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link 繋がる過去
獣
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″ モノにしたら……″
それが、どんな意味なのか。
考えたら、昔、見知らぬ男達に襲われそうになった恐怖も蘇ってきて、
「おいっ、逃げるのかよ? 最後まで話聞けよっ!」
自己中な先輩のプライドを傷つけてでも、この場から逃げたかった。
「……離して!」
ドアノブを掴む前に、立道さんに腕を取られる。
「荒城は結局、自分より他の女が好かれる事が気に入らないんだよ! 目をつけた男なら特に! 奥田にしても、支店長にしても。結婚でも何でもいい、アンタが会社から消える事を望んでるんだよ!」
「……そんなことっ」
わざわざ言われなくても分かってる。
荒城さんが、私の事を自分より格下の人間だと思ってることも。
その私が、男性社員と話すだけでイラついてることも。
「そんな身勝手な女の言いなりになって、立道さんは恥ずかしくないんですか?」
睨む私の腕を取ったまま、立道さんの眉間は、ますます脈打っていく。
「俺もあんたのことキライだったから。そうでもないよ」
″ キライ ″ ……
躊躇いもなく、人を平気で傷付ける立道さんは、私を、ドン!と、ドアの方に体ごと押し付けてきた。
「アンタも俺の事、苦手だったでしょ? そういうのってお互いに感じるもんじゃん。だから居なくなってくれて全然構わない」
指がドアノブにぶつけられて、涙が出るほど痛かった。
……でも、
「あんたのやってる仕事も、誰だって出来る事じゃん? だからいつでも辞めてくれていいんだよ。誰も困らないし」
涙が出たのは、痛いからだけじゃなかった。
何で、こんな人にそんな事、言われなきゃいけないの?……悔しい。
「そんな風に泣かれても困る。俺もできたら問題起こしたくないし、会社から去るって約束してくれたら何もしない」
シ……ン、とした事務所内に、パソコンの自動節電の音と、水槽の僅な振動音が不気味に響いている。
何もしないと言いながらも、私をドアと自身の体で押さえつけた立道さんの呼吸は、確実に荒くなっていた。
「泣いてないで何か言え。お前の泣き顔なんか、ちっとも、そそらないんだよ」
″ ブス ″
″ぶっ細工な女″
昔、私の心を窮屈にした言葉が、頭の中でリピートされる。
あの頃は、前向きになろうとする気持ちも、それが全てを削いでしまっていた。
また、繰り返されるの?
もう、私を抱きしめてくれた先生はいないのに。
「おい……今のうちだぞ?……」
十年前、先生が居なかったら、会社で働く今の私は存在しなかったかもしれない。
「……めない」
「……は?」
屈辱的な事を言われても、こんな理不尽な男のせいで会社を去るのはイヤ……。
「そんなに私の事がキライなら、あなたが辞めればいいじゃない」
立道さんこそ、会社の中での自分の存在意義を、ずっと問うている人だと感じていたから。
「きっと、誰も困らないです」
涙を飲み込んで、振り絞るように侮蔑として返した。
「……お、お前も俺の事バカにしてんのか?!」
短気さを露にして、立道さんが私のシャツの胸ぐらを掴む。
「……!」
コワイ。
苦しい。
……でも、私も泣いてばかりだと負けてしまう。
敵わないとわかっていても、ボタンがひちぎれんばかりに力をこめるその手に抵抗の爪を立てた。
「……って!」
シャツと首の間に隙間ができる。
反撃の意は、口からも表した。
「……立道さんを一番、見下してるのは荒城さんですよ?」
途端、カッ!となり、顔を紅潮させた立道さんは、右手で思い切り私の頬を叩く。
パンッ!と、乾いた音が耳に飛び込んできた。
ピリッとした痛みと、口の中に広がる血の味が、
秋祭りの夜を思い出させた。
