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outflow 流出
放っておけない
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せっかく噂が消えかけているのに、馴れ馴れしくそばに寄るのはどうかと思い、
「はい、これ、軟水です」
無造作に葉築さんの前にミネラルウォーターを置いた。
「……なに、水?」
眠たげな瞳で、差し出したペットボトルを見つめる葉築さん。
その横顔が柴犬みたいで、ちょっと笑ってしまった。
「そう、支店長がどうぞって」
「……ハァン、気が利くなぁ、さすがムラオカさん」
「むろ岡さんね」
「……こまけーなぁ……女は」
呟くように吐き捨てると、直ぐにボトルの蓋を開けて、それが雑なので、カウンターテーブルに溢れていた。
「あーあ……やっちまったぁ……」
「……」
こんなに酔った葉築さんは見たことない。
そして、それをそのまま飲むのかと思いきや、
「大将~……これで水割り作ってー! 水割りには軟水だよなーぁ」
まだ酒を飲む気でいた。
「ちょ、葉築さん! 一件目でこんなに飲んだら皆に迷惑かけますよ」
私も人の事は言えないが、この人が、そんなに強くないことは知ってる。
出てきた水割りを取り上げると、
「ほっとけよ!」
また、あの冷たい目を向けられた。
……忘れてた。
私、葉築さんに嫌われてたんだ……。
あんな風に突き放されたら、元々臆病者の私は近づけない。
「あらー、鷲塚さんもフラれたのー?」
どこか嬉しそうな荒城さんにイラついたけれど、仕方ない、と思った。
私は、憎まれるべき人間……。
「カシスオレンジください」
二杯目のカクテルを頼んでいると、室岡さんが焼酎を片手に、私の隣に座って話し始めた。
騒々しい店内、室岡さんの声は顔を近づけないと聞こえないほど。
「本当は、葉築が独自で調べて辿り着いてたんだ。立道がうちの管理システムにハッキングできる業者と繋がってたのを…… 」
「……え」
そういえば、事件が起きてから、やたら会議室に籠って電話をしてるな、とは思ってた。
「でも、会社はそれをあえて認知しない。架空のサーバーウィルスのせいにして幕を閉じた。アイツは、立道にも会社にも裏切られた気持ちなんだよ。
情報を抜かれた客の怒りは、引き継いだ葉築に向けられるしな」
室岡さんが心配そうに葉築さんの方を見ると、彼はトイレに向かっていた。
その足元は完全にふらついている。
「……」
……気になっても拒絶されるのも嫌だった私は、見なかったことにした。
けれど。
10分。
20分。
しばらく二人飲みながら話していたけど、その間に戻ってくる事はなかった。
「……ちょっと見てきます」
彼のバッグが、席に置かれていたままたったので、帰ってないと確信した私は、奥のトイレに様子を見に行った。
すると、やっぱり、葉築さんは手洗い場で、ぐったりと座りこんでいた。
「大丈夫、……じゃないですよね? タクシー呼びますか?」
まるで、この前と立場が逆。
私は、こんな風に迷惑をかけたんだと反省しつつ、返事の無い葉築さんを前に、スマホでタクシーを呼ぶことに。
「はい、芝○丁目あたりの四谷ビル……」
お店の大まかな場所を伝えていると、
「……!」
葉築さんが、その電話を掴んで引っ張った。
「何……す」
するの?
ーー…言う前に、
「まだ、呼ばなくていい」
引き寄せられ、抱きつかれた。
「はい、これ、軟水です」
無造作に葉築さんの前にミネラルウォーターを置いた。
「……なに、水?」
眠たげな瞳で、差し出したペットボトルを見つめる葉築さん。
その横顔が柴犬みたいで、ちょっと笑ってしまった。
「そう、支店長がどうぞって」
「……ハァン、気が利くなぁ、さすがムラオカさん」
「むろ岡さんね」
「……こまけーなぁ……女は」
呟くように吐き捨てると、直ぐにボトルの蓋を開けて、それが雑なので、カウンターテーブルに溢れていた。
「あーあ……やっちまったぁ……」
「……」
こんなに酔った葉築さんは見たことない。
そして、それをそのまま飲むのかと思いきや、
「大将~……これで水割り作ってー! 水割りには軟水だよなーぁ」
まだ酒を飲む気でいた。
「ちょ、葉築さん! 一件目でこんなに飲んだら皆に迷惑かけますよ」
私も人の事は言えないが、この人が、そんなに強くないことは知ってる。
出てきた水割りを取り上げると、
「ほっとけよ!」
また、あの冷たい目を向けられた。
……忘れてた。
私、葉築さんに嫌われてたんだ……。
あんな風に突き放されたら、元々臆病者の私は近づけない。
「あらー、鷲塚さんもフラれたのー?」
どこか嬉しそうな荒城さんにイラついたけれど、仕方ない、と思った。
私は、憎まれるべき人間……。
「カシスオレンジください」
二杯目のカクテルを頼んでいると、室岡さんが焼酎を片手に、私の隣に座って話し始めた。
騒々しい店内、室岡さんの声は顔を近づけないと聞こえないほど。
「本当は、葉築が独自で調べて辿り着いてたんだ。立道がうちの管理システムにハッキングできる業者と繋がってたのを…… 」
「……え」
そういえば、事件が起きてから、やたら会議室に籠って電話をしてるな、とは思ってた。
「でも、会社はそれをあえて認知しない。架空のサーバーウィルスのせいにして幕を閉じた。アイツは、立道にも会社にも裏切られた気持ちなんだよ。
情報を抜かれた客の怒りは、引き継いだ葉築に向けられるしな」
室岡さんが心配そうに葉築さんの方を見ると、彼はトイレに向かっていた。
その足元は完全にふらついている。
「……」
……気になっても拒絶されるのも嫌だった私は、見なかったことにした。
けれど。
10分。
20分。
しばらく二人飲みながら話していたけど、その間に戻ってくる事はなかった。
「……ちょっと見てきます」
彼のバッグが、席に置かれていたままたったので、帰ってないと確信した私は、奥のトイレに様子を見に行った。
すると、やっぱり、葉築さんは手洗い場で、ぐったりと座りこんでいた。
「大丈夫、……じゃないですよね? タクシー呼びますか?」
まるで、この前と立場が逆。
私は、こんな風に迷惑をかけたんだと反省しつつ、返事の無い葉築さんを前に、スマホでタクシーを呼ぶことに。
「はい、芝○丁目あたりの四谷ビル……」
お店の大まかな場所を伝えていると、
「……!」
葉築さんが、その電話を掴んで引っ張った。
「何……す」
するの?
ーー…言う前に、
「まだ、呼ばなくていい」
引き寄せられ、抱きつかれた。
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