ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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trial 試練

対面

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 「……おはよう」

 「おはようございます……」

   待ち合わせ場所に現れた葉築さんは、白とベージュを基調のした爽やかな服装で、これが、罠だと知る以前ならデートみたいで楽しかっただろうな、と思った。

 「鷲塚さん、仕事着みたいだね」

 「……そうですね」

   私は目的が謝罪だけに、あまりカジュアルな服は選ばなかった。

   ーー約一時間半。

   彼のお姉さんは、千葉県の精神医療センターに入院していた。


 「本来は、家族と身内以外は面会禁止なんだ」


  「それなのに、私が会ったりできるの?」

  行く先が精神医療センターだと分かると、自然に体も心も構えてしまう。

  いっそ、規則によって会えない方が気が楽なのに、とも……。


 「一緒に住んでる親戚という事にする」

 「……」

  けしてデートではないので、葉築さんが無理に楽しい会話を切り出す必要もないのだろうけど、電車の中も、バスの中も、二人一緒にいるのが気まずかった。
   ……まだ、首を絞められてたほうがマシだと思うくらいに。


   バスは少し山手の方に向かい、途中にゴルフ場もあったりして、会話の無い分、ずっと、のどかな風景を窓から見てた。


 「ここだよ」

  施設を見ると、緊張のせいで、再び体は固まってしまった。


  かなり大きな医療施設。
  精神医療と聞くと、暗く、薄気味悪い病棟を想像していたのだけど、実際は違った。
  新しい総合病院といった感じ。

 「……迷子になりそう」

 「ここは心療以外にも、薬物依存症の隔離治療だとかやってるから……」

  分けた入り口、受付、階段……。
  重い足取りで葉築さんのあとを付いていく。

 「閉鎖病棟の時には、いちいち個室の鍵を開けて貰わなきゃいけなかったんだけど、今日は開放病棟だから良かった」

  閉鎖……、開放。

  症状によって入院病棟が違うんだ……。

  知らない事が沢山。

  葉築さんは、何年も、この身内の病気と向き合ってきたんだろうか。

  彼のお姉さんが居る病室の前に着くと、葉築さんの表情が変わった。


 「こんにちは 」


  葉築さんは、子供のような顔をして扉を開けた。

   彼のお姉さんは、読んでいた本から顔を上げて、とても穏やかな顔をして微笑んだ。


 「……あら、奏太そうた、今日はお友達を連れてきたの?」

  ……奏太?

  誰の事だろう?

  葉築さんを弟だと思っていないの?

  葉築さんは、

 「母さんが、前から会いたがっていた人を連れてきたんだよ」

  どうやら息子さんになりきっているようで、私の事も具体的に紹介しなかった。


  「……こんにちは、あの、よかったら……」

  震える声で挨拶をして、お見舞いのお菓子を手渡した。

 「あら、ありがとう」

  ……それにしても。

  ″ 会いたがっていた ″?

  実際はそんなこと無いはずだ。

  私の事なんて恨んではいても、顔も見たくないはず。

  それなのに、心の治療をしているところに、宿敵のような私を連れてきて、症状は悪化しないのだろうか?


 「前から聞いていた奏太のガールフレンドね、確か、お名前は……」

 「鷲塚 伊織さんだよ」

  名乗って大丈夫なのかと、躊躇った直ぐに葉築さんが私の名前を告げた。

  すると、

 「伊織……さん」

 お姉さんの顔が、少しだけ曇った。


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