ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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始まる報復

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    コピーをとってデスクに戻る際、室岡さんと立道のやり取りを静かに見守る葉築さんと目が合った。

  「……」

   でも、それは直ぐにそらされ、私はモヤモヤした気持ちでファイリングを続けた。

    その重い心を、室岡さんの発した言葉が、更に複雑にする。


  「本当は辞令が出るまで黙っておこうと思ったけどな、俺は、もうすぐ飛ばされるんだよ」


   皆が、一斉に支店長席に視線を集中させた、


    え、今、なんて?


  「この前の緊急な会議は、来期からの人事編成に伴う話し合いだったんだ。四月からは葉築が支店長になる。営業マンとしての戦力ではなくなるんだよ。だから立道には現場の人間としていてもらわなきゃ困るって事」


   思わぬ人事の話で、より一層皆がざわざわとしていた。


   室岡さんがいなくなって、葉築さんがここの長になるーーー


   どよめく社員達をよそに、葉築さんだけが黙々と仕事をこなしていた。


    室岡さんにフラれても、さすがに素知らぬ振りを続けていられなくなった荒城さんは、

 「今の話、本当なんですか?? 室岡さんはどこに飛ばされるんですか?!」

   と、立道と二人のところへ割り入っていた。

 「なんだぁ? 聞いてたのか?」

 「皆聞いてますよ!どこに? 浦和支店? それとも広島?!」

   物凄い剣幕で聞いてくるものだから、室岡さんもタジタジになって、

  「さ、佐賀だよ」

   と、答えてしまっていた。

  「さが?」

  「知らないか?九州の佐賀だよ」

  「知ってますよ! えー!! メチャクチャ遠いし田舎じゃないですか!」

  「と言っても国内だから。海外じゃないだけマシさー。ま、俺は英語喋れないからナイだろうがな」

   アハハと呑気に笑う室岡さんだったけど、皆の動揺は半端ない。

   いくら、葉築さんが有能で皆に好かれる人間だとしても、室岡さんほど浸透していないからだ。

    取り敢えず、立道の退職願は本人の懐に一旦おさまった。




  「良かったわね、鷲塚さん」


   朝からずっと、私をシカトしていた荒城さんが嫌味っぽく話しかけてきた。

 「……何が?」

 「新しい男が支店長になったら、鷲塚さんがどんなヘマをしても揉み消してくれるわよ」

   イラっとした。

   葉築さんとの関係が急速に変わってしまった私にとって、新しい人事は不安材料でしかなく、うまく流す事ができなかった。


 「葉築さんとはそんなんじゃないから!」

   そう、きつく返すことしかできなくなった。

 「あ、そ」

   自分に気がある男をそそのかして、私を危険にさらした癖に、それさえもなかった事のように振る舞う同僚……。

   こんな人と、ずっと仕事をしていかなきゃいけない。

   室岡さんがいなくなったら、私はもう、頑張れないかもしれない。

    沈む一方の私のスマホに、葉築さんからラインが届いていた。珍しく写真付きだった。

   開けた途端に、思わず小さな悲鳴が出た。


「……なに、これ……」


   ボサボサの、黒く長い髪の隙間から、白く覇気のない顔を覗かせた女性の画像だった。

   着ているのは、白い着物?

   目を凝らして、ゾッとした。

    閲覧注意画像でイタズラ?

   その写真に、添えられたメッセージは……、


【鷲塚さんが追い詰めた人の今だよ】


   意味が分からなかった。


   その不可解なラインを送った張本人は、外回りで不在。

  【誰なの? 私が追い詰めた人って?】

    震える指で返信する。


    私が過去に誰かを追い詰めたというのなら、一人しかいない。

    ブブブ!

    数分後に返ってきた葉築さんのメッセージを開けて、……そして、ハンマーで頭を殴られたようになる。


  【橋元先生の奥さん、正確には、″ 元 ″ 奥さん。
今、心療病棟に入院中だよ】

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