ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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trial 試練

転機

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 「ここのベーグルサンド美味しかったよな」

  何気に私と同じテーブルに着く葉築さん。

 「……夕飯に食べに来たんですか?」

 「いや」

 「……」

   私が飲んでいるカプチーノを眺めて、そして、時計を見た。

 「ここで彼女と待ち合わせしてるんだ」

 「え」

  千葉の彼女?

 「明日は有給を取って、俺んちに泊まるんだって。……金土日ずっと俺と一緒にいたいらしい」

  なに、ノロケなの?

  カップを握る手に、ギュッと力が入る。

 「だから、絶対に連絡してこないでくれよ」

   そんな念押しにも、いちいち傷付く。

 「……言われなくてもっ」
 「どうしても淋しかったら、月曜日に相手するから」

 「……!」

   葉築さんの勝ち誇ったような顔に、怒りさえ覚えてきた。


  「彼女に見られたらマズイでしょ?」

   飲みかけのカプチーノを持って席を立つ。

   絶対に、こっちから連絡はもうしない。

   必要のない急ぎ足で出口に向かうも、


  「人を不幸にしたら、自分に降りかかってくるものだよ」

   執念のような彼の言葉に、重い足は立ち止まりそうになった。


 「……そうかもしれないですね」

  葉築さんに、聞こえたのかどうかもわからない小さな声で呟いて店を出た。

   外の雨は、一段と激しくなっていた。





  ーーー



   それから、しばらくは、比較的穏やかな日々を送っていた。

   葉築さんは出張で不在だったし、信が待ち伏せしてくるような事もなかった。

   仕事で雑用を増やされたりはあっても、特に嫌がらせを受ける事もなく……。



 【会社のメダカは元気なのか? 伊織は元気なのか?】


   たまに来る、先生からのメールに癒されていたように思う。



   そして、師走。

   朝から、室岡さんから話があると言われて、一人、会議室に入ることになった。



「失礼します」

  会議室に室岡さんと二人きりなんて、過去にも数えるほどしかない。

「鷲ちゃん。急にビックリしたか?」

   こんな風に親しみを込めて呼んでくれる直属の上司が、あと3ヶ月もしないうちに、いなくなってしまう。
  そう思うと、かなり寂しい。

  勧められた椅子に座る。

  「はい、話ってなんでしょう?」

   その上司が私に何か指示を出したりするのだとしたら、出来る限り対応しようと決めていた。


 「あのな、非常に言いづらい事なんだが」

   本当に辛そうな顔をされてるので、けして良い話ではないんだと分かった。

  「……はい……」

  「俺が決めた事じゃないんだ。反対したけど、上が強行決定したみたいで」

   ……なんだろう? いきなり、クビ?


 「……何を決定したんでしょう?」

  内心、ドキドキしながら聞いていた。

   次に、室岡さんの口から出た言葉で、その動揺はマックスを迎える。


 「鷲ちゃんに、来年から、営業職に回ってくれって話だ」




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