「……マジで消えろ」
私の体は、赤い目をした獣の体と共に床に崩れ落ちた。
それが、どんな意味なのか。
考えたら、昔、見知らぬ男達に襲われそうになった恐怖も蘇ってきて、
「おいっ、逃げるのかよ? 最後まで話聞けよっ!」
自己中な先輩のプライドを傷つけてでも、この場から逃げたかった。
「……離して!」
ドアノブを掴む前に、立道さんに腕を取られる。
「荒城は結局、自分より他の女が好かれる事が気に入らないんだよ! 目をつけた男なら特に! 奥田にしても、支店長にしても。結婚でも何でもいい、アンタが会社から消える事を望んでるんだよ!」
「……そんなことっ」
わざわざ言われなくても分かってる。
荒城さんが、私の事を自分より格下の人間だと思ってることも。
その私が、男性社員と話すだけでイラついてることも。
「そんな身勝手な女の言いなりになって、立道さんは恥ずかしくないんですか?」
睨む私の腕を取ったまま、立道さんの眉間は、ますます脈打っていく。
「俺もあんたのことキライだったから。そうでもないよ」
″ キライ ″ ……
躊躇いもなく、人を平気で傷付ける立道さんは、私を、ドン!と、ドアの方に体ごと押し付けてきた。
「アンタも俺の事、苦手だったでしょ? そういうのってお互いに感じるもんじゃん。だから居なくなってくれて全然構わない」
指がドアノブにぶつけられて、涙が出るほど痛かった。
……でも、
「あんたのやってる仕事も、誰だって出来る事じゃん? だからいつでも辞めてくれていいんだよ。誰も困らないし」
涙が出たのは、痛いからだけじゃなかった。
何で、こんな人にそんな事、言われなきゃいけないの?……悔しい。
「そんな風に泣かれても困る。俺もできたら問題起こしたくないし、会社から去るって約束してくれたら何もしない」
シ……ン、とした事務所内に、パソコンの自動節電の音と、水槽の僅な振動音が不気味に響いている。
何もしないと言いながらも、私をドアと自身の体で押さえつけた立道さんの呼吸は、確実に荒くなっていた。
「泣いてないで何か言え。お前の泣き顔なんか、ちっとも、そそらないんだよ」
″ ブス ″
″ぶっ細工な女″
昔、私の心を窮屈にした言葉が、頭の中でリピートされる。
あの頃は、前向きになろうとする気持ちも、それが全てを削いでしまっていた。
また、繰り返されるの?
もう、私を抱きしめてくれた先生はいないのに。
「おい……今のうちだぞ?……」
十年前、先生が居なかったら、会社で働く今の私は存在しなかったかもしれない。
「……めない」
「……は?」
屈辱的な事を言われても、こんな理不尽な男のせいで会社を去るのはイヤ……。
「そんなに私の事がキライなら、あなたが辞めればいいじゃない」
立道さんこそ、会社の中での自分の存在意義を、ずっと問うている人だと感じていたから。
「きっと、誰も困らないです」
涙を飲み込んで、振り絞るように侮蔑として返した。
「……お、お前も俺の事バカにしてんのか?!」
短気さを露にして、立道さんが私のシャツの胸ぐらを掴む。
「……!」
コワイ。
苦しい。
……でも、私も泣いてばかりだと負けてしまう。
敵わないとわかっていても、ボタンがひちぎれんばかりに力をこめるその手に抵抗の爪を立てた。
「……って!」
シャツと首の間に隙間ができる。
反撃の意は、口からも表した。
「……立道さんを一番、見下してるのは荒城さんですよ?」
途端、カッ!となり、顔を紅潮させた立道さんは、右手で思い切り私の頬を叩く。
パンッ!と、乾いた音が耳に飛び込んできた。
ピリッとした痛みと、口の中に広がる血の味が、
秋祭りの夜を思い出させた。
「……マジで消えろ」
私の体は、赤い目をした獣の体と共に床に崩れ落ちた。
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