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fluctuation 変動
ビール
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「接待? 私がですか?」
辞令もまだで、営業としての研修も受けてないただの事務職員。
「ごめん、急遽で。俺は今からクレーム対応で広島に行かなきゃいけなくなって、葉築は本社からまだ戻らないし」
「いきなり出来るわけないじゃないですか?」
酒の場での客への対応なんて、右も左も分からないのだから。
「鷲ちゃん一人じゃないよ、立道もいるからさ」
「……え」
よりによって立道……。
「本来、俺が行くべきところなんだけど、立道一人じゃぁね。いずれ鷲ちゃんが引き継ぐ所だから、勉強がてら行ってみて。 あ、俺、新幹線の時間調べなきゃ!」
「……勉強って」
……急過ぎる。
とりあえず、臨時でフォローする立道と一緒に、店へと急ぐことに。
接待先は、最近、中国地方から関東へ進出してきた国内・外中古車を安売りする大手の会社だった。
直営ディーラーだけでなく、多種な会社との取引の必要性を謳っていた葉築さんの新開拓先。
予約しているのは、相手の希望の銀座の高級焼き肉店。会社から離れていたのでタクシーで向かうことに。
「ったく、奥田の客はぜいたくなんだよ」
立道が、隣で愚痴をこぼす。
本当は一時も一緒にいたくはない。だけど、営業としては先輩で見習う所もあるはずなので、大人しく頷いていた。
立道の横顔から、夜景に視線を移す。
「一人12000円はするらしい、向こうは四人。
二次会はカラオケ位で済ませたいよなぁ」
二次会もあるのかと、ゲンナリしていると、
「鷲塚は、余計な事すんなよ。ヘマやったら偉い事になる。御酌して笑ってろ。可愛くなくても二十代の女が酒をつけば、それだけで悪い気はしないから」
更にやる気を削ぐような事をいう。
夜に映える東京タワーを背にため息が……。
……女性営業って、ホステスみたい。
銀座の店は、とてもお洒落で、ホールは和風カフェみたいな雰囲気だった。
入り口で待機して、取引先の重役達をお出迎え。
「あれ? 君、誰? 新しい営業さん?」
お一人ずつに挨拶するも、名刺がまだ無くて、とても気まずかった。
やや薄暗くも、落ち着きのある個室には、6人掛けの座席があった。
「本日は、お忙しい中、ご出席頂きありがとうございます。急遽出張になりました室岡の代理でわたくし立道と、今後、奥田の後任を致します鷲塚が……」
取引先の招待客と飲み物が揃った所で、立道さんが軽い挨拶と乾杯の音頭を……。
大人数ではないせいか、静かなスタートだった。
「室岡君と奥田君が急遽、来られないって聞いて
もう今日は無しになるかと思ってたよー」
「いえいえ! カータウン様とお食事できる機会は滅多にありませんので、室岡がトラブルで行けないと聞いて、真っ先に手を上げさせて頂きました!」
立道さんは、客先にはあまり評判良くないと聞いていたけれど、営業の″ え″ の字も知らない私には、そっちのプロに見えた。
黒毛和牛と馬肉が美味しいと噂のお店らしいけれど、焼いたり御酌したりで、まだ一口も食べられない。
お話の仕方も良くわからないので、それはそれで良かったのだけど……
「あー、鷲塚さんだっけ? いいから貴女も飲みなさいよ」
程よくお酒の回った取引先の上役から、コップにビールを注がれてしまってからは、それが空になることは無くなった。
あまり強くはないのに、断れずに口にする。
ーーこれがいけなかった。
辞令もまだで、営業としての研修も受けてないただの事務職員。
「ごめん、急遽で。俺は今からクレーム対応で広島に行かなきゃいけなくなって、葉築は本社からまだ戻らないし」
「いきなり出来るわけないじゃないですか?」
酒の場での客への対応なんて、右も左も分からないのだから。
「鷲ちゃん一人じゃないよ、立道もいるからさ」
「……え」
よりによって立道……。
「本来、俺が行くべきところなんだけど、立道一人じゃぁね。いずれ鷲ちゃんが引き継ぐ所だから、勉強がてら行ってみて。 あ、俺、新幹線の時間調べなきゃ!」
「……勉強って」
……急過ぎる。
とりあえず、臨時でフォローする立道と一緒に、店へと急ぐことに。
接待先は、最近、中国地方から関東へ進出してきた国内・外中古車を安売りする大手の会社だった。
直営ディーラーだけでなく、多種な会社との取引の必要性を謳っていた葉築さんの新開拓先。
予約しているのは、相手の希望の銀座の高級焼き肉店。会社から離れていたのでタクシーで向かうことに。
「ったく、奥田の客はぜいたくなんだよ」
立道が、隣で愚痴をこぼす。
本当は一時も一緒にいたくはない。だけど、営業としては先輩で見習う所もあるはずなので、大人しく頷いていた。
立道の横顔から、夜景に視線を移す。
「一人12000円はするらしい、向こうは四人。
二次会はカラオケ位で済ませたいよなぁ」
二次会もあるのかと、ゲンナリしていると、
「鷲塚は、余計な事すんなよ。ヘマやったら偉い事になる。御酌して笑ってろ。可愛くなくても二十代の女が酒をつけば、それだけで悪い気はしないから」
更にやる気を削ぐような事をいう。
夜に映える東京タワーを背にため息が……。
……女性営業って、ホステスみたい。
銀座の店は、とてもお洒落で、ホールは和風カフェみたいな雰囲気だった。
入り口で待機して、取引先の重役達をお出迎え。
「あれ? 君、誰? 新しい営業さん?」
お一人ずつに挨拶するも、名刺がまだ無くて、とても気まずかった。
やや薄暗くも、落ち着きのある個室には、6人掛けの座席があった。
「本日は、お忙しい中、ご出席頂きありがとうございます。急遽出張になりました室岡の代理でわたくし立道と、今後、奥田の後任を致します鷲塚が……」
取引先の招待客と飲み物が揃った所で、立道さんが軽い挨拶と乾杯の音頭を……。
大人数ではないせいか、静かなスタートだった。
「室岡君と奥田君が急遽、来られないって聞いて
もう今日は無しになるかと思ってたよー」
「いえいえ! カータウン様とお食事できる機会は滅多にありませんので、室岡がトラブルで行けないと聞いて、真っ先に手を上げさせて頂きました!」
立道さんは、客先にはあまり評判良くないと聞いていたけれど、営業の″ え″ の字も知らない私には、そっちのプロに見えた。
黒毛和牛と馬肉が美味しいと噂のお店らしいけれど、焼いたり御酌したりで、まだ一口も食べられない。
お話の仕方も良くわからないので、それはそれで良かったのだけど……
「あー、鷲塚さんだっけ? いいから貴女も飲みなさいよ」
程よくお酒の回った取引先の上役から、コップにビールを注がれてしまってからは、それが空になることは無くなった。
あまり強くはないのに、断れずに口にする。
ーーこれがいけなかった。
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