38 / 134
trap 罠
過去
しおりを挟む
私が信のことを本気で好きだったなら、恐らく、葉築さんの誘いには乗らなかった。
きっと、流されなかった。
始めから、私は信と結婚する資格なんてなかった。
ーー先生。
私は、やっぱり、まだ、心の何処かで、貴方を引きずってるのかもしれない。
ーーーー
高校に入学して半年たった頃。
六時間目の、うだるような暑さの教室に、安全委員会で集まった。
その日は、秋祭りの安全取締役を決める話合いをしてた。
「この活動報告、明日までに祭りの実行委員会に提出しなきゃいけないんだよな」
橋元先生が、決まらない話合いに、少しだけイライラしていた。
「と言われても、この役になったら、祭りで遊べないってことじゃん?」
「そんなんさー、教師とPTAだけでやってくれよ」
遊びたい盛りの高校生。
祭りの日に委員会の仕事なんてしたくないのが本音。
「よし、わかった!そんなら俺と腕相撲して負けた奴が係になれ!」
橋元先生の無謀さに全員がブーイング。
「それ、ほとんど全員じゃん!」
「先生の筋肉見てみろよー」
「んー、そうか、なら、ジャンケンな」
結局、子供のような決め方で係になったのは、
「一年の野原くん、鷲塚さんと、二年の江田さん、三年の小田くん!」
私を含めた四人の薄幸な生徒だった。
その、安全取締役の仕事の内容とはーー
【未成年者は22時までに帰宅しましょう】という光るタスキをかけて先生達と歩き回る……なんとも地味な仕事だった。
そして。祭り当日。
打上花火を終えて、出店だけが楽しみになる時間帯。
学校の生徒だけでなく、未成年者らしき子を見つければ、先生達と一緒に注意しに行っていた。
「そろそろ9時50分です。夜道に注意して帰宅してください」
見るからに悪そうな子達にも、蛍光のリストバンドを渡して帰路を促さなくてはいけない。
けれと、それは男子にお任せして、 私は、ほぼ声を発しなかった。
「は? 誰に口きいてんだよ?」
悪そうな男の子達は、同じ学年の野原くんをド突いて倒した。
「野原くん!」
後方で別グループに注意していた橋元先生が、 騒ぎに気が付き飛んできて、
「おい、どこの学校の生徒だ? 」
彼らを抱き抱えるようにして、祭りの詰所へ連行していく。
それも軽々と、猫でも抱っこするように。
「やめろっ!オッサン!気持ちわりー!」
その時は、注意換気だけで特に大きな事にはならなかったのだけど……。
「え、鷲塚さんとこ、お迎え来ないの?」
委員会の実行メンバーは、それぞれ保護者が迎えに来ての帰宅、けれど、私はそうはいかなかった。
「うん、お母さん、夜もパートだから」
その日、母はスーパーの夜間レジが抜け出せなくて、私は1人で電車で帰ることに。
「橋元先生に言えば送ってもらえるんじゃない?」
先輩達に言われて詰所にいる先生の方を見たら、どうやら補導警官と口論になっているらしく、それどころじゃなさそうだった。
「うちの車に乗る?」「大丈夫です」
皆と方角も違うし、同乗も断り、
「お疲れ様でしたー」
そのまま、人混みを抜けて駅に向かっていた。
それが、いけなかった。
きっと、流されなかった。
始めから、私は信と結婚する資格なんてなかった。
ーー先生。
私は、やっぱり、まだ、心の何処かで、貴方を引きずってるのかもしれない。
ーーーー
高校に入学して半年たった頃。
六時間目の、うだるような暑さの教室に、安全委員会で集まった。
その日は、秋祭りの安全取締役を決める話合いをしてた。
「この活動報告、明日までに祭りの実行委員会に提出しなきゃいけないんだよな」
橋元先生が、決まらない話合いに、少しだけイライラしていた。
「と言われても、この役になったら、祭りで遊べないってことじゃん?」
「そんなんさー、教師とPTAだけでやってくれよ」
遊びたい盛りの高校生。
祭りの日に委員会の仕事なんてしたくないのが本音。
「よし、わかった!そんなら俺と腕相撲して負けた奴が係になれ!」
橋元先生の無謀さに全員がブーイング。
「それ、ほとんど全員じゃん!」
「先生の筋肉見てみろよー」
「んー、そうか、なら、ジャンケンな」
結局、子供のような決め方で係になったのは、
「一年の野原くん、鷲塚さんと、二年の江田さん、三年の小田くん!」
私を含めた四人の薄幸な生徒だった。
その、安全取締役の仕事の内容とはーー
【未成年者は22時までに帰宅しましょう】という光るタスキをかけて先生達と歩き回る……なんとも地味な仕事だった。
そして。祭り当日。
打上花火を終えて、出店だけが楽しみになる時間帯。
学校の生徒だけでなく、未成年者らしき子を見つければ、先生達と一緒に注意しに行っていた。
「そろそろ9時50分です。夜道に注意して帰宅してください」
見るからに悪そうな子達にも、蛍光のリストバンドを渡して帰路を促さなくてはいけない。
けれと、それは男子にお任せして、 私は、ほぼ声を発しなかった。
「は? 誰に口きいてんだよ?」
悪そうな男の子達は、同じ学年の野原くんをド突いて倒した。
「野原くん!」
後方で別グループに注意していた橋元先生が、 騒ぎに気が付き飛んできて、
「おい、どこの学校の生徒だ? 」
彼らを抱き抱えるようにして、祭りの詰所へ連行していく。
それも軽々と、猫でも抱っこするように。
「やめろっ!オッサン!気持ちわりー!」
その時は、注意換気だけで特に大きな事にはならなかったのだけど……。
「え、鷲塚さんとこ、お迎え来ないの?」
委員会の実行メンバーは、それぞれ保護者が迎えに来ての帰宅、けれど、私はそうはいかなかった。
「うん、お母さん、夜もパートだから」
その日、母はスーパーの夜間レジが抜け出せなくて、私は1人で電車で帰ることに。
「橋元先生に言えば送ってもらえるんじゃない?」
先輩達に言われて詰所にいる先生の方を見たら、どうやら補導警官と口論になっているらしく、それどころじゃなさそうだった。
「うちの車に乗る?」「大丈夫です」
皆と方角も違うし、同乗も断り、
「お疲れ様でしたー」
そのまま、人混みを抜けて駅に向かっていた。
それが、いけなかった。
1
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる