ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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outflow 流出

ブレーキ

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  先生の唇が、私の唇に触れて舌に会うと、私の体も熱くなった。

  トレーナーが捲し上げられる。ブラを着けてない膨らみを先生の唇が覆うと、それは温度を増した。

  先生もジャージが邪魔になったのか、身体を起こして、勢い良く脱いでいく。
  Tシャツ一枚になると、今度は私のトレーナーを脱がせて、すぐに戻ってきた。

  先生の匂いと体温が、再びまとわりつく。

  獣のように、私の身体中に舌を這わせる先生のTシャツを、今度は私が脱がそうとした。


  一つになるまで、もう少しのところだった。


 「……先生……?」



  先生の動きが止まった。

  私の指が、先生の新しい傷に触れたから。

 「……先生、また、傷が増えてる」

  昔から腹部に傷痕があったけれど、その下にまた、同じくらいの傷痕が増えていた。

 「……そう。数年前にちょっとやったんだ」

  そう言われると、急に私の中に不安が過った。

 「そんな顔するな。人間なんだから傷くらい作る」

 「……」

  先生は、密着していた身体を離して、今度は優しく撫でるように乳房を触り始めた。

  まるで、膨張した欲望を落ち着かせるように……。

 「セックスなしでも、眠れるか?」

  私が頷くと、先生は、まるで壊れやすい人形を抱くみたいに、そっと腕を絡ませてきた。

 「昔は、こんな風に腕枕する時間もろくになかったな」

 「……そう。いつもバタバタとセックスしてた……」

  落ち着いた呼吸の中で、私にも睡魔が訪れてくる。

 「初めてシた時のこと、先生……覚えてる?」

 「あぁ、覚えてるよ。体育倉庫だった」

  先生の声は、絵本でも読むかのように、ゆっくりと言葉を綴る。

 「ゴムも無いのに、良くやったもんだ」

  笑いながら聞いて、先生と抱き合った記憶を辿っていった。




  ーー結局、先生は、私の部屋に泊まることに。

 「お前が寝てから帰ると、鍵を閉められない」

  ……からだそう。

  スペアキーはあったけど、もう言わなかった。

  セックスも、キスもしなくて構わない。

  今夜だけは、先生の腕に抱かれて眠っていたかった。


  翌朝。
  かなり早い時間に目を覚まして、こっそりと布団から出る。
  エアコンをつけたものの、裸で寝ていたせいか凍えそうな寒さ。
  つい、もう一度布団に戻ろうとしたけど、……止めた。

  橋元先生を起こしてしまいそうだったから。

 『……かわいい』

  おじさんなのに、童顔な寝顔。

  珈琲を入れ、先生の顔を見ながら、中断していたレポートを書き始める。
  昨夜と違い、スラスラと文章が出てきて、あっという間に終わった。

  この充実感……。

  浮気相手とセックスした事では得られないものだ。

  この先も、先生さえいてくれたら、頑張れそうな気がした。



  だけど。
  そう思ったのは私だけみたいで、

 「もう、こんな風に泊まったりはしない」

  帰り際、先生は、申し訳なさそうな顔をして帰って行った。

  「俺とこんな時間を過ごしても、結果、伊織は幸せになれないから」

  私の気持ちも知らないで、断定的な言葉を残して……。


  確かに私が誘った夜ではあるけれど。

  昨夜、先生の傷痕に触れなければ、きっと、そのまま結ばれていたはず。

  ーー先生にブレーキをかけたものは、なに?


  モヤモヤした気持ちのまま、仕事上は、とても慌ただしい年内を終え、私にとって転機となる新しい年を迎えた。




  そして。

  営業開始から3日後ーー


「鷲塚さーん! 外線二番にお電話です!」


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