ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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fluctuation 変動

期待

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  改札口に向かう私の背後から、怒りの声が聞こえた。

 「やっぱり、男じゃねーか」

  振り向くと、信と、見覚えのある同級生の男が
、直ぐ後ろに立っていた。

 「……信」

  気がついた葉築さんも振り返る。

 「だから言ったじゃんか、鷲塚伊織はそういう女だって!」

  軽蔑の眼差しを向けて言ったのは、信のツレの同級生。
  高校の時にいつもつるんでた友達……、 名前は確か、山下……。

 「伊織が結婚を急にやめたのは、男が他にできたせいだって、皆言うから……様子を見てた」

 「……様子を?」

  私を切なそうにみつめる信を、直視することが出来ない。
  結婚を断る理由の中で、葉築さんと関係したことが一番大きいのは事実だったから。

 「損害賠償だって請求できんじゃね?」

  山下が口走ったあと直ぐに、

 「ご挨拶遅れましたけど、鷲塚さんの同僚の奥田です。仕事では大変お世話になってます」

  葉築さんが名刺を取り出して、信達に挨拶をした。

 「……″ 同僚 ″?」

  名刺を受け取った信が、不信に満ちた目を向ける。

 「の割には、ずいぶん親しげに見えたけどな?」

  ……言うほど、そんなに仲良く歩いた覚えはない。

  会社勤めの経験がない信にとっては、同僚と駅に向かうだけでも、男女の関係に見えるのかも。

  でも、その誤認識を解く必要性も感じなかったから、

 「普通の会話をしてただけよ」

  私はそれだけ返して、改札口に向かった。葉築さんも、軽く会釈して付いてくる。

  すると、遠くなった所から、山下が大声で叫んできた。

  「お前、高校ん時も、橋元と信、二股かけてただろう!?」

  行き交う多くの人が何事かと振り返る中、私はもう、後ろを見なかった。

  自分が向かうべきホームへ足を急いだ。

 ″ これから ″ だけを見て、歩いて行きたかったから。


  
 「……ごめんなさい」

 「なにが?」

 「……巻き込んじゃって」

  乗り込んだ電車の中で、葉築さんに謝った。

 「巻き込んだも何も……俺は、実際、鷲塚さんの浮気相手だったからね」

 「……そうだけど」

 「俺は何ともないけど、そっちは尾を引きそうだな」

 「……」

 「あんたの結婚を邪魔したいとは思ったけど、危険な目に遭わせたいと目論んだわけじゃない」

  ……葉築さんは、遊び以前の目的で近付いてきた


  分かっているのに。

  まだ心の何処かで、期待してる。

  「″ 次はー、○○駅ー、……″」

  混雑した電車はやっぱり座れなくて、二人向かい合うように立つ。
  目の前には葉築さんのネクタイが……。品のいいタイピンが、贈り物なんだろうなと感じた。

  フッと、電車の窓から街並を見ると、大きなクリスマスツリーがキラキラ光ってた。
  今年は、一人なんだなぁ、なんてちょっと思ってしまった。


 「じゃあ、俺はここで降りるから。最悪事件になりそうなら警察に連絡しなよ」

 「……はい」

  小さな期待も、優しいようで、やっぱり、何処か冷たい言葉に、アッサリとかき消されていた。






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