ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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fluctuation 変動

ハンカチ

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 「接待したくらいで重役出社?」

  遅刻した私を待っていたのは、荒城さんの嫌味。
  想定内だったし完全に私が悪いので、

「申し訳ありません」

  皆に謝った。

中でも、一番謝らないといけないのは……、

「立道さん」

  昨日、同行したこの人。
  部屋まで送って貰ったり、さんざん迷惑をかけた。

 「酒、強くないならそう言えよ」

   近寄ると、すごく迷惑そうな顔をしたので、よっぽどだったんだなと反省。
  深く頭を下げて謝罪した。

  何より、一番気がかりだったのは……。

 「あの、先方……カータウンの方のご機嫌損ねてしまいましたか?」

  接待は仕事だというのに、その最中に酔い潰れるなんて。会社の人間としては最悪で、今後に影響を及ばしてしまったのではないかということ。


  「何も覚えてないのか?」

   立道さんの顔を見て、嫌な予感がした。


   立道が、教えてくれた内容はこうだ。

 「お前、勧められた酒のむだけ飲んだら、ああなるの分かってんだろ? ″ 帰りの電車で寝てしまうので ″ とか、断る方法いくらだってあるのに、全部飲んでんじゃねーよ! スナックじゃカラオケ中に先方にもたれかかって、あっちはオッサンだから喜んでたけどさ」

  私は、スナックでも、水割りを立て続けに5杯飲んだらしく、立つ事も出来なくて、先方の誰かの膝で寝てしまっていたらしい。

 「俺が止めなかったら、お前、スカートの中覗かれてたんだからな!」

 「え!」

  聞いていて、顔から火が出るほど恥ずかしかった。

 「え!じゃねーよ! 胸も揉みたがってたけど、それも止めた!″ サービスは業務の方でさせていただきますから ″って! 俺に感謝しろよ!」

  立道の大きな声での報告に、背後で笑いが起きてるのも気がついてたけれど、

 「……止めてくれたんですか? ありがとうございます」

  潰れただけで済んだようなので、御礼を言った。

  立道は気が済んだように、「もういいから」と、手で私を追いやる。

  あ。そうだ。

  ゴミ箱に捨ててあったハンカチのことを思い出して、

 「ハンカチまでダメにして申し訳ありませんでした」

  その事も謝ると、かなり怪訝そうな顔をしていた。

 「何のこと?」

 「え?だから、白いハンカチです」

 「ハンカチがどうした?」

 「……あれ、立道さんのですよね? 私、きっと送って頂く時に吐いたと思うんですけど」

  言いながら、違うような気がした。
  そもそも、この人、ハンカチを持つようなタイプ?
酔った女に手を出さずに帰るような……


 「俺は送ってねーよ。鷲塚を送っていったのは、二次会から参加した葉築だよ」



  この時、やっと、記憶の欠片が引き出された。



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