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逃げる
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ーー 葉築さんが、橋元先生の事を知っていた。
しかも、どこか異様な奥さんの ″ 現在 ″ まで。
怖くて、もう、写真は見ることが出来なかった。
…… そういえば。
不意に、葉築さんの部屋にあった写真を思い出した。運動会のような背景に、微笑む女性と子供。
あの女性と、画像の女性は同一人物?
じゃあ、あれは、やはり彼の親戚?
「鷲ちゃん? どうした? 顔色悪いぞ」
動揺する私に、室岡さんが声をかけてきた。
「……何でもありません。ちょっと貧血で」
「そーか? 無理しないで気分悪かったら休めよ」
「……は……い、ありがとうございます」
″ 俺に女キョウダイはいない ″
そう言っていたから、違うんだろうけれど。
ただ、私の昔を知っていると言っていたっけ。
先生の奥さんの知り合いであることには変わりはないんだ。
それを確かめるのも怖くて、葉築さんに返事はしなかった。
それから、私が帰るまでに、葉築さんは事務所には戻らなかった。
「お疲れー」「お疲れ様でしたー」
仕事は残ってたけれど、残業はしばらく、トラウマで出来そうにない。
皆と同じ時間帯に退社認証を済ませる。
「葉築さんがここに来たから室岡さん、飛ばされるんだよねー」
「室岡さんカワイそー」
「でも、実質さ、営業マン足りなくならない?」
「そのぶん新入社員入るんじゃない? フレッシュな男が」
「それいいかも!」
前を歩く女子社員は、帰りも、人事異動の話で盛り上がっていた。
「鷲塚さん、今日、ご飯でも行かない?」
珍しく小村さんに誘われたけれど、気分的に無理で断った。
「スミマセン、体調悪くて……また、今度……」
「あら、そう、またね」
……だけど。
行けば良かったと、後悔することに。
アパートの前に、信の車が止まっていたからだ。
メルセデスベンツのAクラス。
農家の跡取り息子が乗るには、利便性がない車ではないかと前々から思っていた。
それが、今、私のアパートの前に横付けされている。
……どうしよう?
きっと、怒っているだろう信に会いたくはない。
理性を失った男は恐怖だ。……昨日の今日だし、できたら回避したい。
私は、せっかく辿り着いた帰路を戻ることに。
「あ! 伊織!」
気が付いた信の声が車から聞こえたけれど、振り向かなかった。
『ごめんなさい!』
心の中で謝りながら、わき目も振らずにひたすら走った。
がしかし、ベンツが追いかけて来るのがわかった。
「俺の気持ちはどうなるんだよ?!」
窓から放たれる信の声が、罪悪感を募らせる。
それでも、逃げる足は止まらなかった。車道からそれた路地裏に隠れるように走った。
私を見失った信から電話がかかってきていたけど、やっぱりそれも取る事が出来なかった。
ごめんなさい。
どうか、私のことは忘れて。
葉築さんの言うように、こんな風に人の気持ちを蔑ろにする私は、最低な女だ。
ブブブ!
【俺は別れたつもりないからな】
最新の信からのメッセージを見て、余計に逃げたくなった。
もう、今日はアパートに帰るのは無理かもしれない。
足は、再び駅に向かっていた。
しかも、どこか異様な奥さんの ″ 現在 ″ まで。
怖くて、もう、写真は見ることが出来なかった。
…… そういえば。
不意に、葉築さんの部屋にあった写真を思い出した。運動会のような背景に、微笑む女性と子供。
あの女性と、画像の女性は同一人物?
じゃあ、あれは、やはり彼の親戚?
「鷲ちゃん? どうした? 顔色悪いぞ」
動揺する私に、室岡さんが声をかけてきた。
「……何でもありません。ちょっと貧血で」
「そーか? 無理しないで気分悪かったら休めよ」
「……は……い、ありがとうございます」
″ 俺に女キョウダイはいない ″
そう言っていたから、違うんだろうけれど。
ただ、私の昔を知っていると言っていたっけ。
先生の奥さんの知り合いであることには変わりはないんだ。
それを確かめるのも怖くて、葉築さんに返事はしなかった。
それから、私が帰るまでに、葉築さんは事務所には戻らなかった。
「お疲れー」「お疲れ様でしたー」
仕事は残ってたけれど、残業はしばらく、トラウマで出来そうにない。
皆と同じ時間帯に退社認証を済ませる。
「葉築さんがここに来たから室岡さん、飛ばされるんだよねー」
「室岡さんカワイそー」
「でも、実質さ、営業マン足りなくならない?」
「そのぶん新入社員入るんじゃない? フレッシュな男が」
「それいいかも!」
前を歩く女子社員は、帰りも、人事異動の話で盛り上がっていた。
「鷲塚さん、今日、ご飯でも行かない?」
珍しく小村さんに誘われたけれど、気分的に無理で断った。
「スミマセン、体調悪くて……また、今度……」
「あら、そう、またね」
……だけど。
行けば良かったと、後悔することに。
アパートの前に、信の車が止まっていたからだ。
メルセデスベンツのAクラス。
農家の跡取り息子が乗るには、利便性がない車ではないかと前々から思っていた。
それが、今、私のアパートの前に横付けされている。
……どうしよう?
きっと、怒っているだろう信に会いたくはない。
理性を失った男は恐怖だ。……昨日の今日だし、できたら回避したい。
私は、せっかく辿り着いた帰路を戻ることに。
「あ! 伊織!」
気が付いた信の声が車から聞こえたけれど、振り向かなかった。
『ごめんなさい!』
心の中で謝りながら、わき目も振らずにひたすら走った。
がしかし、ベンツが追いかけて来るのがわかった。
「俺の気持ちはどうなるんだよ?!」
窓から放たれる信の声が、罪悪感を募らせる。
それでも、逃げる足は止まらなかった。車道からそれた路地裏に隠れるように走った。
私を見失った信から電話がかかってきていたけど、やっぱりそれも取る事が出来なかった。
ごめんなさい。
どうか、私のことは忘れて。
葉築さんの言うように、こんな風に人の気持ちを蔑ろにする私は、最低な女だ。
ブブブ!
【俺は別れたつもりないからな】
最新の信からのメッセージを見て、余計に逃げたくなった。
もう、今日はアパートに帰るのは無理かもしれない。
足は、再び駅に向かっていた。
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