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outflow 流出
非常階段
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突如、座りこんでいた葉築さんに抱きつかれ、その勢いで尻餅を着いた私。
「……まだって?」
誰かに見られたら大変だ。
その酒臭い身体から逃れようとしたけど、酔っぱらいの癖に力はあってダメだった。
「……外……行く、ここ、無理……」
けして図体が大きい方ではない葉築さんでも、こんな風に抱きつかれて脱力されると潰れそうになる。
「外の空気吸いたいの?」
吐きたいわけではなさそうなので、頷く葉築さんの脇に手を添えてあげると、彼は私から離れて、立ち上がって歩き出した。
「……」
帰る、わけじゃないのよね?
まだ、ふらふらしながら店外に行く葉築さんの後を追った。
……一人にしてはおけない。
「大将、おあいそー!! 」
背後で、うちの幹事の声が聞こえたけれど、もうそちらは見なかった。
葉築さんは店を出て一階に降りると、封鎖してある非常階段の前に立ち止まった。
「……通行止めかぁ……」
その立入禁止の意味である、鉄製の扉を開けようとし、
「かた…っ…」
諦めて、そのままゲートを乗り越えた。
「葉築さん!? そこ入ったらダメですよ!」
酔っぱらいは、子供のような真似をする。
「風が気持ちいい」
私の制止もシカトして、ふらつく足で階段を昇り始めた。
もう、本当に手が焼ける。
「さむっ」
この人、外、好きだな。
同じように扉を乗り越え、後を追いながら……屋上でキスした事や、非常階段で珈琲飲んだ事を思い出した。
……さっき、抱きついてきたのは、酔った勢いだろうけど。
心底から嫌われてるんじゃない、と思えて……ちょっと嬉しかった。
「なんで、ついてくんの?」
振り返って私を見る葉築さんの顔は、少し酔いが醒めたようだ。
暗闇だけど、瞼がさっきより開いてるのが分かる。
「飛び降りたりしないか心配だから」
「俺はそんな人間じゃない」
非常階段の一番上は、屋上に繋がっていたけれど、入り口は施錠されていた。
「酔いを醒ましたいなら、こんな所じゃなくても……」
1月の夜風の冷たさは尋常じゃない。ガタガタと震えて歯もガチガチだ。
そんな私を、鼻で笑った葉築さんは、
「酔いを醒ましたいから、ここに来たんじゃないよ」
私の肩を掴んで、再びグイッと引き寄せた。
「あれから、誰ともしてないんだろ?」
「……まだって?」
誰かに見られたら大変だ。
その酒臭い身体から逃れようとしたけど、酔っぱらいの癖に力はあってダメだった。
「……外……行く、ここ、無理……」
けして図体が大きい方ではない葉築さんでも、こんな風に抱きつかれて脱力されると潰れそうになる。
「外の空気吸いたいの?」
吐きたいわけではなさそうなので、頷く葉築さんの脇に手を添えてあげると、彼は私から離れて、立ち上がって歩き出した。
「……」
帰る、わけじゃないのよね?
まだ、ふらふらしながら店外に行く葉築さんの後を追った。
……一人にしてはおけない。
「大将、おあいそー!! 」
背後で、うちの幹事の声が聞こえたけれど、もうそちらは見なかった。
葉築さんは店を出て一階に降りると、封鎖してある非常階段の前に立ち止まった。
「……通行止めかぁ……」
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「かた…っ…」
諦めて、そのままゲートを乗り越えた。
「葉築さん!? そこ入ったらダメですよ!」
酔っぱらいは、子供のような真似をする。
「風が気持ちいい」
私の制止もシカトして、ふらつく足で階段を昇り始めた。
もう、本当に手が焼ける。
「さむっ」
この人、外、好きだな。
同じように扉を乗り越え、後を追いながら……屋上でキスした事や、非常階段で珈琲飲んだ事を思い出した。
……さっき、抱きついてきたのは、酔った勢いだろうけど。
心底から嫌われてるんじゃない、と思えて……ちょっと嬉しかった。
「なんで、ついてくんの?」
振り返って私を見る葉築さんの顔は、少し酔いが醒めたようだ。
暗闇だけど、瞼がさっきより開いてるのが分かる。
「飛び降りたりしないか心配だから」
「俺はそんな人間じゃない」
非常階段の一番上は、屋上に繋がっていたけれど、入り口は施錠されていた。
「酔いを醒ましたいなら、こんな所じゃなくても……」
1月の夜風の冷たさは尋常じゃない。ガタガタと震えて歯もガチガチだ。
そんな私を、鼻で笑った葉築さんは、
「酔いを醒ましたいから、ここに来たんじゃないよ」
私の肩を掴んで、再びグイッと引き寄せた。
「あれから、誰ともしてないんだろ?」
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