしれない。
そうだとしたら、私は、何のために生まれてきたんだろう?
こんな風にセックスするため?
それなら私って、要らないんじゃないの?
生きてる価値あるの?
ーー死んだら、母以外、誰が悲しんでくれるの?
そんな事ばかりが頭を駆け巡っていく。
私は、中に、男の部分を挿れようとした葉築さんから離れ、掴まっていた柵に身体を乗り出した。
あの明るい所へ、飛び込んでしまおうと思った。
「……あれから、って?」
「会議室」
「……」
ーーしてない。
厳密に言えばそうだ。
信とは会ってないし。橋元先生とは、もう少しのところで止まった。
「どうして、そんなこと聞くの?」
狭い階段の踊り場。
冷たい風は、ビルとビルの間をすり抜けて、ビュウッと不気味な音を鳴らして私達を襲ってくる。
私を引き寄せた葉築さんは、酒臭い息を私の耳元に吐きかけながら、屈辱的な事を言った。
「誰にも抱かれなくなって干からびたあんたは、
人目のない場所にも、こうやって簡単に付いてくるって分かってた」
私を、″ かわいそうな女 ″ として、「抱いてやる」とーー
「……冗談……」
こんな所で?
辱しくて、葉築さんの身体をグッ押し退けるも、過度に暴れると二人とも落ちそうな脆い階段。
弱い抵抗は無意味でーー
私の身体の向きを変えたあと、葉築さんの手は、背後から、スカートの中に伸びてきた。
「ここ、一番上だから、周りのビルからも見えないよ」
思わず、恥ずかしい格好のまま、錆びた柵に掴まって周囲を見渡した。
下着の中を汚されながら、柵に掴まって夜の街を見下ろす。
クリスマスの時と同じように、冬の並木道はきらびやかで明るくて、ただ歩いてるだけの人も幸せそうに見えた。
「もう、普通のセックスじゃ満足しないんじゃないの?」
「……そんなことない」
「嘘つけ、こんなシチュエーションでも、ちゃんと準備できてんじゃん、ここ」
背後から話す葉築さんの声が、闇に吸い込まれて、風とともに飛んでいくように感じた。
「……ッ」
的確な場所を知る指に翻弄され、湿ってくる体。
「あそこにいる人に見られたら、と思うと濡れるんだろ?」
「……人……」
葉築さんに言われて顔を上げると、所々灯りの点いたビルに人影が映っていた。
でも、本当にゴマ粒のようにしか見えなくて……。
向こうからはきっと、私達は見えないんだと思った。
「……こんな風に、たまになら相手してやるよ」
スカートも捲り上げられ、胸もはだけて。
襲われるように、一つになろうとしている。
寒くて、惨めで仕方ないのに、なんで、私、感じてるんだろう?
「挿れにくい、もっと腰あげろよ」
今まで重なった時のどれよりも荒々しく、私の身体を押さえつけてくる。
ーーこの人には、愛情のひと欠片もないんだ。
そう思うと余計に悲しくて。顔の方も、自然と濡れていった。
涙を振り払うように顔を上げる。
真っ暗な空に、大きな満月。
月の明かりに照らされた不気味な雲が、こちらに向かってるように見えた。
不穏な雲を見てると、今にも飲み込まれそうで、とても怖くなった。
それから目をそらして、並木道にもう一度視線を落とす。反して、その幸せの象徴のような明るさに、惨めな気持ちは膨らんでいき……
急に、消えて、なくなりたいと思った。
私は、きっと、これからも、こんな風に愛を貰えない関係しか築けない。
私から愛しても、それが返ってくることがない関係しか結べないのだと……。
実際、結婚も子育ても遠退いたーー
どちらも、今の私には掴めない幸せなのかもしれない。
ーー私は、一生、一人かもしれない。
そうだとしたら、私は、何のために生まれてきたんだろう?
こんな風にセックスするため?
それなら私って、要らないんじゃないの?
生きてる価値あるの?
ーー死んだら、母以外、誰が悲しんでくれるの?
そんな事ばかりが頭を駆け巡っていく。
私は、中に、男の部分を挿れようとした葉築さんから離れ、掴まっていた柵に身体を乗り出した。
あの明るい所へ、飛び込んでしまおうと思った。
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