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frustration 挫折と屈辱
増える不安
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二回目の行為が終わり、葉築さんはゆっくりと起き上がると、ブラインドの隙間から外を眺めた。
「東京タワーってやっぱり良いよなぁ。見てて落ち着く」
「……そうね、スカイツリーは、なんだか日本のモノじゃないみたいだもの」
私も、彼の背中から、遠くに輝く東京タワーを見る。
以前よりも罪悪感が薄くなったせいか、そのオレンジ色の灯りが、とてもきらびやかに映った。
「眩しすぎる……」
シャツを脱いだまま、上半身裸の葉築さんの背中に顔を押し付けると、くすぐったそうに振り返って私を抱き締めた。
まさか、社内でこんな風に抱き合う相手が現れるなんて思ってもなかった。
……運命のようなものを感じる。
「葉築さん」
「ん?」
「どうして、この支社に赴任してこようと思ったの?」
会議室で聞いた、自ら手を上げてここに来たという話。
千葉に彼女がいるのにもかかわらず、だ。
「……それは」
葉築さんが答えようとしたその時、
「やだー、やっぱりスマホここに忘れてた!!」
誰かが事務所に戻ってきた。
扉が開き、コツコツと細いヒールの床を鳴らす音が私の心臓を脅かした。
今の声、……荒城さん?
さっき鳴っていたの彼女のスマホだったんだ。
他人の目をあまり気にしないはずの葉築さんも自然と息を潜めていた。
騒がしい荒城さんに見つかるのはマズイと思ったからだろう。
抱き合ったまま、彼女が帰るのを待っていた。
「え、やだ、こんなところに靴?!」
それなのに。
葉築さんに脱がされ、そのままにしていた靴を、荒城さんが見つけてしまったようだ。
私のデスクのところに脱いであったし、見覚えもあったんだろう、荒城さんが、
「鷲塚さん、まだいるの?!」
会議室の方に向かって呼び掛けた時には、こっちも悲鳴を上げたくなった。
痴漢よりも怖い。
観念したように、葉築さんがシャツを着て、髪を整えながら会議室から出ていく。
私も乱れていた服を直して、パンストを穿いた。
彼より3分ほど遅れて事務所に戻ると、既に荒城さんの姿はなかった。
「残業中に気分悪くなって、奥のソファーで休んで貰ってるって話したよ」
「え」
「信じたかどうか分かんないけどね」
葉築さんは、
「今日も良かったよ、秘密だと思えば思うほど、お互いに感じ合う」
情事の感想をどこか客観的に言い、私の靴を綺麗に並べて私の足元に置いた。
それを履きながら、何となく胸が苦しくなった。
私は、もう、秘密にしておく必要はなくなるかもしれないのに。
「帰ろう、それとも何処か飯でも食いに行く?」
「……ううん、大丈夫」
スッキリした顔をして身支度をする葉築さんと反して、私の心はモヤモヤしていた。
ーーその夜。
信から電話がかかってきて、それを取らずにいるとメッセージが入ってきた。
【結婚しないってのは、俺を侮辱したのと同じ事だ】
また違う怖さに、不安は募った。
「東京タワーってやっぱり良いよなぁ。見てて落ち着く」
「……そうね、スカイツリーは、なんだか日本のモノじゃないみたいだもの」
私も、彼の背中から、遠くに輝く東京タワーを見る。
以前よりも罪悪感が薄くなったせいか、そのオレンジ色の灯りが、とてもきらびやかに映った。
「眩しすぎる……」
シャツを脱いだまま、上半身裸の葉築さんの背中に顔を押し付けると、くすぐったそうに振り返って私を抱き締めた。
まさか、社内でこんな風に抱き合う相手が現れるなんて思ってもなかった。
……運命のようなものを感じる。
「葉築さん」
「ん?」
「どうして、この支社に赴任してこようと思ったの?」
会議室で聞いた、自ら手を上げてここに来たという話。
千葉に彼女がいるのにもかかわらず、だ。
「……それは」
葉築さんが答えようとしたその時、
「やだー、やっぱりスマホここに忘れてた!!」
誰かが事務所に戻ってきた。
扉が開き、コツコツと細いヒールの床を鳴らす音が私の心臓を脅かした。
今の声、……荒城さん?
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抱き合ったまま、彼女が帰るのを待っていた。
「え、やだ、こんなところに靴?!」
それなのに。
葉築さんに脱がされ、そのままにしていた靴を、荒城さんが見つけてしまったようだ。
私のデスクのところに脱いであったし、見覚えもあったんだろう、荒城さんが、
「鷲塚さん、まだいるの?!」
会議室の方に向かって呼び掛けた時には、こっちも悲鳴を上げたくなった。
痴漢よりも怖い。
観念したように、葉築さんがシャツを着て、髪を整えながら会議室から出ていく。
私も乱れていた服を直して、パンストを穿いた。
彼より3分ほど遅れて事務所に戻ると、既に荒城さんの姿はなかった。
「残業中に気分悪くなって、奥のソファーで休んで貰ってるって話したよ」
「え」
「信じたかどうか分かんないけどね」
葉築さんは、
「今日も良かったよ、秘密だと思えば思うほど、お互いに感じ合う」
情事の感想をどこか客観的に言い、私の靴を綺麗に並べて私の足元に置いた。
それを履きながら、何となく胸が苦しくなった。
私は、もう、秘密にしておく必要はなくなるかもしれないのに。
「帰ろう、それとも何処か飯でも食いに行く?」
「……ううん、大丈夫」
スッキリした顔をして身支度をする葉築さんと反して、私の心はモヤモヤしていた。
ーーその夜。
信から電話がかかってきて、それを取らずにいるとメッセージが入ってきた。
【結婚しないってのは、俺を侮辱したのと同じ事だ】
また違う怖さに、不安は募った。
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