ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

文字の大きさ
上 下
72 / 134
fluctuation 変動

ショック

しおりを挟む
 「えっ、ごはん? 私とですか?」

  室岡さんと仕事して何年かなるけれど、二人で食事になど出掛けた事もなかった。
  なので、突然の誘いに驚きは隠せない。

 「そう、この前の接待のお詫びもしたいし……」

  電話の向こうの室岡さんの声は、いつもよりも落ち着きが無いように感じた。

 「そんなこと、仕事ですから、それに、残業代も付くみたいだし……」

 「でも、ずっとあれから鷲ちゃんのこと気になっちゃって」

  ……気になるって。罪悪感?

  ビルを出て、街を見渡せば、並木にも電飾がしてあり、見事にクリスマス一色。
   カップルばかりではないけれど、30代、40代のサラリーマン達も何となく足取りが軽い。
  クリスマスを祝う家族の元に、早く帰りたいのかもしれない。

   それさえもできない事情の人は、きっとクリスマスなんて虚しいだけだ。


 「……室岡さん」

 「ん?」

 「寂しいんですか?」

 「えっ」

  いや、むしろ逆で。
  信と別れた私は、かわいそうな女だと思われてるのかもしれない。

 「寂しくねーよ! 彼女はいなくても、やることは沢山あるし、姪っこの所にプレゼント持っていけば、絶対に喜んで貰えるわけで……」

  ちょっと、ひどい返しだったかなと自分でも思ったけど、

 「あー。なんてな」

  室岡さんの笑みを含んだ溜め息に安堵する。

 「……鷲ちゃんは、やっぱり簡単じゃなかったな。
彼氏と別れたから、もしかしたら俺にも可能性あるんじゃないかと思ったのに」


  もう、曖昧に、流されるのは良くない。
  傷付くのは、相手だもの。

  それに室岡さんはイイ人。この仕事上の関係を壊したくない。


 「……室岡さん、私、結構な悪い女なんです」

 「えっ!!なに、そのキャラ変!」

  電話越し、室岡さんの反応は面白い。

 「だから、ご飯なんか一緒に食べたら、それだけで室岡さんの人生を狂わせてしまうかもしれない」

 「ワハハハハ!!! 狂わせてくれよ!」

   ノリのいい上司は、これ以上、誘ってはこなかった。

 「しょーがねぇなー!姪っこのところにサンタの格好して行ってくるか! 鷲ちゃんもいいクリスマスを!」

 「はい」

  電話を切って、繁華街に目を移す。
  豪華なツリー。

  どこの店からも流れるクリスマスソング。

  クリスマスセールをうたい文句に、客引きするサンタたち。

  一人でも、クリスマス気分は十分味わえた。

  そんな中で、年配の女性がケーキを買ってる姿を見つけると、不意に実家が懐かしくなった。

  お母さんにでも電話かけてみようかな。

  そう思った時、

   ………あれ?

   街中を歩く人の群れに、どこか見覚えのある男性が歩いているのを見つけた。
   浅黒く、50代くらいで、がっちりした体型……。



   ……お父さん?


  小三の時に離別してから、全く会っていなかったけど、お父さんの顔を見間違えるわけなかった。

  体型はがっちりではあるものの、顔は年相応らしくやつれて老けたお父さん。

  そのお父さんが、クリスマスの夜に、誰かと並んで歩いてる。

  お父さんの隣にいるのは、私立女子高校の制服を着た女の子だった。

  まさか、援交ーー?

  暫く、距離を保ちながら後を追っていたけど、

 「あ!お母さん! 」

  隣の女子高生が、ファミレスの入り口に立っている婦人に声をかけて、

「帰りにお父さんと会ったのー」

  お父さんの腕をとり、仲良く三人で店に入っていくのを見て足が止まった。


  ……親子……。

  新しい家族なんだ……と、雷に打たれたみたいにショックを受けた。

  会わなくなって17年……。

  お父さんが、別の所帯を持っている事の方が自然なのに、暫く呆然として動けなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

処理中です...