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fluctuation 変動
背後
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「そうなんですか?」
室岡さんとは反対の考え。
「四月からは室岡さんが抜けて、俺が現場の営業から外れるし、その頃はまだ鷲塚さんも戦力にはなってないはずだろ?」
「……はい」
″ 戦力 ″
そんなものに成る日が来るんだろうか?
自信、ないな。
営業マニュアル本をギュッと握りしめて、葉築さんの話を聞いた。
「人間としてもイマイチな男だけど、会社としては、直ぐにポン!と辞められたら困るんだ。俺は、今は営業仲間として抜けた後をフォロー出来るけど、支店長になると、そうもいかない。山のような別の仕事が待ってるし。だから、鷲塚さんは顔も見たくないかもしれないけど、あなたが営業として機能するまでは、我慢してくれない?」
レイプまがいの事をし、私を生け贄みたいに扱った男を、まだ会社に留めておこうとする。
……その考えは、理解できなかったけど、どこか冷めたところのある葉築さんらしい意見だとも思った。
「……わかりました。要するに、私が立道さんより使える営業にならないきゃいけないって事ですね?」
葉築さんは頷いて、
「もし、また何かやったら、間違いなく辞めさせる」
飲みかけの珈琲を持って、席を立った。
……そして、
「……家、一人で怖くない?」
思いがけず、優しい言葉をかけてきた。
「……実を言うと、アパートにたどり着く度に緊張して……」
大袈裟じゃなくて、これは本当だ。
たまに橋元先生が心配して電話をかけてくれるけれど、怖いものは怖い。
また、空き巣に入られたかもしれない、とか。
もしかしたら、違う目的を持った犯人が待ち伏せしていたらどうしよう? とか……。
「そう。じゃ、やっぱり引っ越し考えたら? 実家から通う、とかさ」
「……そうですね」
葉築さんと駅に向かいながら、反省する。
…犯人は、知らない男でもなく、元彼の信でもなくて……。
ひょっとしたら、私を憎んでる葉築さんかもしれないと、ちょっとでも思ってしまった事をーー
ただ、被害にあった当日は一緒にいたので、不可能だとすぐに思い直したけど。
「……なに? 何か俺の顔についてる?」
考えてたら、つい、となりの葉築さんを見てしまっていた。
「……いえ。でも、最近は、いつも眉毛が険しいなぁ……って」
「え? そうなの? 俺、そんな感じ?」
「はい。赴任してきたばかりの緩い感じは消えましたね」
「元々ゆるくねーよ」
久しぶりに聞いた葉築さんの笑い声。
一瞬だけ、三ヶ月前に戻った感じがして嬉しかった。
やっぱり、この人はキライにはなれない。
そんな、どこか浮わついた私の背後に、まさか、信が近付いていたなんて知らなかった。
室岡さんとは反対の考え。
「四月からは室岡さんが抜けて、俺が現場の営業から外れるし、その頃はまだ鷲塚さんも戦力にはなってないはずだろ?」
「……はい」
″ 戦力 ″
そんなものに成る日が来るんだろうか?
自信、ないな。
営業マニュアル本をギュッと握りしめて、葉築さんの話を聞いた。
「人間としてもイマイチな男だけど、会社としては、直ぐにポン!と辞められたら困るんだ。俺は、今は営業仲間として抜けた後をフォロー出来るけど、支店長になると、そうもいかない。山のような別の仕事が待ってるし。だから、鷲塚さんは顔も見たくないかもしれないけど、あなたが営業として機能するまでは、我慢してくれない?」
レイプまがいの事をし、私を生け贄みたいに扱った男を、まだ会社に留めておこうとする。
……その考えは、理解できなかったけど、どこか冷めたところのある葉築さんらしい意見だとも思った。
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「……家、一人で怖くない?」
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「……実を言うと、アパートにたどり着く度に緊張して……」
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「そう。じゃ、やっぱり引っ越し考えたら? 実家から通う、とかさ」
「……そうですね」
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…犯人は、知らない男でもなく、元彼の信でもなくて……。
ひょっとしたら、私を憎んでる葉築さんかもしれないと、ちょっとでも思ってしまった事をーー
ただ、被害にあった当日は一緒にいたので、不可能だとすぐに思い直したけど。
「……なに? 何か俺の顔についてる?」
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「……いえ。でも、最近は、いつも眉毛が険しいなぁ……って」
「え? そうなの? 俺、そんな感じ?」
「はい。赴任してきたばかりの緩い感じは消えましたね」
「元々ゆるくねーよ」
久しぶりに聞いた葉築さんの笑い声。
一瞬だけ、三ヶ月前に戻った感じがして嬉しかった。
やっぱり、この人はキライにはなれない。
そんな、どこか浮わついた私の背後に、まさか、信が近付いていたなんて知らなかった。
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