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frustration 挫折と屈辱
残業
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外回りから戻ってきた私達を、不審な目で見ていたのが荒城さんだ。
「葉築さん、なんで鷲塚さんだったの?」
営業のアシスタントといえば、荒城さんの出番だった為、腑に落ちないのもわかる。
それを露にした質問には、
「鷲塚さんなら疲れないと思ったからだよ。客先ででしゃばる事もないし」
葉築さんは、面倒くさそうに答えてた。
「なにそれ、私がそうだったって意味?」
内心、ヒヤヒヤしてそれを聞いていた私の背後から、室岡支店長が割って入ってきた。
「営業マンと補佐の相性って大切だからな。荒城ちゃんみたいに気の効いた子なら、ちょっとパフォーマンスの薄い営業マンが合うんだよ。例えば、立道みたいなさ」
そのフォローには、遠くにいた立道さんが複雑な顔をしていた。
荒城さんはスネたような顔をして、
「お疲れ様でした!」
6時の定時で上がって行った。
「鷲ちゃん、残業は無理する事ないんだぞ?」
時期的に多忙でない中、残業する営業マンはいない。
契約を取ってきた葉築さんと、そのお手伝いをした私だけが事務所に残っていた。
「室岡さんもたまには早く帰ってくださいよ。俺らを待ってたら遅くなっちまいますよ」
葉築さんが、時計を見ながら、室岡さんに退社を促す。
「そーか? 悪いな。今夜は姪っ子の誕生日会に呼ばれてんだ。プレゼントを買って行かなきゃいけなくて」
「姪っ子って何歳ですか?」
「三歳、もぉ、めっちゃ可愛いんだよ! 俺のことをさー、″ オジタン ″ って呼ぶんだ」
「可愛いっすね。室岡さんの嫁さんに貰ったらいいじゃないですか」
「アホー~! 禁断の愛になるだろうが! じゃな!鷲ちゃん!」
「はい、お疲れ様でした」
デレデレの上司を見送ったら、オフィスは、シ……ンとしてしまった。
パチパチ、と電卓を弾く音やキーボードを叩く音が響く中、普段は聞こえない水槽のろ過器の音まで耳に入ってくる。
発注書のフォームに、葉築さんが打ち出した数字を入力しながら、ふと、彼の部屋にあった写真の女性と子供の事を思い出した。
「葉築さんて、キョウダイいる?」
彼にも可愛がる姪っ子や甥っ子がいたりするのかな、なんて、そんな軽い気持ちで聞いた。
すると、彼が、「……いるよ、なんで?」 パソコン画面から目を離して私の方を見た。
「……特に意味はないけど、何となくお姉さんがいそうだなって……」
適当ではあったけど、あの写真の女性はお姉さんなのかなって……。
「俺に女キョウダイはいないよ」
″ 女キョウダイはいない ″ ーー。
そう言った葉築さんの声がとても低くて、ちょっと怖くて。何も返せずにいると、
「……終わった? 発注書」
彼が立ち上がって、私のデスクに近づいてきた。
「あ、はい。あと、このNITTANの分で終わり……」
パソコンの画面を見せようとしたら、すぐそばに白い肌があって、頬と頬が軽くぶつかった。
それくらい近い。
「速いね、入力」
……ドキドキする。
「コレばっかりやってるんで」
また、始まる予感がするから。
「じゃ、もう仕事は終わりな」
私が、彼に溺れる時間のーーーー
葉築さんは私の椅子を回転させて、しっかりと自分の方に向かせた。
「ここでする? それとも先生みたいにトイレでする?」
「葉築さん、なんで鷲塚さんだったの?」
営業のアシスタントといえば、荒城さんの出番だった為、腑に落ちないのもわかる。
それを露にした質問には、
「鷲塚さんなら疲れないと思ったからだよ。客先ででしゃばる事もないし」
葉築さんは、面倒くさそうに答えてた。
「なにそれ、私がそうだったって意味?」
内心、ヒヤヒヤしてそれを聞いていた私の背後から、室岡支店長が割って入ってきた。
「営業マンと補佐の相性って大切だからな。荒城ちゃんみたいに気の効いた子なら、ちょっとパフォーマンスの薄い営業マンが合うんだよ。例えば、立道みたいなさ」
そのフォローには、遠くにいた立道さんが複雑な顔をしていた。
荒城さんはスネたような顔をして、
「お疲れ様でした!」
6時の定時で上がって行った。
「鷲ちゃん、残業は無理する事ないんだぞ?」
時期的に多忙でない中、残業する営業マンはいない。
契約を取ってきた葉築さんと、そのお手伝いをした私だけが事務所に残っていた。
「室岡さんもたまには早く帰ってくださいよ。俺らを待ってたら遅くなっちまいますよ」
葉築さんが、時計を見ながら、室岡さんに退社を促す。
「そーか? 悪いな。今夜は姪っ子の誕生日会に呼ばれてんだ。プレゼントを買って行かなきゃいけなくて」
「姪っ子って何歳ですか?」
「三歳、もぉ、めっちゃ可愛いんだよ! 俺のことをさー、″ オジタン ″ って呼ぶんだ」
「可愛いっすね。室岡さんの嫁さんに貰ったらいいじゃないですか」
「アホー~! 禁断の愛になるだろうが! じゃな!鷲ちゃん!」
「はい、お疲れ様でした」
デレデレの上司を見送ったら、オフィスは、シ……ンとしてしまった。
パチパチ、と電卓を弾く音やキーボードを叩く音が響く中、普段は聞こえない水槽のろ過器の音まで耳に入ってくる。
発注書のフォームに、葉築さんが打ち出した数字を入力しながら、ふと、彼の部屋にあった写真の女性と子供の事を思い出した。
「葉築さんて、キョウダイいる?」
彼にも可愛がる姪っ子や甥っ子がいたりするのかな、なんて、そんな軽い気持ちで聞いた。
すると、彼が、「……いるよ、なんで?」 パソコン画面から目を離して私の方を見た。
「……特に意味はないけど、何となくお姉さんがいそうだなって……」
適当ではあったけど、あの写真の女性はお姉さんなのかなって……。
「俺に女キョウダイはいないよ」
″ 女キョウダイはいない ″ ーー。
そう言った葉築さんの声がとても低くて、ちょっと怖くて。何も返せずにいると、
「……終わった? 発注書」
彼が立ち上がって、私のデスクに近づいてきた。
「あ、はい。あと、このNITTANの分で終わり……」
パソコンの画面を見せようとしたら、すぐそばに白い肌があって、頬と頬が軽くぶつかった。
それくらい近い。
「速いね、入力」
……ドキドキする。
「コレばっかりやってるんで」
また、始まる予感がするから。
「じゃ、もう仕事は終わりな」
私が、彼に溺れる時間のーーーー
葉築さんは私の椅子を回転させて、しっかりと自分の方に向かせた。
「ここでする? それとも先生みたいにトイレでする?」
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