ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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frustration 挫折と屈辱

痴漢

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   母を家に送ったあと、日曜日だというのに、私は、葉築さんにメッセージを送ってしまった。


   彼は、千葉の彼女とデート中かもしれないのに。

   それくらい、自分招いた最悪の結果を、誰かに ″ 間違ってない ″ と言って欲しかった。



  【近いうちに会えますか?】


   それに対する返事は、直ぐには来なかった。




   葉築さんから返事が来たのは、月曜日の朝だった。

 【おはよう 遅くなってごめん。昨日、親の顔合わせって言ってなかった?】

    結婚へと前進してることは常々、メッセージとかでも話してた。

    結婚するまで、お互いの刺激になればーー

    そんな感じの関係だから、結婚してしまえば終わりだったし、私がフリーになっても、葉築さんには、重荷になる女かもしれない。

    だから、プロポーズを今更断ったことは話さなかった。

 【結婚は、ちょっと先延ばしになるかもしれない】

    嘘とまでいかなくても、可能性が無いに等しい返事をした。


 【そっか。 とりあえず会社で】


   ″ 会えませんか? ″
   なんて、聞かなくても、会社に行けば会える。

  ……だから、私は辞めたくなくなったのかな?




 「おはよ」

   朝の満員電車。
   聞き覚えのある声に振り向くと、

 「珍しく一緒の車両だね」

   吊革に掴まる葉築さんがいた。

  「おはようございます……」

     会いたかった顔がすぐそばにあるのに、照れくさくて前を向いた。

  「今日、いつもに増して多くない?」

  「そうですね、雨のせい?」

    ぎゅうぎゅうの車内は、大学近くでもあり、サラリーマンよりも学生さんが多いような気がする。

    秋だけど、まだ暖房は要らないんじゃないかと思うほど、湿気でベタベタしてて、この密集具合が気持ち悪かった。


  「昨日、なんか問題あったの?」

  「!」

    背後から、葉築さんが息を吐くように耳元で問いかけてきた。
    いちいちゾクっとさせる。


 「……まぁ、仕事の事とかでちょっと……」

 「やっぱり、薔薇園を継ぐのは厳しい?」

 「……正直いうと……」

 「ふぅん、で、昨日は、シたの?」

 「え、?!」


    いくら小声とはいえ、周りにこんなに人がいるのに、そんなこと聞く?
    しかも、

  「挿れるだけのやつ、シた?」

    なんだか、バカにされたような感じ。

   「……」

    ちょっとムッときてシカトしていたら、

   「……!」

    冷たい手が、背後からスカートの中に射し込まれてきた。

  「な、……なに……?」

    再び振り返って葉築さんを睨んだら、子供のようにイタズラな顔をして私を見ていた。

   ″ 痴漢ごっこ ″ 。

    口パクで冗談ぽく言いながら、手は本気で触ってきてた。





 「……信じられない、誰かに見られたらどうするんですか?」

    太ももやらを散々触っていた葉築さんを、電車から降りて咎めるも、

 「だから、誰も俺らなんか見てないって。ましてや悲鳴でも上げない限り、痴漢なんてきっと気付かれない。他人なんてそんなもん」

    あくびれた様子もなく、颯爽と会社に向かって歩いていく。

 「それでも、万が一誰かに見られてたら、本当に警察行きだったかもしれないのに。そうなったら何の得にもならないよ」


    遊びにしても、度が過ぎる。そう言いたかったのに、

  「昨日、シてないんだろうなって俺は確認できて得したけどね」

    いやらしくも満足気な顔をされたら、もう何も言えなくなった。


  「なぁ、今日、一緒に客先に行かない?」

  「……え、一緒に?」

  「そう。試用キャンペーンでディーラー回る時のお手伝いをしてくれればいいよ」

  「そういうのは荒城さんが担当するんじゃないの?」

  「俺からしたら、誰でもいい。……じゃなくて、一緒に車に乗って行くなら伊織がいいって。ただ、それだけ」


    ″ 伊織 ″

    ……とうとう葉築さんの口から、下の名前が出てきた。

 「どう? そっちの仕事が溜まらないなら、お願いしたいし、朝から室岡さんに許可貰うけど」

  「ううん、溜まらない。面白そう。行きたい」

    にやけそうな顔を抑え、首を横に振ったり縦に振ったりして答えた。

  「伊織から、 まさか仕事の面で ″ 面白そう ″ が出るとは……」

「何か変?」

「いや。そんなことない。……よっしゃ! 決まり。今日は楽しくなりそうだな」

   軽い足取りで会社に向かう葉築さんの背中を追う。

    サラリーマンや学生の人混みの中、何度か見失いそうになった。

   歩くの速い。

   今日は特に。


    ……ねぇ。

    浮気相手だからこそ、出かけるだけでワクワクするの?

    私に聞いてきたけど、あなたこそ、昨日、彼女を抱いてきたんでしょ?


    心の中でだけ、彼にたずねた。

   ……絶対に嫌われたくなかったから。

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