ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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trial 試練

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  「鷲塚さん。これ、30部ずつプリントアウトして綴じてから社内封筒に入れておいて。営業研修で使うから」

   突然、こんな雑用を私に指示するようになったのは、あの猥褻未遂事件を起こしたにも関わらず、のうのうとした態度の立道だ。


 「研修?いつの分です?」

   渡された資料は軽く50頁ある。30人分となると、かなりの量だ。

  「明日、金曜日の一時までに頼むよ」

  「この資料、どこに入ってますか? 共有フォルダですか?」

 「そんなとこに入れてない!これが原紙になるから一枚ずつPDFしてから、共通フォルダに入れてくれ」

 「まずそこから?」

 「そう。俺は忙しいから、暇な庶務がしてよ。
あ、くれぐれも、それをコピーするなよ!ズレが生ずるからさ」

    正直、こんな最低な男から指示されるのも嫌だったし、その仕事も面倒くさいなと思った。
   おまけに、


  「鷲塚さん、ちょっとトロイんだから、早目に取りかかってよ」


    嫌味なところは衰える事無く、むしろパワーアップして、私にいろんな雑用をさせた。

  あんなこと、しておいて。

  普通の神経なら、考えられない。


    ……なんで、室岡さん、立道さんの退職を止めるように説得したんだろ?

   プリントアウトしながら、ため息が漏れた。




   以前、雑用をまとめて私にさせるのはオカシイと言ってくれた葉築さんは、もう、いなかった。

  イヤ、居るのだけれども……。

 「最近、奥田と室岡さん、良く会議室に籠ってるな」
 「上から、支店長の引き継ぎを充分にやるように言われてるから、その件じゃない?」

 「えー、やっぱり葉築が支店長かよー」

 「若すぎるよな。てか、まだ新人の類いなのにさ」

   もう、以前の彼ではなかった。

   2ヶ月前の、人懐っこい笑顔がもはや懐かしい。


   夕方。
   研修資料のプリントアウトが済んだかの確認に、私のデスクに寄ってきた立道。

    不意に、下品な顔をして私を見ていたので、とても気持ち悪くなった。


  「 ……なんですか?」

   てっきり、この前の話をしてくるのかと思ったら、

 「鷲塚さん、最近は中年のオジサンに乗り換えたの?」


  いきなり、ドキッとすることを口にした。

  ……橋元先生のこと?



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