ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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outflow 流出

新年会、

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  まんまと引っ掛かって、事務所に戻ってきた立道。 
  彼の、客先への電話対応にはヒヤヒヤした。

  「うーん、……エラーはエンジニアに聞いてみないと、わっかんないですねぇ。その契約が上手くいかなかったのは、システムのせいではないと思うんですよー」

  今迄の接客対応の中でも、最もやる気や誠意の感じられない話し方。
  まだ、営業になってない私でもわかる。

 「価格競争に負けたってだけでしょう? どこのカーメーカーも売れない12月には頑張るでしょうから」

  聞いていて、さすがに業を煮やした葉築さんが、

 「代われよ」

  立道から電話を取り上げた。


 「この度は商品に不備が発生し、ご迷惑おかけして申し訳ありません。エラーと並行して、早急に契約情報の漏洩の可能性がないかお調べいたしますので……」

  葉築さんは、うちの管理システムからの、情報流出があるかもしれないと睨んだようだった。


  電話を切ったあと、立道を会議室に呼んでいた。

  「お、なんだ?トラブルか?」

 丁度、戻ってきた室岡さんも会議室に入り、数十分後に出てきた立道の態度はかなり悪かった。


 「どーせ、口のきき方が成ってないとか説教されたのよ」

 小村さんと荒城さんも、呆れてその様子を見ている。

  ……態度が悪いだけなのだろうか?

 「あー、なんか疲れたぁ。鷲ちゃん、コーヒー入れてくれよ」

 「サーバーはスイッチ押すだけですよ」

 「それでもいいから、鷲ちゃんが入れたのが飲みたいんだよ、鷲ちゃんは癒しの女神だからさ」

 「はいはい」

  呑気な室岡さんをよそに、葉築さんの顔は険しかった。


  この問題は、うちの社の信頼を大きく損ねる事件へと発展した。



   システムエラーで機能しなくなるだけでなく、顧客情報が他社に漏れる案件が他にも続出するようになり……、

 「どうなってんの?」
 「ちゃんとウィルス対応してんのかよ!?」

 うちの事務所は、クレームの電話でパンク状態。

 「おかしいな。 他支店から卸した商品もか?」

 「いや、今んところ、この三田支店から販売したモノだけです」

  電話をとる事務員たちは勿論、現・次期支店長たちは、その対応には追われまくっていた。

  ……それにしても。
  うちから卸した商品だけ、欠陥があるなんてオカシイ。
  シリアル番号を辿って製造行程から調べる必要があるのでは、と言われていた矢先、


 「父が病気なんで、退職したいと思います」

  立道が、急遽、二回目の退職届を提出した。

元々、立道に退職を促していた室岡さんはそれを受け入れたけれど、

「こんな時に辞めるのかよ?無責任過ぎるんじゃね?」

他の営業マンは反対。
それでも立道は、

「家の事情だから仕方ないじゃん。それに、俺は奥田とはやっていけない。はじめっから年下の支店長なんて無理なんだよ」


   最後は吐き捨てるように、引き継ぎもしないまま、トラブルも全部葉築さんに任せる形で、今月末日付で退職をする。
   残りの有給を使い、会社には姿を見せなくなった。

  ーー当然。

   皆、今回のトラブルの犯人は立道ではないかと疑ったけれど、社内から犯罪者を出したくなかった会社は、

  「未確認のサーバーウィルスによる情報流出」

   という曖昧な調査報告を出した。





 「そんなんで、客先が納得するかよ」

  予期せぬ事件で、通常より遅く開かれた新年会。
  珍しく、葉築さんは少し荒れていた。

    完全ではなくても、大事な戦力として立道の在職を望んでいたのだから、その裏切り行為に、まいっているみたいだ。

 「葉築さんが、一人離れて飲むなんて珍しいんだけど」

  居酒屋バーで、皆は大テーブルを挟んで飲んでいるのに、彼は途中から外れて、カウンターで黙々と飲んでいる。

 「たまには哀愁漂う背中もいいわよねー♪」

  程よく酔った荒城さんが、テンション高めに葉築さんに絡みに行ったものの、

 「今、ちょっと、荒城さんはキツイ」

  と邪険に扱われたらしい。

 「なによー! 寂しそうだから声かけてやったのにー」

  ふらふらの荒城さんが、今度は室岡さんにまとわりつく。

 「むろおかさ~ん! 立て続けのトラブルで疲れたでしょー? このあと癒されに二人で足湯でも行きませんかぁー?」


 「え、それ、癒しっつーか、罰ゲームだよね?」

  盛り上がる皆をよそに、暗い顔をする葉築さんが気になって仕方なかった。

  いつも皆を引っ張っていくタイプだけに、孤独な彼は見てると切ない。

  頼んだカルアミルクもすすまなかった。

 「鷲ちゃん」

 「は、はい」

  葉築さんにばかり視線を移していた私に、室岡さんが水を差し出した。

 「……え?」

  お前は、飲むなって?

 「葉築に持って行ってやってよ。飲み過ぎだよ、あいつ」

  彼を心配してるのは、私だけではなかった。


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