ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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trap 罠

過去

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    私が信のことを本気で好きだったなら、恐らく、葉築さんの誘いには乗らなかった。

    きっと、流されなかった。

    始めから、私は信と結婚する資格なんてなかった。



    ーー先生。


     私は、やっぱり、まだ、心の何処かで、貴方を引きずってるのかもしれない。


ーーーー



    高校に入学して半年たった頃。

    六時間目の、うだるような暑さの教室に、安全委員会で集まった。

    その日は、秋祭りの安全取締役を決める話合いをしてた。

 「この活動報告、明日までに祭りの実行委員会に提出しなきゃいけないんだよな」

    橋元先生が、決まらない話合いに、少しだけイライラしていた。

  「と言われても、この役になったら、祭りで遊べないってことじゃん?」

 「そんなんさー、教師とPTAだけでやってくれよ」

    遊びたい盛りの高校生。
    祭りの日に委員会の仕事なんてしたくないのが本音。


  「よし、わかった!そんなら俺と腕相撲して負けた奴が係になれ!」

   橋元先生の無謀さに全員がブーイング。

 「それ、ほとんど全員じゃん!」
 「先生の筋肉見てみろよー」
 「んー、そうか、なら、ジャンケンな」

   結局、子供のような決め方で係になったのは、

  「一年の野原くん、鷲塚さんと、二年の江田さん、三年の小田くん!」

    私を含めた四人の薄幸な生徒だった。


   その、安全取締役の仕事の内容とはーー

 【未成年者は22時までに帰宅しましょう】という光るタスキをかけて先生達と歩き回る……なんとも地味な仕事だった。




    そして。祭り当日。

    打上花火を終えて、出店だけが楽しみになる時間帯。
    学校の生徒だけでなく、未成年者らしき子を見つければ、先生達と一緒に注意しに行っていた。

 「そろそろ9時50分です。夜道に注意して帰宅してください」


     見るからに悪そうな子達にも、蛍光のリストバンドを渡して帰路を促さなくてはいけない。
けれと、それは男子にお任せして、 私は、ほぼ声を発しなかった。

  「は? 誰に口きいてんだよ?」

    悪そうな男の子達は、同じ学年の野原くんをド突いて倒した。

  「野原くん!」

    後方で別グループに注意していた橋元先生が、 騒ぎに気が付き飛んできて、


  「おい、どこの学校の生徒だ? 」

    彼らを抱き抱えるようにして、祭りの詰所へ連行していく。
  それも軽々と、猫でも抱っこするように。

  「やめろっ!オッサン!気持ちわりー!」


    その時は、注意換気だけで特に大きな事にはならなかったのだけど……。




  「え、鷲塚さんとこ、お迎え来ないの?」

    委員会の実行メンバーは、それぞれ保護者が迎えに来ての帰宅、けれど、私はそうはいかなかった。

  「うん、お母さん、夜もパートだから」

    その日、母はスーパーの夜間レジが抜け出せなくて、私は1人で電車で帰ることに。

  「橋元先生に言えば送ってもらえるんじゃない?」

    先輩達に言われて詰所にいる先生の方を見たら、どうやら補導警官と口論になっているらしく、それどころじゃなさそうだった。

  「うちの車に乗る?」「大丈夫です」

    皆と方角も違うし、同乗も断り、

  「お疲れ様でしたー」

   そのまま、人混みを抜けて駅に向かっていた。

   それが、いけなかった。




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