ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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青筋

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   やった事もない伝票の処理を手伝うと言った立道さんの意図は不明のまま。
   仕事だけが遅れて、外はすっかり暗くなった。

  「……これ、結構メンドクサイのなぁ。表、もっと見易いのに作り替えたら?」

    ブチブチ言いながら入力をしている立道さんのそばに行き、

  「……あの、あとは明日やるんで、もういいですよ。帰りましょう」

   飲みにも行く気がない事を、さりげなく伝えた。

 「え、帰る? 俺、何の為に、ここに残ってたんだよ?」


   ″ 知らないよ ″

   心の中で悪態つきながら、

 「ご協力ありがとうございました、助かりました」

   と、うわべだけの御礼を言った。

   だって、本当に邪魔されただけなんだもの。

   けれど、鈍感なのか、本物の自己中なのか、

  「飲みが嫌なら、飯かカラオケだけでもいいから行こうぜ」

   立道さんは、しつこく誘ってくる。
   もしかして、荒城さんにフラれたんだろうか?

  「本当にお話があるなら、今、ここで聞きます」

    だとしても、他人の恋沙汰の相談のために疲れた体で出掛けたくない。
   私は、頑なに外で会うことを拒んだ。

   すると、調子よく笑っていた立道さんの顔に、だんだんと苛立ち染みたものが現れてきた。

    男の人の眉間の青筋は、短気の象徴だとも言われている。

   それが、ピクピクと生き物のように動いていた。


 「話なんて、本当は何もないんだよ」


    元々、慕っている先輩でもないし、可愛がって貰った事も、仕事をちゃんと教わった事もない。

    その男性が、目の前で、とてもコワイ顔をして立っている。
   これだけで恐怖……。


  「……話がない? 本当にカラオケとか遊びたかっただけなんですか?」

    それが、よりによって何で私?

    その問いも、直ぐに、自分中心の先輩によって遮られる。


  「お前みたいな女と遊びたいわけねーだろ」

    ……私がこの人をずっと苦手だったのは、荒城さん同様、人を見下したような目をしているからだ。


  「なんか、どうでも良くなってきた。もう正直に言うわ」

  その上、

 「お前をモノにしたら、荒城が、俺と付き合ってもいいって言ったんだよ」

    他人の自尊心というものを、あまりにも軽く見ているから。

「……何……勝手な話をしてんですか?」

   ″ 何となくコワイ″ ……を、本物の恐怖に変えられた私は、荷物も持たずに事務所の出入口へ向かった。
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